「とちる」
「とちり」
「とちる」とは、失敗やミスすることを指して一般にも使われていますよね。
演劇界では、浄瑠璃や歌舞伎の世界で古くから用いられていた言葉であり、
一般と同じような意味で、芝居や演技、出ハケなどを間違えてしまうことを指して用いられます。
例えば、きっかけよりも遅れて出てしまうことを「出トチ」、
逆に早く登場してしまうことを「早トチリ」と言います。
俳優にとって、舞台へ登場するのは最も緊張する瞬間なのです。
この「とちる」という言葉は、「とちめく」という古い言葉が語源です。
「とち」とは、樹木のトチノキ(栃の木)の実であり、
渋抜きして食用に用いられる「栃の実」のことです。
この栃の実から作る栃麺(蕎麦に似た食べ物)は、
手早く伸ばさないとすぐに固まってしまうために急いで作らなければならず、
その栃麺を作る様子のせわしなさから、
「慌てる」「うろたえる」といった意味を表す「とちめく」という言葉ができ、
それがやがて現在の「とちる」に変化していったようです。
ちなみに、栃麺を作るときに
麺棒で忙しく栃の実を伸ばしている様子を「栃麺棒をふるう」と言い、
これが現在の「面食らう」という言葉の語源になっています。
また、劇場で一番見やすい席のことを「とちり」と呼びます。
これは、歌舞伎小屋では前から7、8、9列目が一番見やすい席とされ、
当時、席の列を「いろはにほへとちりぬる・・」で表していたため、
7、8、9列目が「と・ち・り」であることから来ています。
また、芝居を見やすい席は
演技上の「とちり」も見やすいという意味も含まれているとも言われます。
つまり、芝居が見やすい席は「とちり」も見やすい席・・・
俳優にとっては怖い席ですね。