「羽二重」(はぶたえ)
羽二重とは、よりのない生糸で平織りにした、あと練りの絹織物のことです。
礼服や高級な着物の裏地などに使われる織物なのですが、
演劇の世界では、鬘(かつら)をかぶるときの下地として使われており、
「羽二重」と言えば、この「かつら下羽二重」のことを指す場合がほとんどです。
女性で和式の結婚式を挙げた方なら、おそらく日本髪のかつらを被られたことと思いますが、
その時まず頭に巻いた布が羽二重です。
また、時代劇を例に挙げれば、ちょんまげは頭部正面が剃られていますが、
もちろん俳優が本当に剃っているわけではなく、
さも地肌のように見えるメイクをした羽二重を頭に付けているのです。
つまり、かつらは頭に直接かぶるのではなく、
まずこの羽二重をかぶり、かつらはその上からということです。
羽二重の色は、一般に紫色が有名ですが、女性は黒色を使うことが多く、
男性が昔の日本の髪型をする場合、
月代(さかやき)という禿げている(剃っている)部分があるため、肌色の羽二重を使うのが基本になります。
ですから、男の俳優が羽二重をしてかつらを被っていない段階では、ぱっと見つるっ禿の状態に。
かつらを使う演目でも、かつらをかぶるのは衣装やメイクが終わった最後になるので、
開演前の楽屋では多くの俳優がこの状態でウロウロと・・・なかなか壮観な眺めになっています。
上の写真のように、舞台で使うかつら下の羽二重は、布に紐が2本ついている形です。
これを、被る本人は髪をまとめ上げ、別のもう1人が後ろから被せるように装着していきます。
そして紐を頭の回りをぐるっと回し、鬢付け油を塗って固定し、
飛び出ている髪や紐をまとめると完成です。
羽二重は非常にきつく被りますし、鬢付け油を塗りたくるため、
しばらくすると頭がかゆくなるのですが、掻くことはできないのが辛いところです。
このように文章に書くと簡単そうですが、慣れるまではなかなか上手くつけられないものです。
そんなときの有名な裏技として、髪をまとめるためにネットを使うという方法があります。
ネットは、羽二重を取り扱っているお店ならまず置いてあると思いますが、医療用のものなどでも構わないと思います。
また、ちょんまげのかつらの時、羽二重に剃り上げの青白いメイクをすることもありますが、
普段使っているドーランでは、なかなか難しいものです。
そんなときは、ビリヤードのキュー先に付けるような青いチョークを使うと実に良い色に。
とは言っても、俳優の皆さん。ビリヤード店から失敬してはいけませんよ〜