「緞帳」(どんちょう)
劇場で舞台の最も客席側にあり、お客様の目から舞台を隠し、
舞台と客席を区切る、大きな上下する幕を「緞帳」と言います。
左右に開閉する、歌舞伎の「定式幕」などの引き幕と対照的に、
上下に開閉する垂れ幕なのが緞帳の特徴です。
江戸時代には、お上(幕府)から興行を許可された座のみが「定式幕」をも使用することが許されました。
公認されていない芝居小屋では、引き幕を使うことも許されず、そこで生まれたのが「緞帳」です。
ですから当時は、定式幕がかかっていた芝居や、そこに出ていた役者のことを、
「緞帳芝居」「緞帳役者」などと言って格下扱いしていたそうです。
この緞帳は、大きい物だと総重量が1トンを超すこともある重い幕です。
また、手織の物は複数の職人が長い期間かけて仕上げるため
大変高価なものもあり、中には何千万円というものも。
現在では、開演前や幕間(休憩中)にお客様の目を楽しませるため、
風景など様々な絵柄を模した緞帳も数多く見られます。
例えば、西陣綴で有名な綴織(つづれおり)で織り上げられた
「綴織緞帳」という緞帳は日本独自の幕としても有名です。
他にも、友禅織の「友禅緞帳」や、刺繍を施す「フック緞帳」など、
いろいろな趣向が凝らされた様々な緞帳が、全国各地に存在します。
また最近の大劇場では、広告が織り込まれた緞帳も見かけますね。
また、洋風の舞台で使われる、ふわふわした感じのヒダがある緞帳は
「絞り緞帳」(しぼりどんちょう)と言い、元来の緞帳と併設している劇場がほとんどです。
絞り緞帳は、幕の裏側にワイヤーを通すことでヒダを実現しているため、
ワイヤーの巻き上げ方で、緞帳の上げ方(幕の絞り方)に変化をつけることができるようになっています。
ちなみに、ヒダがあり舞台の最前面にある幕といえばオペラ・カーテンがありますが、
こちらは左右に割れて開くので、「引き割り幕」の一種になります。
しかし現在では、引き幕であっても、
舞台最前面にある大きな幕のことを「引き割り緞帳」と呼ぶようになってきています。
元々、緞帳は上下に開閉する幕のことを指すので、
引き割り幕なのに緞帳と呼ぶのは誤りなのですが、
お上の許可という面で引き幕と緞帳を差別する意味がなくなった現在、
言葉の方も混同して使われるようになってきたのかもしれませんね。