「バックボーン」(Backbone)
バックボーンとは、基本的には英語で背骨のことです。
転じて背骨に似たような物をも表し、近年はネットの基幹となる通信回線のことを指して使われますね。
ここで取り上げているのは、日本語として用いられている、
人の生き方や思想・信条などを成立させる、その人の背景というような意味合いの「バックボーン」です。
俳優にとっては、与えられた役柄のそれまでの人生を捉え、
人物像を想定していくというのが非常に大事な作業になります。
つまり、その人物のバックボーンをどこまで築き上げられるかが、
実際に演じる際、リアリティや存在感を出せるかどうかにかかってくるわけです。
しかし、台本に役柄の詳しい情報が書かれていることはなく、台本から得られる情報はごくわずか。
そこで俳優は台本にある情報を元に、取材をしたり勉強をしたり、
人物の生い立ちからを考えてみたり、行間を読んだりしながら、一つの役を作りあげていくのです。
こうした努力は、実際に演じることとは直接に関係がないため、
一見無駄な労力に思えるかもしれません。
しかし、人は自分の心でさえ理解していないことを、
他人の共感を得られるように表現することは到底できないものです。
これは、人を殺したことがないから殺人者の心理は理解できない、ということではありません。
その殺意に至ってしまった思考や心の動きを、
自分の心の中に見つけることができるか、ということです。
他にも、例えばお酒を飲めないのに酔っぱらいの演技が上手な俳優なども、
単に体の動きや台詞回しが上手いだけではなく、
酔った時の心のぶれや、酔っぱらいになった理由などを自分の心と身体で理解し、
それを表現することができるからこそ、他人が観ても感心できる酔っぱらいになるわけです。
「俳優は自分自身を探す旅人である」という名文句があります。
つまり、俳優は他人を演じることで、他人のバックボーンを理解しようとし、
やがては自分の中に他人を見つけ、そしてそれは自分自身であることにも気づいていくのです。