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ASUKA×ASUKA
作 中藤和晃
 



登場人物

飛鳥 薫(あすか かおる)男性/女性
普通の人
このお芝居の中では警察官だが、事件をきっかけに私立探偵になる


杉本 明日香(すぎもと あすか)女性
天然系どっかん娘。
トラブルメーカー。
将来の夢は「マッドサイエンティスト」
マッドな発明品を得意とする。
一人称「あすか」


アナウンス(声のみ)


アバン

飛鳥 「私の名前は、飛鳥薫。現在探偵を生業としている、ごく普通の一般人。そして、今、大変な悩みを抱えている。それは、最近出会った『知人』について…。『友達』ではなく、あえて『知人』と呼ばせて頂くのは、『友人』とは絶対に思いたくないから…。」

明日香 「私の名前は、杉本明日香。将来『マッドサイエンティスト』を目指す、ごく普通の一般人。そして、今、とってもハッピィーです!それは、最近出会った『親友』のこと。『友達』ではなく、あえて『親友』と呼ばせて頂くのは、『友人』とは絶対に思いたくないから!
     
二人 「その人の名は、あすか。2003年2月15日(※公演日)」

明日香 「私の『人生最良の出会い』はこうして始まった!」

飛鳥 「私の『人生最悪の出会い』はこうして始まった…。」


明日香が飛鳥を見つけ間合いを詰める。
それに気付き逃げる飛鳥。
一頻り逃げて、二人退場しあたりは暗闇に包まれる。

OP曲流れて…
場面は変わり、そこは超高層ビルのロビー。
いるのは花束を持った飛鳥薫と大きなカバンを持っている杉本明日香の二人。
無邪気に外を見ながらはしゃいでいる明日香と、
壁にもたれその様子を怪訝そうに見ている飛鳥。


AN  「本日は、NIFC、ノース・インターナショナル・ファイナンシャル・センターにお越しくださりまして誠に有難うございます。当ビルは、地上101階、508mという世界最大の高度から広がる大パノラマをお楽しみいただける、世界最大の超高層ビルです。」

明日香 「すご〜い!!」

AN  「また、地上508mまで、毎分750mの速度で上昇し、世界最速のエレベーターとして、ギネスブックにも掲載されております。」

明日香 「へぇ~、そうなんだ。」


何やらメモを取り出している。
その様子を怪訝そうにみる飛鳥。


AN  「それでは、最上階展望ステージ直通エレベーターへご乗車ください。」


エレベーターの扉が開き、乗り込む飛鳥と明日香。
扉が閉まり、しばらくして…。


明日香 「あのぉ〜、すみません」


沈黙を破るかのように、明日香が飛鳥に声をかける。


飛鳥  「はい?」

明日香 「写真、撮ってもらって良いですか?」

飛鳥  「えっ? ココでですか?」

明日香 「はい! …あっ、でも、無神経でしたね…。」

飛鳥  「…?」

明日香 「…自己紹介もしてないのに、こんな事頼むなんて!」

飛鳥  「!?」

明日香 「まずは、自己紹介からはじめましょう☆」

飛鳥  「…。」

明日香 「私の名前は、杉本明日香!将来・マッドサイエンティストを目指す一般人です。座右の銘は『世界征服!』あなたは?」

飛鳥  「飛鳥…薫」

明日香 「あすかさんって言うんですか! 私と同じ☆」

飛鳥  「そうですね。」

明日香 「どんな字を書くんですか?」

飛鳥  「飛ぶ鳥と書いて飛鳥です。」

明日香 「…素敵なお名前ですね」

飛鳥  「はぁ〜」

明日香 「明日香は、あなたの事「あすか」って呼んでも良いですか?」

飛鳥  「ええ、良いですよ」

明日香 「じゃぁ、飛鳥も明日香の事、明日香と呼んでください」

飛鳥  「はい?」

明日香 「だから飛鳥は、明日香の事、明日香って呼ぶの。」

飛鳥  「いや、そんな事したらややこしいですよ…」

明日香 「どうして?」

飛鳥  「いえ、私も飛鳥で、あなたも明日香だったら混乱しません?」

明日香 「誰が? ココには飛鳥と明日香しかいないのに?」

飛鳥  「たしかにそうなんですけど…。」

明日香 「だったら問題ないじゃない。それに、明日香は飛鳥の事、飛鳥と呼びたいの!」

飛鳥  「はぁ、わかりました。」

明日香 「それじゃぁ飛鳥、お願いしますね。」

飛鳥  「はい?」

明日香 「写真!」

飛鳥  「あぁ、良いですけど…、でも、どうして、こんなところで?」

明日香 「だってここ、世界最速のエレベーターの中何でしょう?だったら、自慢できるじゃないですか♪」

飛鳥  「はぁ、そうですね…。」

明日香 「これでお願いします…。」


明日香、飛鳥に何やらカードを渡す。
飛鳥、不思議そうにその物体を見る。


飛鳥  「何ですか? コレ…?」

明日香 「カメラですよ。」

飛鳥  「…どうやって使うんですか?」

明日香 「そこのバンソーコーを剥がすんです。」

飛鳥  「あっ、これを剥がすんですか?」


飛鳥、カードに張られたバンソーコーを剥がす。


明日香 「あぁ! ダメじゃないですか!! 明日香に向けて剥がさないと!」

飛鳥  「えぇ! そうなんですか?」


飛鳥、自分に向けてバンソーコーを剥がしなおす。


明日香 「飛鳥じゃなくて、明日香だよ!」


飛鳥から日光写真を奪い取り、確認する。


明日香 「あ〜あ、もう感光しちゃったじゃないですか…。」

飛鳥  「…すみません。」

明日香 「飛鳥〜、カメラも使った事無いの?」

飛鳥  「いえ、普通のカメラは使ったことあるんですが、このタイプははじめてで…」

明日香 「明日香にとっては、このカメラがフツーなんです!」

飛鳥  「すみません」

明日香 「まったくしょうがないわねぇ〜、飛鳥、もう1つのカメラでお願い。」


明日香が次に出したのは、フツーのレンズ付フィルム。


明日香 「飛鳥、コレならわかる?」

飛鳥  「はい。」


明日香、飛鳥にカメラを渡し、おかしなポーズをとる。


飛鳥  「…本当にそんなポーズで良いんですか?」

明日香 「?」


明日香は何がおかしいのかわからない様子。
何を言っても無駄だと悟る飛鳥。


飛鳥  「それじゃぁ、行きますよ〜、ハイ! チーズ!」

明日香 「飛鳥、何言ってるの!」


いきなり怒鳴る明日香! 何に怒鳴られているか解らない飛鳥。


飛鳥  「はい?」

明日香 「そんな、「はい、チーズ」なんて使い古されたギャグで笑えると思うの?」

飛鳥  「いや、ギャグではなくて、これは合図のつもりで…」

明日香 「言い訳無用! だいたいどうしてチーズなの?同じ乳製品だったら、バターでもヨーグルト良いじゃない!だいたい、チーズの「ズ」の母音は「う」だから、タコのような顔をして笑わせようって魂胆なの?」

飛鳥  「…。」

明日香 「そうだとしても、カメラマンが面白い顔をしたって、カメラ越しで見えるわけが無いじゃない!それだったら、まだ「1+1=2」って言ったほうが論理的じゃない!」

飛鳥  「…。」

明日香 「そうじゃなくて、私が言いたいのは、飛鳥のオリジナリティの無さよ!」

飛鳥  「えっ?」

明日香 「そんな、誰もが使い、古くなったギャグを未だに使っている飛鳥の神経がわからないわ!」

飛鳥  「…だったら、明日香はどういうの?」

明日香 「えっ?」

飛鳥  「明日香だったら、写真を撮る時どう言うの?」


明日香に持っていたレンズ付フィルムを渡す


明日香 「そうねぇ〜、明日香だったら…「2×2÷2=?」


飛鳥、とっさのことについて行けず、考え込む表情になって写真を撮られる。


明日香 「飛鳥〜、どうしてそんな顔してるの〜。」

飛鳥  「えっ? いや、急に数学の問題がでたから…。」

明日香 「今のは、数学じゃないよ、算数だよ! 小学生だってわかる問題なのに…
飛鳥ってひょっとして…アホなの?」

飛鳥  「学がないのは認めるけど…。」

明日香 「そんなことじゃ飛鳥、将来有望な「マッドサイエンティスト」には慣れないよ」

飛鳥  「ならないよ、そんなもん。」

明日香 「えぇ、どうして? 世界征服は人類の夢だと思うのに〜」

飛鳥  「そんな夢を持ってるのは、明日香とちっちゃな子供だけだよ!」

明日香 「へへ、飛鳥に誉められちゃった!」

飛鳥  「誉めてない!」


飛鳥、もう一度カメラを受け取り、構える。


飛鳥  「じゃぁ、いくよ〜、「2÷2×2=?」

明日香 「2!」


明日香の「2」と同時に「ガタン」との音
エレベーターが停止する。


飛鳥  「!?」

明日香 「!?」


飛鳥、あわてて非常ボタンを押す!


飛鳥 「すみません! あの! すみません、すみません!」


しばらくたっても、応答が無い。


明日香 「飛鳥、どうしたの?」

飛鳥  「反応が無いんだ!」

明日香 「飛鳥〜、何か? 悪いことしたの?」

飛鳥  「はい?」

明日香 「飛鳥、さっきから、ずっと謝ってるから…」

飛鳥  「…。」


飛鳥、毒気を抜かれたようにその場に座り込む。


明日香 「どうしたの?」

飛鳥  「何でもない。」


しばらくの沈黙。


明日香 「動かないねぇ〜」

飛鳥  「そうねぇ。」

明日香 「せっかくですし、お話しません?」

飛鳥  「えぇ、良いですよ。」

明日香 「なんの話が良いかなぁ〜。」

飛鳥  「明日香はどうして、ここに来たの?」

明日香 「えっ?」

飛鳥  「女の子が一人で、展望台に上るなんて何かあったのかなぁ〜、と思って。」

明日香 「それは、飛鳥も一緒じゃない?」

飛鳥  「えっ?」

明日香 「飛鳥も、一人で上ってるじゃない!」

飛鳥  「まぁね。」

明日香 「飛鳥は何かあったの?」

飛鳥  「!?」

明日香 「失恋?」

飛鳥  「まぁ、そんなところかな?」

明日香 「えぇ〜、ヒドーイ!」

飛鳥  「何が!?」

明日香 「明日香と飛鳥の間で、隠し事なんか無しだよ!」

飛鳥  「いづれね…。」

明日香 「いづれ?」

飛鳥  「そう、いづれ…」

明日香 「明日香は今聞きたいなぁ〜。 どうしてもダメ?」

飛鳥  「どうしても、ダメ。」

明日香 「ぶぅ〜。」

飛鳥  「そんな顔してもダメ。」

明日香 「しょうがないなぁ〜。」


明日香、カバンの中をゴソゴソしている。


飛鳥  「何探してるの?」

明日香 「秘密〜。 …あ、あった!」

飛鳥  「?」


明日香、いきなり飛鳥の顔にスプレーを吹き付ける


飛鳥  「ケホ。ケッホ。明日香〜いきなり、何するんだよ〜。」

明日香 「たらら、らったら〜携帯型自白剤(ドラえもん調)」

飛鳥  「はぁ?」

明日香 「明日香のマッドな発明品その1。このスプレーを吹き付けられると、明日香の質問に答えたくな〜る〜。」

飛鳥  「…。」

明日香 「さぁ、まずは実験☆」

飛鳥  「何言ってる…」

明日香 「飛鳥、あなたの名前は?」

飛鳥  「飛鳥薫」


あまりの精度に驚いている様子。


明日香 「年齢は?」

飛鳥  「26歳」

明日香 「へぇ〜、飛鳥の方が年上なんだ〜。」

飛鳥  「いや、そんなことよりも…」

明日香 「何処に住んでるの?」

飛鳥  「家。」

明日香 「…精度が良すぎて、具体的に聞かないといけないのが欠点ね…。」

飛鳥  「そうじゃなくて!」

明日香 「じゃぁ、本題☆ 飛鳥はどうしてココに来たの?」


ガッタンと突如大きな音。それと同時に飛鳥は言った様子。
エレベーターは動き始めた様子は無い。


明日香 「何!? 今の?」

飛鳥  「なんだろう?」

明日香 「まぁ、良いか。」

飛鳥  「良いの?」

明日香 「だって、こんな密室じゃ、どうしようも無いじゃない?…密室。」


明日香、密室と言う言葉に不安を感じているようだ…


飛鳥  「明日香、どうしたの?」

明日香 「襲わない?」

飛鳥  「はぁ?」

明日香 「だから、飛鳥が明日香のことを襲わない?」

飛鳥  「襲わない。」

明日香 「だったら、大丈夫ね。」

飛鳥  「ずいぶん、あっさり信じるね。」

明日香 「うん、だって自白剤まだ効いてるでしょう?」

飛鳥  「あぁ、そうだ! この薬の効果ってどれくらいなの?」

明日香 「一生!」

飛鳥  「えっ!」

明日香 「飛鳥は嘘がつけない体になったのだ〜。」

飛鳥  「解毒剤なんかないの?」

明日香 「解毒剤なんてヒドーイ! 毒じゃないんだから!」

飛鳥  「そういう意味じゃなくて!」

明日香 「あの自白剤、まだ作ったばかりだからワクチンもないよ」


飛鳥、口をパクパクしながら驚いている。


明日香 「嘘」

飛鳥  「えつ?」

明日香 「さっきの自白剤、効果が一生なんて嘘よ。」

飛鳥  「えっ、じゃぁ…」

明日香 「そうねぇ、さっきの量だと3分くらいかな?」

飛鳥  「3分?」

明日香 「そう、だからもう少しで効果は切れるよ。」

飛鳥  「はぁ、良かった〜。」

明日香 「別に良いじゃない? 嘘がつけなくなるくらい。」

飛鳥  「良くないよ! 人間、嘘がつけなくなったら生きていけないよ!」

明日香 「そう?」

飛鳥  「明日香は嘘つかないの?」

明日香 「今ついたわよ。」

飛鳥  「そうだね。」


二人、笑い出す。


明日香 「でもね、飛鳥。」

飛鳥  「?」

明日香 「明日香、人を傷つけるような嘘は絶対につかないよ。…絶対。」

飛鳥  「?」


突然、明日香のお腹の音が鳴る。
そして、雰囲気は一気に柔らかくなる。


明日香 「飛鳥、お腹すかない?」

飛鳥  「すこし…。」

明日香 「明日香、お菓子持ってるけど食べる〜?」

飛鳥  「何があるの?」

明日香 「えっと…、ポッキーと、フランと、つぶつぶいちご…あっ、ビターもある!レパートリー豊富でしょ?」

飛鳥   「全部ポッキーじゃん!」

明日香  「ぶぅ〜、ポッキーとフランは違うよ!」

飛鳥   「そうなの?」

明日香  「そうよ、フランは冬季限定で、エアムースチョコレートを使ってるの!ポッキーは、年がら年中売ってるじゃない!」

飛鳥   「…そうなの?」

明日香  「そうなの! ポッキーでもムースポッキーは冬季限定であるけど、私は、フラン派なの!」

飛鳥   「…どっちでも良いじゃない?」

明日香  「よくない! 明日香はフランじゃないとイヤよ!」

飛鳥   「ふ〜ん」

明日香  「何よ飛鳥、その興味なさそうな『ふ〜ん』は!」

飛鳥   「えっ、そんなことないよ?」

明日香  「それに飛鳥、今、明日香のこと『アホ』と思ったでしょう?」

飛鳥   「うぅん、全然?」

明日香  「本当?」

飛鳥   「うん、本当。」

明日香  「そう?」

飛鳥   「うん、そう。」

明日香  「そう、こんな時は…「携帯型自白剤」で…」

飛鳥  「あっ、明日香〜、それだけは止めて!」

明日香 「だって、飛鳥、本当のこと言わないんだもん。」

飛鳥  「本当のこと言ってるよ! 明日香をアホなんて思ってないから!」

明日香 「そう? じゃぁ、フランあげるね」

飛鳥  「はぁ、ありがとう…」


明日香、なぜかフランをくわえ、飛鳥の方に口を向けている。


飛鳥  「あすか…、何のつもり?」

明日香 「う〜ん」

飛鳥  「いや、だから、その…」

明日香 「もう! 何してるのよ!」

飛鳥  「いや、明日香が何してるの…?」

明日香 「フランはこうやって食べるものでしょ?」

飛鳥  「絶対違う!」

明日香 「そう? みんなで食べる時はいつもこうだ!って本に書いてあったけど?」

飛鳥  「明日香…、どんな本読んでるの?」

明日香 「ヒ・ミ・ツ! それにこうやった方が楽しいじゃん! 飛鳥、楽しくないの?」

飛鳥  「エレベーターに閉じ込められている時点で楽しくないよ。」

明日香 「飛鳥〜、飛鳥はどうしてそんなにネガティブなの?こんな事態に巻き込まれることなんてめったにないんだよ!せっかくだから楽しもうよ♪ 笑おう、笑おう☆」

飛鳥  「…。」

明日香 「もう、飛鳥は笑ってる方が可愛いよ♪ そんな時は…」


明日香、何かごそごそとカバンの中を探している


飛鳥  「…? 何探してるの?」

明日香 「秘密♪ …あった!」

飛鳥  「まさか…」

明日香 「たらら、らったら〜 明日香のマッドな発明品その2!笑いガス〜。 効果は一目瞭然! このガスを吸うと、笑いが止まらなくなぁ〜る〜。」


明日香、飛鳥にガスを吹き付ける! そうすると、突如泣き出す飛鳥…。


飛鳥  「明日香、ちょっと、何よ、これ!」

明日香 「ごめん! 間違えちゃった! これ催涙ガスだ〜。てへ。」

飛鳥  「てへじゃない!」

明日香 「大丈夫、これはすぐ効果が切れるから安心して!」


のたうちまわる飛鳥。


明日香 「大丈夫? なんなら、今度は本当に笑いガスをふきつけるよ♪」

飛鳥  「明日香のばか〜。」

明日香 「てへ(笑) しょうがないなぁ…。」


のたうちまわっている飛鳥、そしてカバンをゴソゴソと探す明日香。


明日香 「たらら、らったら〜、明日香のマッドな発明品その…4!解毒ガス〜! 多分、何でも治るご都合主義なガス〜!」

飛鳥  「本当に治るの?」

明日香 「…多分。」

飛鳥  「何! 今の妙な間は!」

明日香 「気のせい、気のせい。」


明日香、飛鳥にガスを吹き付ける すると、あっという間に痛みが取れる


飛鳥  「…すごい、本当に痛みがとれた…。」

明日香 「本当!?」

飛鳥  「…何? 今のびっくりした反応は?」

明日香 「いや〜、このガスまだ実験中で、霊長類に使うのはじめてだったから〜効いてよかった、良かった。」

飛鳥  「副作用なんてないよね?」

明日香 「今のところ大丈夫みたいだから、大丈夫じゃない?」

飛鳥  「明日香〜。」

明日香 「まぁ、その時は科学の発展のために礎となったと思って成仏して。」

飛鳥  「成仏して! …って明日香〜!」


再度「ガタン」という大きな音。
明日香と飛鳥、閉じ込められているということを再認識する。
飛鳥、ゆっくりとその場に座る。


飛鳥  「明日香。」

明日香 「何?」

飛鳥  「もう、どれくらい閉じ込められてる?」

明日香 「30分くらいかな? どうして?」

飛鳥  「いや、今まで何の反応もないから…何かあったのかな?」

明日香 「そうね? 超高層ビルってテロの標的になりやすいから何かあったのかも…。」

飛鳥  「明日香、怖いこというね?」

明日香 「そう? 科学者たるもの現状は正確に把握しないと。」

飛鳥  「でも、テロだっていう状況証拠は何処にもないよ。」

明日香 「テロじゃないっていう状況証拠も何処にもないけど…。」


飛鳥、乾いた笑いで場を和ます。


明日香 「それにニューヨークで起きた同時多発テロでも、エレベーターで死んだ人が多かったそうよ。」


飛鳥、ものすごく暗くなる


明日香 「大丈夫、大丈夫! 同じ日に、同じ場所で2件もテロなんて起きないよ♪」

飛鳥  「!?」

明日香 「あっ…。」

飛鳥  「明日香、今なんて?」

明日香 「いや、飛鳥、何でもないよ♪」

飛鳥  「茶化さないで!」

明日香 「バベル…。」

飛鳥  「バベル?」

明日香 「失われた街、破壊の象徴、16番目のカード」

飛鳥  「明日香?」

明日香 「あとは秘密♪」

飛鳥  「明日香〜。」

明日香 「だって、全部教えちゃったら面白くないでしょ?」

飛鳥  「…。」

明日香 「それとも、知りたい?」

飛鳥  「えっ?」

明日香 「私が、しようとしてること…。」

飛鳥  「…。」

明日香 「聞いたら、後戻りできないよ?」

飛鳥  「…。」

明日香 「うっそ、ぴょ〜ん。」

飛鳥  「!?」

明日香 「明日香が、そんな大それたこと考えているはずないじゃん♪」

飛鳥  「本当?」

明日香 「ホント、ホント! 驚いた?」

飛鳥  「何が?」

明日香 「明日香が、ガラにもなくシリアスモードになってたから♪」

飛鳥  「うん、びっくりした…。」

明日香 「やった! 成功、成功、大成功!」

飛鳥  「それより、そろそろ何か手を打たないと…明日香? こんな時に役立つ発明品とか持ってないの?」

明日香 「そんな、明日香はドラえもんじゃないんだから、ぽんぽん出てこないよ」

飛鳥  「そうだろうねぇ…。」

明日香 「でも、外に連絡を取れるよ♪」

飛鳥  「どうやって?」

明日香 「たらら、らったら〜。明日香のマッドな発明品、その5!無線LAN携帯電話〜!」

飛鳥  「無線LAN携帯電話?」

明日香 「そう♪ 現在オンラインになってるパソコンの赤外線通信から勝手に進入し、電話をかけれちゃう携帯電話だよ♪ でも、番号が取れてないから向こうからかけれないのが欠点だよね〜。」

飛鳥  「明日香、貸して!」


明日香から、携帯電話を奪い自分の携帯電話で番号を確認して電話をかける。


飛鳥  「もしもし、飛鳥です。 …はい、すみません。今、エレベーターに閉じ込められていまして…。はい? 今ですか? NIFCのエレベーターの中です…。えっ…! 本当ですか? はい、…はい、わかりました。頑張ってみます。 それで、その名前は…。バベル…。いえ、何でもありません。それでは、また連絡します。」

明日香 「飛鳥、何処に電話してたの?」

飛鳥  「…。」

明日香 「飛鳥?」

飛鳥  「バベル。」

明日香 「…?」

飛鳥  「今、そんな名前のテロリストがNIFCを爆破するって犯行声明が出ているらしい…。」

明日香 「爆破!?」

飛鳥  「だから、エレベーターが止まっているんだって…、今、私の仲間が爆弾を探してるんだって…。」

明日香 「爆弾か…、だったらもう一組テロリストがいるのかな…?」

飛鳥  「明日香じゃないの?」

明日香 「うん、だって明日香は「バベル」を撒きに来たんだから、爆弾じゃないもん。」


飛鳥、頭を抱えている。


明日香 「飛鳥どうしたの?」

飛鳥  「明日香、犯行声明はだしたの?」

明日香 「当たり前じゃない! 犯行声明はマッドサイエンティストとして当然の礼儀よ!」


飛鳥、さらに頭を抱える


飛鳥  「考えられる要因としては2つか…。明日香の犯行声明を勘違いしてるか、もう一組テロリストがいるのか…。」

明日香 「飛鳥の仲間って?」

飛鳥  「…警察よ」

明日香 「そう、飛鳥って警察官だったの…。」

飛鳥  「警視庁捜査2課警部補、飛鳥薫…。テロは専門外なんだけどね…。」

明日香 「天まで届く回廊より、神の雷が降り注ぎ、人は光を失うだろう…。明日香が、だした犯行声明よ。」

飛鳥  「意味は?」

明日香 「意味はねぇ〜」

飛鳥  「うん」

明日香 「ヒ・ミ・ツ☆」


明日香は下品な笑い。飛鳥、やっぱり頭を抱えている。


飛鳥  「ふざけないでよ〜。」

明日香 「ふざけてないよ♪ 謎解きはこういったお話のお約束でしょ?」

飛鳥  「はぁ…。」

明日香 「大丈夫♪ ここに問題作った本人がいるんだから、きっと解けるよ♪」

飛鳥  「うん。」

明日香 「そこそこ、疲れない、疲れない! じゃぁ、早速はじめようか?」

飛鳥  「はじめるって何を?」

明日香 「謎解き!」

飛鳥  「…。」


明日香、カバンの中から1枚の紙を取り出して…。


明日香 「じゃぁ、ここに警視庁の代表ファックスに送った犯行声明があるから一緒に考えよう!」

飛鳥  「天まで届く回廊より、神の雷が降り注ぎ、人は光を失うだろう…。」

明日香 「こういう謎解きは一小節づつ解いていくのがコツだよ。」

飛鳥  「…。」

明日香 「どうしたの?」

飛鳥  「いや、なんでもない。 じゃぁ、最初の『天まで届く回廊』の部分だね。」

明日香 「そうそう。」

飛鳥  「天まで届く回廊だから、やっぱり世界一高いNIFCのことでしょう?だからこそ、ここに警察が集まってるんだろうし、明日香もいるし…。」

明日香 「飛鳥、賢いじゃん!」

飛鳥  「どうも。」

明日香 「じゃぁ、次ね。」

飛鳥  「『神の雷が降り注ぎ』だから、9.11の件もあるしNIFCの爆破と考えたんだろう…。でも、明日香がココにいるってことは違うんでしょ?」

明日香 「うん、もちろん♪ 明日香は自殺願望者じゃないし。」

飛鳥  「…ってことは、違う意味があるんだ。」

明日香 「うん♪」

飛鳥  「明日香、ヒント無いの? ヒント!」

明日香 「しょうがないなぁ〜、一つだけだよ!」

飛鳥  「うん、ありがとう。」

明日香 「飛鳥、旧約聖書読んだことある?」

飛鳥  「無いよ。クリスチャンでも無いし。」

明日香 「そう、じゃぁそこから説明しないといけないのか…。飛鳥、一般常識もないんだ。」

飛鳥  「悪かったね。」

明日香 「この犯行声明は旧約聖書の一説から成り立っているのね。要約して説明するけど「その昔、人々は皆一緒に働いていたの。そのうちに、天にいる神に近づこうと天まで届く塔「バベル」を建てだした。もう少しで天に届きそうになった時に、神の怒りに触れ、塔は崩され、世界の人は統一の言語を無くし、いがみ合いだした。」ってお話。理解できた?」

飛鳥  「うん、確かにその下りから考えると、爆弾か航空機が突っ込むと考えるのが自然だね。」

明日香 「飛鳥〜、明日香がそんな簡単な暗号出すと思う?」

飛鳥  「…思わない。」

明日香 「でっしょう! まったく、警察の人も失礼しちゃうわ!」

飛鳥  「…ってことは、結果の方がテロの内容?」

明日香 「結果って?」

飛鳥  「『世界の人は統一の言語を無くした』ってこと。」

明日香 「飛鳥、頭よくなったじゃん。」

飛鳥  「ありがとう。…ということは『世界の人は統一の言語を無くした』って意味を解読したら明日香が持ってる『バベル』の意味もわかるのね。」

明日香 「ピンポンピンポン!」

飛鳥  「はぁ、なんか疲れたな…。」

明日香 「疲れない、疲れない♪ 謎解きはこれからなんだから♪日本には、明智小五郎に金田一耕介とその孫、工藤俊作に濱マイク!そして、とっても可愛いいコナン君にいたるまで、たくさんの名探偵を輩出した土壌があるんだから、飛鳥もその仲間に入らないと!」

飛鳥  「犯人はお前だ!」

明日香 「よくわかったな、明智君。」

飛鳥  「20面相、今日こそ逃がさないぞ。」

明日香 「はっはっはっ…」


明日香狭いエレベーターを走り回る。飛鳥頭を抱える。


飛鳥  「はぁ…」

明日香 「はっはっはっ…」

飛鳥  「…。」

明日香 「はっはっはっ…」

飛鳥  「…。」

明日香 「はっはっはっ…」

飛鳥  「!?」

明日香 「はっはっはっ…」

飛鳥  「明日香!」

明日香 「何?」

飛鳥  「うるさい!」


明日香、黙ったまま走り回ってる。


飛鳥  「鬱陶しいわ! ちょっと黙って動かないで!」

明日香 「シュン…。」


飛鳥、考えているようだ、明日香シュンとして口にチャックをしてそのままフリーズ。
しばらくして、振り向く飛鳥。


飛鳥  「明日香? わぁ…。」

明日香 「…。」

飛鳥  「明日香、何やってるの?」


明日香、動かないし、話さない。


飛鳥  「明日香、動いて良いし、しゃべっても良いよ…。」

明日香 「本当? あぁ疲れた。」

飛鳥  「明日香って本当、純なんだから。」

明日香 「そう?」

飛鳥  「そう。」

明日香 「えへ、誉められちゃった。」

飛鳥  「誉めてないよ!」

明日香 「えへ。」

飛鳥  「明日香、どうしてこんなことするの?」

明日香 「こんなことって?」

飛鳥  「バベル。」

明日香 「あぁ、忘れてた♪」

飛鳥  「忘れてたの?」

明日香 「…そんなわけないじゃん!」

飛鳥  「もう、どうして…?」

明日香 「明日香が、マッドサイエンティストだから。」

飛鳥  「もう、茶化さないでよ!」

明日香 「茶化してないよ、本気だよ。」

飛鳥  「じゃぁ、どうして『マッドサイエンティスト』になりたかったの?」

明日香 「約束かな…」

飛鳥  「約束?」

明日香 「うん、そう。明日香ね、昔からイジメラレッ子だったの。勉強しか出来なくて、根暗で友達もいなかった。それに身体も弱かったから…信じられないでしょ?」

飛鳥  「…。(複雑な心境)」

明日香 「でもね、そんな明日香にも優しくしてくれる先生がいたの。」

飛鳥  「先生?」

明日香 「うん、そう! 先生って言っても学校の先生じゃなくて、病院の先生なんだけど、とっても優しくて腕の良い先生だった…。」

飛鳥  「だった?」

明日香 「そう、先生の口癖は「病に悩む人を救いたい!」ってでもね、日本刀で通り魔に刺されて殺されちゃった。」

飛鳥  「…」

明日香 「その時ね、大好きだった先生と約束したの…。私は、医者になって先生を助ける!…ってでも、先生は死んだわ…2人のお子さんを残して…。」

飛鳥  「…。」

明日香 「でも、私はまだ諦めていないの。私がマッドサイエンティストになって、先生を生き返らせて見せる!」
     
飛鳥  「そんなの倫理的じゃない…。」

明日香 「そうね、でも明日香の約束だから。約束だから…。」

飛鳥  「犯人は?」

明日香 「えっ?」

飛鳥  「犯人は捕まったの?」

明日香 「ええ、犯人は捕まったわ。でも、明日香にとって事件は終わってないの…。」

飛鳥  「…。」

明日香 「だから、明日香は約束を守りたいの…。明日香がマッドサイエンティストになって、勇先生を生き返らせるの!」

飛鳥  「明日香…。」

明日香 「非常識なんていわないでよ。新しいことなんて常識をうたがうことからはじめないと生まれないんだよ!」

飛鳥  「そうかも、しれないけど…。」

明日香 「バベルは人を傷つけるようなモノではないから大丈夫♪」

飛鳥  「うん、でもテロなんでしょ?」

明日香 「まぁ、たしかにそうなんだけど…。」

飛鳥  「困る人もいるんでしょう?」

明日香 「そりゃぁ、いると思うよ。」

飛鳥  「だったら、こんなことしちゃダメだよ!」

明日香 「そうだね。 でもね…。」

飛鳥  「でも?」

明日香 「これは、明日香の約束なの?」

飛鳥  「約束…。」

明日香 「大好きな人を生き返らせるための…マッドサイエンティスト、杉本明日香を誕生させるための第一歩なの!」


「ガタンッ」と音と鳴り、エレベーターが動き始める。


二人  「あっ、動いた。」

AN  「まもなく、最上階展望ステージに到着いたします。永らくのご乗車ありがとうございました。高度500mから広がる大パノラマをゆっくりとご鑑賞ください。」

飛鳥  「こんな時に…。」


エレベーターが到着し、扉が開く。
明日香、カバンの中よりスプレーを取り出す。


明日香 「飛鳥…。」

飛鳥  「何?」

明日香 「飛鳥はどうして、NIFCにきたの?明日香を止めにきたわけじゃないでしょう?」

飛鳥  「私ね、警察を辞めようと思ってるの…。」

明日香 「どうして?」

飛鳥  「明日香、新聞読む?」

明日香 「ちょっとは…。」

飛鳥  「そう…。私ね、人を一人殺してるの。」

明日香 「!?」

飛鳥  「先週、NIFCであった自殺のこと知ってる?」

明日香 「たしか、贈収賄事件の容疑者が展望台から飛び降りたって…。」

飛鳥  「そう、彼は、ある国会議員の贈収賄事件で重要参考人だった。…でも、死んだの。」

明日香 「口封じ?」

飛鳥  「感、良いね…。」

明日香 「でも、そのことがどうして飛鳥に関係あるの?」

飛鳥  「私が、追ってた事件なの。だから、私が殺したようなモノよ。これで、ヤツを追う材料は無くなって、私も担当から外されるわ。」

明日香 「どうして?」

飛鳥  「警察も正義の味方じゃないってことかな。でも、私は追いたいの、この事件を…。死んでしまったその企業戦士のためにもね。」

明日香 「飛鳥、どうしてそんなにこだわってるの?」

飛鳥  「こだわる?」

明日香 「そう、だってその国会議員を捕まえたくて仕方が無いみたいだから。それも飛鳥の手で…」

飛鳥  「明日香に隠し事は出来ないわね。」

明日香 「明日香と、飛鳥の仲だもん。」

飛鳥  「死んだ企業戦士は私の父だったの…。」

明日香 「!?」

飛鳥  「警官としてというより、親子として事件から手を引いて欲しかった…。」

明日香 「ココには、カタキ討ちの誓いを?」

飛鳥  「わからない…。でも、ココに来れば何かがふっきれるんじゃないかと思ってた。」

明日香 「飛鳥って潔癖ね。」

飛鳥  「そう?」

明日香 「うん。」

飛鳥  「でもね、私はダメなの。 それに、明日香だってそうじゃない!」

明日香 「え!?」

飛鳥  「明日香だって、過去に死んだ人に囚われているからマッドサイエンティストになるんでしょ?生き返らせるために、マッドサイエンティストになるんでしょ?」

明日香 「…。」

飛鳥  「明日香、本当は無理だってわかってるんでしょ?明日香の大好きな先生を生き返らせることなんて、不可能なんだって…。」

明日香 「今の科学ではね。」

飛鳥  「!?」

明日香 「飛鳥、新しいものを創造するためには何が必要なのか知ってる?」

飛鳥  「…なんだろう? 必要性かな?」

明日香 「ちがうよ。新しいものを創るには「破壊」が必要なの。」

飛鳥  「えっ…。」

明日香 「人類の発展ってね「創造・調和・破壊」の繰り返し科学を発展させるのに一番手っ取り早い方法は「戦争」だって言われているくらい。人はね、地球という舞台の上で、ずっとワルツを踊ってるんだよ。

飛鳥  「…。」

明日香 「だからバベルを使うの…。バベルを使ってこのコンピューター社会を破壊し、文明をさらに発展させるのよ!」

飛鳥  「そんな無茶な!」

明日香 「無茶じゃないよ…バイオコンピューターウィルス・バベルは、空気感染するコンピューターウィルス…。地上500mから撒けば、上昇気流に乗って首都・東京のコンピューターネットワークは全て破壊される…。」

飛鳥  「そんな…。」

明日香 「バベルは、破壊と創造を司る象徴。今の科学を破壊して、新しい世界を創造するの。」

飛鳥  「じゃぁ、明日香は神様なわけ?」

明日香 「えっ?」

飛鳥  「リセットだなんて、神様がすることだよ。」

明日香 「そんな良いものじゃないよ、明日香はただのエゴイスト…。明日香は、目的のためにバベルを撒こうとしているだけ…。」

飛鳥  「私達って似たもの同士なのかもしれないね。」

明日香 「えっ…。」

飛鳥  「だって、そうでしょう? 二人とも死んだ人に囚われている…。それにエゴイストだし…。」

明日香 「そうね…。」

飛鳥  「バベルって、私達のためにあるのかも知れないわね。」

明日香 「えっ?」

飛鳥  「だってそうでしょう? バベルは破壊と創造の象徴。全てにおいてリ・スタートの象徴なんでしょ?」

明日香 「そうよ。」
     
飛鳥  「それに、テロを見過ごすんだから私は免職ね。まぁ、辞めるつもりだったから、良いけど。その時は、人生のリ・スタートとして私立探偵でもしようかしら…。」

明日香 「飛鳥、むいてないよ! 簡単な、推理も解けないのに?」

飛鳥  「そう?」

明日香 「だったら、私もテロリストなんかやめて探偵の助手にでもなろうかな?」

飛鳥  「えっ?」

明日香 「飛鳥とだったら、探偵しても良いよ…。 飛鳥ははじめてのお友達だし!」

飛鳥  「本当?」

明日香 「うん、だって、今ここでバベルを使わなくても、自分の気持ちを信じていれば、前に進めるんじゃないかって思えてきたし…。飛鳥のおかげでね…。それに、バベルは科学を発展させるためのカンフル剤でしかないよ。きっと明日香が生きているうちに、
勇先生を生き返らせられるくらいは科学を発展させてみせるよ。約束は、明日香が諦めない限り、明日香が生きている限り破ったとはいえないでしょ?」

飛鳥  「そうだね。」

明日香 「だから、飛鳥も捕まえることを諦めない限り大丈夫だよ。きっと…。お父さんもそう思ってるよ。」

飛鳥  「そうだね。」

明日香 「だから、もうこんなモノはいらない!」


明日香、バベルを投げ捨てる!


飛鳥  「明日香…。」

明日香 「えへっ…。」

飛鳥  「ここ、地上500メートルだよ…。」

明日香 「あっ、しまった!」

b  「明日香〜。」

明日香 「えへっ。」

飛鳥  「『えへっ』じゃない…。」


そして、あたりは暗くなる。
しばらくの後、飛鳥が浮かび上がる。


飛鳥  「私は、コレで仕事をやめました…。明日香が地上500mより投げたスプレー缶は、自由落下の法則により加速度的に速度を増して地上に激突。事前の避難もあって人にあたらなかったのが不幸中の幸いです。もちろん、スプレー缶は割れたのですが、特に何も起こらなかったそうです。後から明日香に聞いたのですが、バベルは空気より重いので高いところから撒かないとあまり効果が無いそうです。だからこそNIFCを選んだと言っていました。この事件については、上からこっぴどくしかられましたが、免職にはならなかったので退職金を頂けましたし、今は、明日香と共に気ままな探偵生活です。」

明日香 「破壊と創造の象徴バベル。新しいモノは壊さないと創れないと思っていました…。明日香が創りたかったもの、それは共に痛みを分かち合える親友だったのかもしれません。でも、飛鳥に対して、壊すことは必要ありませんでした。今は、飛鳥と共に気ままな探偵生活です。

二人  「でも、これだけは言えます。二人のリ・スタートはこうして始まった!!」


エンディングテーマが流れ、二人は消えていく。
それは、新しい一歩を踏みだした二人の象徴なのであろう…。



あとがき

 この冊子を手にとって頂き、尚且つ「あとがき」まで読んで頂けるとは感謝を通り越して驚嘆しています。
何故なら、この冊子は一般の書店には並ぶわけもなく、その殆どが「ASUKA×ASUKA」の公演をご覧になられたお客様の手にわたる以外は考えられなし代物です。
(主宰曰く「公演終了後は、ホームページで販売する」とは言っていましたけど…。)
 あとがきなので「ASUKA×ASUKA」について、作者なりに書かないといけないのですが、 今回「ASUKA×ASUKA」を書き下ろすにあたって、自分に枷をかけました。その枷とは…。

「役者が二人いれば成り立つ芝居」

舞台は総合芸術であり、照明さんや音効さんなどなど、たくさんの方々の才能を持って完成します。
その事実は、重々承知しています。
ですが「演劇(芝居)をやってみたいけど、一緒にやる人が集まらない…」
こんな話は、舞台に携わって十年、いたるところから聞いていました。
ボク自身も人がいなくて困ったことは1回や2回ではありません。
この作品は、そんな「少人数でも頑張る演劇人」のために書き下ろした作品だと思ってください。
また、高校生のコンテストでも使えるよう小一時間という上演時間にも配慮しています。

このようなことを踏まえ、書き上がった「ASUKA×ASUKA」が演劇への入口として、役立つことをせつに願っております。

追伸  飛鳥と明日香のコンビを主人公とした謎解き探偵物語をいつか書きたいですね♪


二〇〇三年一月
中藤和晃

 
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