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Suzu Ran
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Suzu Ran
作 別役慎司
登場人物
・鈴
・蘭
鈴と蘭が、異なる角度で座っている。
二人に照明。音楽。
蘭 とても時間が経った気がする。時間がない。
鈴 とても時間が経った気がする。まだどれだけあるんだろう。
音楽止まり、照明全体に。
蘭 会社に行かなきゃ。
鈴 朝ご飯食べないの?
蘭 食べるに決まってるでしょ。
蘭は朝食の準備を始め、鈴はスマホを見る。
蘭はコーヒーメーカーをセットし、その間に食パンをトースターに。
(基本的に全ての動きはパントマイムとなる)
蘭 学校に行かなくていいの?
鈴 オンラインだよ。
蘭 オンライン?
鈴 それにもう授業は終わったよ。
蘭 なにを見てるの?
鈴 え? TikTok。
蘭 ……。(はっとして)新聞。
蘭、新聞を取ってきて、テーブルに載せる。
鈴 お腹空いた。なんか作ろ。
鈴、スマホを置き、立ち上がり、冷凍食品を取りだし、電子レンジに入れる。そして、リンゴジュースをグラスに注ぐ。(蘭のキッチンは上手、鈴のキッチンは下手)
蘭は、食パンにジャムを塗り、コーヒーをマグカップに注ぐ。
照明は二人に影のコントラストをつくり、しばらく、二人の作業が並行して行われる。
蘭、コーヒーとトーストを持ってきて、新聞を開く。
電子レンジのメロディ音。
鈴 お姉ちゃんさ、わたし、大学辞めようかなと思うんだけど。(温めた冷凍食品を持ってくる)
蘭 ちゃんと卒業した方がいいよ。
鈴 お姉ちゃん、大学のとき、語学留学したでしょ? わたしも海外行きたいんだよね。というか、家の中で画面ばかり見てるより、外でなにか感じたいんだよね、わかる?
蘭 就職するとき不利になるから、今は我慢しなさい。
鈴 もうそんな時代じゃないよ。
蘭 確かなものにしか人は信用しないの。
鈴 不確かなものにこんなに惑わされてるのに?
蘭 こんなにってなに?
鈴 めちゃくちゃ惑わされてるじゃん。わたしこそ信用しないよ。(ご飯を食べ始める)
蘭 (トーストを食べ始め)だからって海外に行く理由になるの?
鈴 自分で感じたことしか信用できないんなら、もっと広い世界を見た方がいいじゃん。
蘭 これから景気も悪くなってくるわよ。
鈴 これ以上の最悪があるの? っつか、景気が悪くないっていつの時代の出来事?
蘭、新聞を置く。
蘭 辞めたいなら辞めればいいわ。自己責任だもの。
鈴 せめて学費が安くなればなぁ。なにもかもオンラインなら、大学の意味ないよね。世界中旅しながら大学生活してる人が羨ましいわ~。
蘭 信じられない。相当自由な発想ね。
鈴 自由? ありえない。規則に縛られ、管理され、画面ばかり見て、生きる意味もわからないまま生殺しにされているんだよ。
蘭 よくわからないわ。
鈴 お姉ちゃんの方がよっぽど自由だよ。
蘭 親に甘えられて、好きなこともできていいじゃない。
鈴 将来が不確かななか、いつ終わるともわからない時間だけがたくさんあって、どうやって楽しく生きれるというの?
間。
蘭 楽しんでるときは、将来のことなんて考えてないものじゃない。あんたはまだ若いんだから、なんでもチャレンジしてみたら?
鈴 だから、チャレンジするには将来が必要なんだよ。
蘭 誰だって将来の保証なんてないわよ。
鈴 たぶん、わたしたちは死亡宣告を受けているんだよ。運が良ければもっと生きられるけど、運が悪ければ明日にでも……。
蘭 悲観的ね。毎日を一生懸命生きていくしかないじゃない。学生のときは勉強して、好きなことにチャレンジして、社会人になったら働いて、結婚して。一生懸命生きることで不自由なく暮らしていけるのよ。
鈴 うぇ、マジか。そんな人生もヤダな。
蘭 でも、そういうものでしょ。
鈴 あぁ、わたしたちって、結局いつの時代も正しい答えを知らずに生きてるんだろうな……。
蘭 なにそれ。
鈴 こっちの話。お姉ちゃんはさ、妹のことをどう思ってたの?
蘭 は?
鈴 お姉ちゃんの妹のことだよ。
蘭 わたしの婚約者を奪ったのよ、許せないわ。
鈴 うわぁ、そんなことって本当にあるんだ。殺してやりたいくらい?
蘭 もちろん。
鈴 殺してやりたいくらい人のことを愛せるっていいね。うちらなんて、データで選ばれるんだよ。ぴったりの相性っていっても、好きになんかならない、好きになるのって、データ外の人ばかり。だって、自分にないものに惹かれるんだから!
蘭 愛してなんかいなかった。自尊心の問題よ。
鈴 わぁ。ひっぱたいたりしたの?
蘭 もちろん。
鈴 じゃあさ、わたし、言い返していい?(感情を入れて)そもそもさ、お姉ちゃんが満足させられなかったのが原因じゃない? わたしが奪ったんじゃない。わたしのところに逃げてきたの。結婚しちゃう前に助けてあげたってことがわからないの? 大体、勉強とか仕事とか真面目すぎてつまんないんだよ!
間。
蘭 ひどい……(泣く)
鈴 え~~、その反応? わたしだけ悪者じゃん。
蘭、立ち上がり、冷蔵庫からビールを取り出し、一気飲みし始める。鈴、「イッキ、イッキ」とコールする。
蘭、飲み干したビールを置き、手の甲で口を拭い、鈴に詰め寄る。
蘭 後妻の連れ子の分際で人の男取ってんじゃねぇぞ! なんでも優越感かましやがって、お前はそんなに偉くねぇからな。
鈴 彼がわたしのこと好きになっちゃったんだからしょうがないじゃない。人の自由でしょ。
蘭 不自由の裏返しで自由を求めるのやめてくれない? 飢えた狼が好き勝手獲物を狙って自由を主張するのやめてくれない? 平和で暮らそうとしているもののこと考えなよ。
鈴 かわいそうに、お姉ちゃんが一番飢えてるのにね。
蘭 知ったようなこといわないで!(新聞を投げつける)
鈴 いいね、いいね。愛に飢えてるんでしょ? 獲物を捕れないことを人のせいにするのやめてくれない?
蘭 わたしはなにも特別なものは求めてない。何が悪いっていうの?
鈴 Oh、喧嘩最高! 女優目指すとかいって、自分で諦めておいて被害者感出すのやめてよね!
蘭 人の挫折を突っつく必要ないでしょ。妹のほうが綺麗っていわれてたらやる気もなくすわ。あんたはいいよ。なんでもできるくせに、困ってても助けてくれる人はたくさんいるしさ。
鈴 ちょっと待っ……
蘭 無計画に会社作って今後こそ挫折を味わうかと思えば、資金を出す男はウジャウジャいるわ、なんだかんだヒットを出して、新聞でも取り上げられて、わたしのことくらいそっとしておいてよ。
鈴 待って……待って……一つも合ってないのが一番キツいわ。そんなにすごい妹なんだ……。ひがんでるほうがずっとよかった。
蘭 ……。
鈴 ……(力なく)どうせ海外にも行けないし、大学を卒業したってなんにもならない。夢とか希望とか、幸せとか……そういうものは漫画か映画かディズニーランドのなかじゃないともう見つけられないよ。
間。
蘭 鈴。あんたはなんだってできるのよ。
鈴 できないよ。
蘭 できる。
鈴 できない。
蘭 できる。
鈴 だから、わたしはあなたのできる妹じゃないのよ!
蘭 わたしはあんたへの対抗心で女優を目指しただけ。うまくいかなくても当然よ。心からやりたいわけじゃなかったんだもん。心からやりたいことはなんだってできるのよ。
鈴 あ~、スピリチュアルブームってやつ? あれなんだったんだろうね?
蘭 鈴、あんたにいってるの。
鈴 ?
蘭 わたしの心からやりたいことは、特別になることをやめて、普通に働いて普通に生活することなの。あんたにとってはつまんない生き方ね。
鈴 じゃあ、やりたいことができているとして、どうしてそんなに疲れてるの?
短い間。
蘭 やりたいことはやれても、ほしいものは手に入らないの。
短い間。
鈴 ほしいものって?
蘭 ……わかるでしょ? あんたにとっては自由ね。でも、気づかないの? あんたは自由なのよ、本当は……。
鈴 あぁ、そうだね、自由にできるかもしれないけれど、自由はきっと手に入らない……。その通り。
蘭 鈴。まだ時間があるわ。いつ終わるともわからない時間? いいじゃない。あなたには「今」 がある。「生きている今」がある。でしょ?
蘭、微笑む。
音楽。
鈴、蘭にゆっくり近づく。蘭を抱きしめる。
蘭、鈴の愛情を感じる。
溶暗。
幕。
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