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7DAYS〜世界の中心で愛と酒を
作 出合理加子
 



 前 田 忠 明 元経営者。現在は秋元組の非常勤役員。ほぼ、自由気ままなリタイア生活
     厚 子 忠明の妻
     アキラ 忠明と厚子の息子。
 高 橋 和 則 厚子の弟。忠明をアニキと慕っている
     美奈子 和則の妻。意外と気配りの人。 
     峯 岸 近所のじーちゃん。無類の酒好き   
     小 嶋 秋元組から出向してきた事務局長(痩せていると望ましい)
     柏 木 同じく選対本部長。(太っていると望ましい)
     マリコ ウグイス嬢
     サエコ ウグイス嬢
          




       遠くで選挙カーの声が聞こえる。
       前田家の茶の間。タブレットを見て会話している厚子と美奈子。
       選挙カーの声が大きくなるにつれ、会話をやめて窓の外を見る。
       
「大島雄三、大島雄三でございます。市長候補の大島雄三、みなさまに5期目の立候補のご挨拶に参りました。市長候補・大島雄三、大
島雄三でございます。四期十六年の実績を生かし、これからも頑張って参ります。大島、大島雄三で・・・」

       徐々に選挙カーの声が遠くなる

厚 子  騒がしいと思ったら、今日からなのね、市長選挙。
美奈子  どうせ大島さんしか出ないんだから、選挙にならないけどねぇ
厚 子  でも5期めって、いい加減やりすぎよね、誰か出ればいいのに
美奈子  それ、さっきの懇親会でも、みんな言ってたわ。
厚 子  うちの人もよ。あんまり言うから、だったら自分が出なさいよ!って言ってやったわ
美奈子  兄さんが出るなんて言ったら、もう飲み友達が一緒になって張り切るわね
厚 子  やめてよ〜! ね、それよりこれ!(タブレットの写真をさして)懐かしいわねぇ!これ
     がタイムカプセルの中に?
美奈子  そうよぉ〜兄さんなんかすっかり感激しちゃってさぁ、昼からの懇親会で、もうかなり呑んでたわよ!あれだと今夜はあまり
     遅くならないうちに解散かもね。
厚 子  どうかしら、前にも昼からの結婚式だったのに、翌日まで呑んでたしね。
美奈子  まぁ、あの面子だと今日も遅いかな

       ガラガラと開き戸の開く音。忠明が和則を連れて帰ってくる。

和 則  お〜い、いるか、帰ったぞ〜
美奈子  あら?意外と早いわね。まだ夕方よ
忠 明  おい、急いで裏の事務所片付けるぞ!
厚 子  はぁ?いきなりなんなの?
忠 明  会社やめてからすっかり物置になってるからなぁ〜こりゃ大掛かりだぞ。
厚 子  ちょっと!なんなのよ
和 則  急げ!すぐに秋元から応援もくるからな、一気にやっちまうぞ
厚 子  だから!どういうことなの。
和 則  ははは!聞いて驚け!
忠 明  おれは、市長選に出る!
和 則  ヒューヒュー!(拍手しまくる)
厚子・美奈子 はぁ〜?!

       そこへ小島・柏木が駆け込んでくる

小 嶋  前田さん、お待たせしました!
柏 木  さぁ〜裏の事務所、片付けますよ〜!!
和 則  よしきた!
厚子・美奈子 ちょ、ちょっと〜!
 
       厚子と美奈子、和則らに強引に連れ去られ、全員嵐のように退場
       音楽とともに照明が少し落ち、ダンボールや大きなものをひたすら運ぶ男連中。しか
       し、酒が入っているせいか、若干、足取りがあやうい。それをあたふたと追いかける
       厚子、遠慮がちに物を運ぶ美奈子。これらの動きが早送りで繰り返される。
       音楽終わり、照明が戻ったところでタオルで汗を拭き吹き小島や柏木、忠明、厚子
       が部屋に入ってくる。

柏 木  いやぁ〜すっかり片付きましたね!
小 嶋  はじめてあのゴミの山をみたときはどうなるかと思ったけど
厚 子  ちょっと!ゴミってなによ!絨毯もタンスもロッカーもまだまだ使えるものだったのに
忠 明  使えるものでも、もう使わないんだからゴミだろ
厚 子  誰かほしい人がいたかもしれないのに!
忠 明  そう言って、どんどん物が溜まっていったんじゃないか。誰もわざわざ人の使い古し、ほしがらねぇよ
柏 木  おどろきましたよ、2トントラック2台ぶんありましたからね。今日はもう遅いから明日廃棄場に持って行きますけど。
厚 子  いくらこの町が粗大ゴミとかタダで捨てられるからって、思い切りよく捨てすぎよ!
柏 木  でも粗大ごみの廃棄料をとろうという話も出てますし、捨てるなら今のうちですよ。
小 島  それに選挙事務所を別に借りるとしたら、それこそ結構な出費になるし、ゴミも片付いて立派な選挙事務所も出来て、一石二
     鳥って感じじゃないですか?
厚 子  それよ!
柏 木  は?
厚 子  なんか勢いで片づけが始まってうやむやになってたけど、選挙事務所ってなんなのよ
小 嶋  え?説明してないんですか?
忠 明   だから市長選挙に出るって言っただろ。
厚 子  冗談でしょ?それっていつよ?今でしょ!
柏 木  はい、今日が告示です。
小 嶋  いや〜、届け出、間に合ってよかったよなぁ
柏 木  でも初日に選挙運動が間に合わない選挙ってぼく初めてですよ
小 嶋  普通そうだろ、ははは
厚 子  笑い事じゃないわよ、いままでそんな話全然なかったじゃない、いったいなにがどうなって急に選挙に出ることになったの!
柏 木  なんていうかぁ〜
小 嶋  酒の勢い?
厚 子  あんたもう酒禁止!
忠 明  いや待て、そんな乱暴な説明あるか!ちゃんと説明するからお前も落ち着け。

       和則と美奈子が会話をしながら入ってくる。

和 則  だからよ、このままだと無風のまま、また大島が市長だろ?やっぱ対抗馬だして、新しい風をいれないとダメだって話なんだ
     よ。
美奈子  そりゃ大島さんの独裁政治になりつつあるしね、わかるわよ?でもなんで兄さんなのよ。
和 則  そこで、今日の開校五十周年で開けたタイムカプセルよ。アキラのいれたパチンコ!
忠 明  あれはパチンコじゃなくて弓矢だって言っただろ
和 則  どっちでもいいよ、それに糸巻きで作った動くインチキチョロQにダンボールで作ったハリボテのガンダム!あれでもう話題
     の中心よ!それからアニキの武勇伝の話になってよ〜東沢の護岸工事やら西山峠の陳情に行ったときのことやらで、盛り上が
     る盛り上がる。
忠 明  それでな、「前田さんがのんびりリタイア生活だなんてもったいない!」って板野社長が言い出して・・(照れながらも満更
     ではない)
小 嶋  で、うちの社長も、あ、秋元ですけど、「まったくだ、おれも前田さんはうちの非常勤役員だけにしておくのはもったいない
     と思ってたんだ!」と同調しまして
和 則  で、善は急げ!今日の5時までだからすぐに立候補の届け出をだすぞ!って
小 嶋  あれからの社長は早かったなぁ〜
柏 木  もうギリギリでしたけどね。
和 則  よく間に合ったよ
小 嶋  いやもう、時間が時間でしたからね、おれもいきなり事務局長に指名されてもうびっくりですよ。あ、ぼく事務局長をさせて
     もらいます小嶋ハルタです
柏 木  選対本部長に指名されました柏木ユキオです。
厚 子  あ、どうも前田の妻の厚子です。
和 則  あ、ふたりとも秋元組の若い衆な。
忠 明  供託金も秋元の社長がだしてくれたんだよ
厚 子  キョウタクキン?
忠 明  ・・・立候補するには法務局に金出さなきゃならないんだよ。
厚 子  それっていくら?
忠 明  ・・・百万。
厚 子  ひゃく!ばっかじゃないの!なにそんな大金出してもらってんのよ!
和 則  いや、でもね、供託金は後から返してもらえるから。とりあえずいるものなのよ。ほら、温泉にあるコインロッカーの小銭み
     たいなもんでさ
厚 子  そうなの?
小 嶋  小銭と百万を一緒にするのもどうかと思いますが
和 則  金が返ってくるのに違いは無いだろ
厚 子  まぁ大金だけど、返ってくるなら・・・
柏 木  と言っても、あんまり票がはいらないと没収されちゃうんですけどね。
厚 子  なんですってー!(倒れそうになる)
美奈子  姉さん、しっかり!
和 則  だから、頑張って選挙たたかわないと!まずは事務所!オッケイ!選挙カー!今、依頼中!オッケイ!ポスター、パンフ、北
     原さんで、とりあえず出来た分から明日納品!オッケイ!ユニフォーム、明日の朝一番でオッケイ!
柏 木  初日は出遅れて潰したけど、明日から頑張りましょう!
小 嶋  まずは明日、出陣式です!
厚 子  いや〜〜〜〜〜〜〜〜!

        厚子の絶叫が響く中、暗転。
        暗転の中、出陣式の喧騒が聞こえる

応援演説者の声「この、前田忠明くんは民間ながら中央政府に陳情のため何度も足を運び、地域の現状をうったえ、ついにはいくつもの
公共事業や補助金の確保に成功した立役者でもあります。これからも市の発展のために、ぜひとも前田忠明候補に市長になってもらいた
い!どうかみなさん、皆さんのお力で、この前田忠明候補を市長におしあげようではありませんか!」

        歓声と拍手

小嶋の声 「力強い激励をいただき、ありがとうございました。これよりは候補みずからが市内を回り、立候補のご挨拶とご支援のお願
いに伺いたいと思います!みなさん、お忙しい中、前田忠明市長候補の出陣式にお集まりいただきまして、本当にありがとうございまし
た!」

       「前田がんばれー!」「応援してるぞ〜」「前田さーん!!」といった歓声と拍手


        * * * * *

       明かりがつくと、スーツに着替えた忠明、運動員のユニフォームを着た和則、美奈子、
       柏木らが自転車を押して登場。
 
「大島雄三、大島雄三でございます。4期十六年の確かな実績を持つ男、大島雄三でございます。」

       遠くで市長選対抗馬の大島雄三陣営の遊説が聞こえる。小嶋と厚子が候補の名前入り
       の幟やたすき、腕章などを手に持って登場。忠明は厚子からハチマキを受け取り、
       額にまく。

和 則  やっぱ、向こうは選挙カー用意してるよな。すっかり出遅れちまったぜ
柏 木  もう、昨日の初日からガンガンやってましたよ。
美奈子  昨日の時点では対抗馬が誰もいなかったのにねぇ
小 島  ま、普通は選挙にならなくても初日だけは選挙カー走らせて挨拶回りしますからね。
和 則  逆に一日しかマイク持てないと思って張り切ってやってたのかもな
小 嶋  それはありえますね、好きな人は好きだから
美奈子  で、この自転車はなんなの?
和 則  ふ、ははは!聞いて驚け!これぞ桃太郎作戦なのだ!
美奈子  桃太郎って・・・
柏 木  頭にハチマキ、名前の入ったノボリ!そして僕らお供を引き連れて自転車で遊説するんで
     す。ちょっと見た感じが桃太郎一行みたいでしょ。だから通称、桃太郎作戦。あ、候補
     タスキ、かけてください。
美奈子  おお〜〜〜候補!って感じ
和 則  ちなみに早朝から街頭に立って挨拶するのはギョーカイ用語で「朝立ち」って言うらしいぞ、キャッ
小 嶋  選挙カーが間に合わないんで、今日はこれで市街地を周ります。あ、みんな運動員の腕章、これちゃんとつけてください。
    (腕章を配る)
厚 子  いっそ、選挙カー使わずにずっと自転車で周ればお金がかからないんじゃない?
小 嶋  いや〜市街地はともかく、農村地帯は広いですからね〜自転車じゃ周りきれませんよ。
和 則  兄貴は現職の大島と違って、新人だからな。ちゃんと周って名前を売らないと!
小 島  そうです、前田、前田、前田、って、車で連呼して有権者に名前を覚えてもらわないと、
     票に繋がりませんからね
厚 子  そんなに効果があるもんかしらね
忠 明  車代をケチって票が集まらないと、供託金、没収になるぞ
厚 子  それは困るわ!選挙カーはなんでまだなの!あんなの、すぐ出来るでしょ!
和 則  いやいや、そんな言うほど簡単じゃないって、ワゴン車に合わせてフレーム作ったり、看板作って取り付けたり、スピーカー
     固定したりって、結構、手間ひまかかるんだよ。
柏 木  本当だったら1日で出来る作業じゃないですよね
和 則  それを山本工芸と渡辺車両の社長が今日中に仕上げるみせるからって、今朝、3時から起きてやってくれてんだよ
厚 子  3時?! 山本や渡辺の社長も昨日、一緒に呑んでたんじゃないの?
忠 明  ああ、おれが選挙に出ることになって、山ちゃんもナベちゃんも急いで帰ったよ。人を乗せて走るものだし、なんか失敗した
     ら困るから、まずはいったん眠って酒を抜くって言ってなぁ・・・
小 嶋  それ、たぶん抜けてませんよ
美奈子  なんか、思ってたより大変なのね
柏 木  音響機材の調整も結構、難しいですしね。あ、スピーカーのバッテリーは毎日取り替えて充電しないとすぐ音がにごりますか
     らね。
小 嶋  あ〜、前の高城さんの選挙のときみたいになぁ、音がこもって、うるさいだけで何言ってるかわかんなくなるんだよな
和 則  じゃあ、毎晩、遊説が終わったら松井電機にバッテリー取替えに行くか。
柏 木  そうですね、朝だとなにかとバタバタしますし。
小 嶋  松井の社長にはあとで電話して話を通しておきますよ。遊説終わった時間だと、ふだんは閉店してる時間なんで。
忠 明  すまんな、松井には俺からも電話しとく。
美奈子  あら、松井電機の社長なら、いま、そこにいるわよ?
忠 明  は?
美奈子  さっき出陣式にきたでしょ。そのあと、そのままうちの選挙事務所で寝てるの
和 則  はぁ?
美奈子  昨日、呑みすぎて具合悪いんですって。帰ったら従業員や奥さんの手前、寝られないからって・・・
和 則  二日酔いか
厚 子  松井さんったら、いい年して何やってんの
忠 明  まぁ、そう言うなって
美奈子  あと、横山スポーツの社長と北原印刷の社長も仲良く一緒に寝てたわよ
柏 木  そういや、3人で川の字になって寝てましたね。
厚 子  親子か!
美奈子  横山さんなんか朝イチでユニフォーム届けにきたと思ったら、そのままバタンキューだもん、出陣式のあいだも寝てたわよ
柏 木  北原社長も「パンフレットとポスター、とりあえず出来たぶんだけ持ってきた〜」って、そのあとバタンキューでした。残り
     は母ちゃんが〜とか、むにゃむにゃ言ってましたね
忠 明  みんな昨日はずいぶんと呑んでたからなぁ
厚 子  まったく、どいつもこいつも!たたき起こしてやろうかしら
和 則  まぁまぁ姉ちゃん、みんなアニキのために頑張ってくれるんだからよ
柏 木  そうですよ、お世話になるんですから
厚 子  どうせ頑張るなら、出馬を止める方向で頑張ってほしかったわ
忠 明  おまえなぁ、
美奈子  まぁまぁ、どうせみんな後で奥さんにこってりしぼられるんだから、今はゆっくり寝させてあげましょ
厚 子  そうね、どうせあとで、それぞれひどい目にあわされるんだしね
柏 木  み、みんな尻に敷かれてるんですね・・・
美奈子  まぁ、うちは違うけどね、ウフフ
柏 木  ハハハ、
和 則  ・・・。
柏 木  ・・・、(こそっと)ここ笑うとこですよね?
小 嶋  俺に聞くな・・・とりあえず、松井社長が起きたら、さっきのこと伝えておきます。
忠 明  ああ、頼むな。
小 嶋  今日の夕方には選挙カーが出来上がると思うんで、届いたらすぐ車を警察署に持って行って、許可貰ってきますよ。
厚 子  えっ、なに? 選挙カーって警察の許可がいるの?
和 則  そりゃ、道路交通法違反になるからな。
美奈子  結構めんどくさいのね〜。ま、自転車で回るのもいいダイエットになりそうだし、今日は
     私もがんばるわー
厚 子  じゃあ私も・・・
小 嶋  あ、奥さんはここに残って、事務所にくる支援者さんたちにお茶でも出して、ご挨拶し
     てください
厚 子  ええっ、ご挨拶ってたとえば?わたし難しいこと言えないわよ!
小 嶋  ・・・このたびはよろしくお願いします、とか。簡単でいいですよ
厚 子  ええ〜誰かきたら小嶋くんが相手してよ
小 嶋  そりゃ、ある程度はしますけど、ぼく、いろいろ選管に提出しなきゃならないものがあ
     るし、ポスター出来た分から、あちこち貼ってこなきゃいけないんで・・・
厚 子  はぁ〜お父さんがバカなこと引き受けるから本当に頭が痛いわ
忠 明  バカなことってなんだ!お前だって、「だったらお父さんが出ればいいじゃない」って、
     言ったじゃないか
厚 子  あんなの冗談に決まってるでしょ!なに本気にしてんのよ
忠 明  別にあれで本気になったわけじゃなくてなぁ!
美奈子  まぁまぁ、ふたりとも、今さら仕方ないでしょ!こうなったら頑張らないと!ホラ、遊説
     遊説、行きましょ行きましょ

       美奈子、拡声器を小脇にかかえ片手にマイクを持ちながら自転車で去る。
       厚子と小嶋を残しみんな自転車で退場。

美奈子  「みなさん、おはようございまーす!まえだ・まえだ・前田忠明でございま〜す」

厚 子  意外とノリノリね、美奈子さん

       そこへマリコが峯岸を追って登場。

マリコ  ちょっと困ります、ねぇ、おじいちゃん!
峰 岸  おい!なんだこの事務所は
厚 子  あら、峯岸のじーちゃん、どうしたの
峰 岸  前田ちゃんが選挙出るって言うから激励にきてやったのに、支援者がきてもお神酒のひ
     とつもださねーのか!
小 嶋  あのですね、おじーさん。いまは選挙事務所でお酒を振舞うのは立派な選挙違反なんです
     よ。
峰 岸  そんなこと知るか!いいか、選挙事務所ってのはなぁ、人が集まってなんぼなんだ。酒や食事をたんまり用意して、みんなで
     毎日、朝から晩まで宴会みたいワイワイやって、7日間を戦う。それが選挙なんだよ
小 嶋  いやだからね、それは昔の話!今は公職選挙法でお酒も食事も事務所でふるまっちゃダメなの!それやったらみんな捕まっ
     ちゃうの。とりあえずほら、お茶でも飲んでいって?まりちゃん、向こうでお茶用意して
マリコ  はい!すぐに(退場)
小 嶋  ごめんね〜マリちゃん、本当はウグイス嬢で頼んだのに〜(言いながらじーちゃんを強引に連れ出す)
峰 岸  あ、なにするこのやろ、離せ、お茶なんかで酔えるか!
小 嶋  朝っぱらから酔っ払ってどーすんの!いくら余生でももうちょっと健康的にね・・
峰 岸  ばかやろう、酒は百薬の長だぞこのやろっ、おい、引っ張るなって!

       小嶋、じーちゃんを引っ張って退場。

厚 子  ・・・じいちゃんもあいかわらずね。そういえば昔から、どこの選挙事務所に行っても峰岸のじーちゃんが酒呑んでるって評
     判だったのよね・・・フフ、ほんとに昔の選挙ってちょっとしたお祭りみたいで楽しかったわ・・・って、このノボリ! も
     う、大事なもん忘れてるじゃない。ちょっと〜ノボリ、ノボリ〜〜〜!!

       厚子、ノボリを持って走り去る。
       暗転。暗い中、小嶋の声だけがひびく

小 島  はぁ〜、参った、参った。なんなんだ、あのじーさん・・・あれ?奥さんは?どこ行っちゃったんですか、奥さん? おー
     い、厚子さーん! あれぇ?


       明かりがつくと、そこは選挙事務所。
       神棚と、壁には「前田忠明さまへ『祈 必勝』○○院議員 ○○○○(議員氏名)」
       などと書かれたデカイ模造紙が何枚も並んで張られている。(この手書きの必勝祈願
       ポスターの議員の名前はそれぞれ違う)
       小嶋とサエコと厚子の3人は、同じように別の議員から贈られた手書きの必勝祈願
       ポスターを貼っている最中。
       そこへ、遊説に行ったメンバーである忠明、和則、美奈子、柏木が帰ってくる。
       みんなバテバテである。 

サエコ  あ、おつかれさまでーす
小 島  お帰りなさい、お疲れのご様子ですねぇ
忠 明  いやぁ、疲れた!
サエコ  大丈夫です?なにか飲みますか、
忠 明  ああ、すまんな、お茶、いやコーヒーもらえるかい?
サエコ  はい、みなさんは?
柏 木  じゃあ、ぼくもコーヒー
和 則  オレも
美奈子  わたしも
サエコ  いま、いれて持ってきます。ちょっとお待ちくださいね〜(出て行く)
柏 木  ・・・だめだ、久しぶりの自転車・・・脚が死んだ
和 則  なんだ、だらしねぇな若者が
厚 子  そういうあんたもぐったりじゃない
和 則  姉ちゃんこそ、疲れた顔してるじゃねぇか、まだ今朝の疲れが残ってるんじゃねぇの?
厚 子  あたりまえじゃない、あんたたち追いかけてノボリ持って何キロ走ったと思ってるの!
     この年になると、ちょっと無理すると3日は祟るのよ!
忠 明  だが、すごい評判だったぞ。「ノボリ持って走るなんて奥さん気合はいってますね〜」って。おまえ、これから毎日やったら
     いいんじゃないか?
厚 子  冗談じゃないわ、もう懲り懲り!明日からは忘れても届けたりしないんだからね!
忠 明  まぁ、明日からは車があるから、もう自転車は使わんよ。おれも自転車で走り回るのは懲り懲りだ。
美奈子  いやでも、兄さん、わたしいいこと思いついたわ!
忠 明  なんだ
美奈子  兄さんが市長になったらダイエット発電で市の経済を活性化させましょう!
忠 明  なんだそれは
美奈子  保険センターでも体育館でも役所でもどこでもいいわ!発電用の自転車を置いて、市民に運動をかねて自転車こがせて発電す
     るのよ!その電気で市の施設の電気代をまかなうの!市民のメタボ対策、健康促進に電気代の節約!
和 則  また、おかしなこと言い出したな、おまえ
小 嶋  うーん、あまった電気は北電に売って市の収入にしてもいいですね。
和 則  え?
忠 明  いや、ばかばかしいけど、おもしろいな、それは。
美奈子  でしょう?
和 則  ええ?
忠 明  駅やそのへんの放置自転車を改造して作ればコストもそんなにかからないだろうし
柏 木  いいじゃないですか、放置自転車の処理も結構経費かかってますからね
小 嶋  じゃあマニフェストとして発表しちゃいます?
和 則  ええ、なに?みんなマジで?
忠 明  いいじゃないか、マニフェスト。
柏 木  選挙の政策って割りと抽象的ですからね。
和 則  そりゃ確かに経済の活性化って言っても具体策は書かれてないことが多いけどよ
美奈子  決まりね!ダイエット発電
和 則  マジかよ!
小 嶋  うん、これはやっぱり女性の声をもっと聞きたいな。
美奈子  小嶋くん?
小 嶋  いえね、やっぱり女の人の意見って生活に即してるじゃないですか、政策を固めていくには主婦のみなさんとのお茶コンって
     いいんじゃないかと
和 則  人妻とコンパ?!
小 嶋  コンパじゃないですよ、お茶の間「懇談会」です。
和 則  懇談会、
小 嶋  そこで市への要望を聞くんです。男はいろんな側面を考えて幅広い解釈ができるように言葉を選ぶからどうしても輪郭がぼや
     けますが、女の人って自分の欲望をストレートに・・・いや要望を具体的にあげてくれるから、逆に参考になると思うんです
     よ。
忠 明  それはあるかもな
美奈子  あんたなかなかわかってるじゃない。
小 嶋  ダイエット発電、すばらしいアイデアですよ。
美奈子  そ〜お?じゃあ私、婦人会やファンクラブの友達に声かけて人集めるわ(携帯を取り出してメールを打ちはじめる)
柏 木  ファンクラブ?
忠 明  おい、あいつらも呼ぶのか
美奈子  (メールしながら)呼ぶわよ?トーゼンでしょ!ね、お茶コン、さっそくだけど明日でいい?
小 嶋  ええ、お願いします!そのかわりお茶菓子は奮発しますから
和 則  んなこと言ってると峯岸のじーちゃんが勇んでやってくるぞ
厚 子  酒がなけりゃ帰るでしょ
小 嶋  おとなしく帰りゃいいけど、いちいち怒鳴り込んでくるからなぁ〜 
厚 子  選挙イコールただ酒飲み放題って刷り込まれてるからねぇ、じーちゃんは
和 則  でもあれで結構働いてくれるのよ。街頭演説のときなんか、そのへんの家、片っ端からチャイムならして人呼んできてくれる
     し
柏 木  あれは助かりますね。ぼくら運動員があれやったら戸別訪問は選挙違反だってすぐ騒がれますけど

       マリコが入ってくる

マリコ  サエちゃ〜ん、ちょっと手伝ってほしいんだけど・・あら?
忠 明  悪いな、いま飲み物用意してくれてるんだ
マリコ  みなさん、帰られてたんですね、わたし、お出迎えもしないで・・・声が聞こえなかったから、気づきませんでした。すみま
     せん
和 則  いや、いいの、いいの。俺らもう、ヘトヘトでよ、そこの角からは黙って帰ってきたんだ
小 嶋  どうりで遊説の声が聞こえなかったわけだ
柏 木  正直、桃太郎なめてました。ゆるやか〜な長い坂が、あんなにしんどいとは・・・
和 則  いや、ほんとに地味にきつかったな!
厚 子  男の人は普段、あんまり自転車乗らないから余計ね。運動不足なのよ
柏 木  あんまりっていうか、全然ですね。高校卒業以来ですよ。
美奈子  (メールを打ちながら)わたしもよ。乗らないと体力おちるわねぇ
マリコ  やっぱり私とサエちゃんが行けばよかったですね。
和 則  いや、いいんだよ。今日は俺たちの自治会や市街地が中心だったからな。
美奈子  (メールを打ちながら)そうそう
柏 木  自転車でまわると顔がよく見えるでしょ、顔見知りの多い僕らが挨拶したほうが反応がね
マリコ  確かに顔見知りに挨拶されたら無視できないですもんね
和 則  そのかわり明日からは頼むぜ、マリちゃん! ウグイス嬢〜
マリコ  それはもう。
美奈子  (メールを打ちながら)ハイ、一斉送信!と。マリちゃん、さえちゃんの代わりに、わたしが手伝うわよ。なにしたらいい
     の?
マリコ  すみません美奈子さん、単票の整理なんですけど
美奈子  オッケイ、オッケイ!単票ね!  
マリコ  じゃあ、こっちでお願いします。(他の人に)じゃあ、ごゆっくり(戻る)
和 則  おお(他の者も返事代わりに軽く手を上げる)
美奈子  そういや、峯岸のじーちゃん、単票も随分集めてくれたのよね〜(とマリコの後に続く)
厚 子  単票?
小 嶋  後援会の入会申込書のことですよ。パンフレットにはさんであるでしょう?
厚 子  あ〜あれね、でもあんなの何の参考になるの?わたし、いつも頼まれたら誰のでも書くわよ?
和 則  ははは、俺もだな
柏 木  ま、たしかに名前書いてくれたからって必ず投票してくれるわけじゃないんですけどね。
和 則  でもまぁだいたいの目安にはなるわな。あとはやっぱ名簿作りか。
柏 木  ハガキ出したり、電話かけたりね。最終的には名簿だけじゃなく電話帳使ったりもしますけど
厚 子  え、そういえばハガキ代!あれもかなりの枚数よね、いくらくらいかかるのかしら!
忠 明  まったくお前は金のことばっかりだな!
厚 子  だって!
小 嶋  選挙ポスターとか看板代もそうですけどハガキ代もちゃんと公費で負担してくれるから心配ありませんよ。
厚 子  ほんと?!よかった〜
小 嶋  そうじゃないと、お金に余裕のある人しか出馬できなくなっちゃいますからね。
厚 子  そうよね、なによ、日本の選挙制度もなかなかわかってるじゃない
柏 木  まぁ、供託金没収される場合、これも自己負担になっちゃうんですけど
厚 子  なんですって!(ちょうど、お茶とコーヒーをもってきたサエコがビクッと驚く)
小 嶋  ちょ、おまえ・・(笑) 余計なこと言うなって!
厚 子  い・や〜〜〜〜!!!!(サエコ、わけがわからずキョロキョロしている)

       暗転。


       翌朝の事務所。全員そろって朝礼中。。
       神棚にむかって先頭に忠明、少し下がって、横に小嶋。さらに下がって、他の面々

小 嶋  それでは、本日も事故の無いよう、遊説の安全と、候補の必勝を祈願したいと思います。
     みなさま、候補にお習いください

       忠明、神棚に向かい一歩前に。恭しく二礼二拍手一礼。他の者もそれに習う。

小 嶋  では、本日もよろしくお願いします。今日からは選挙カーに乗り込んでの遊説となります。
     みなさん、事故のないよう、くれぐれも注意し励んでください。

       遊説の面々、「よろしくお願いします」と口々に言い合う。
       そんな中、厚子だけはまだ神棚に手を合わせてぶつぶつと拝んでいる

厚 子  どうか供託金が没収されませんように、供託金が没収されませんように・・
忠 明  おまえ、いい加減しつこいぞ

       ピンポーン

小 嶋  ハーイ!(出て行く)
美奈子  まりちゃん、これ、おやつとコーヒー。どっか適当なとこで休憩してね(バスケットと
     ポットを渡す)
マリコ  すみません。じゃあこれ、先に車に積んじゃおうか
サエコ  あと一応、替えの手袋と・・・毛布も乗せておこうかな
柏 木  あ、おれ運ぶよ。
小 嶋  みなさーん、すみません、もう一回、神棚の前に集まって!(と、ダルマを持ってくる)
和 則  おお、だるま、届いたか!
忠 明  おい、墨汁と筆、用意してくれ
厚 子  はいはい、えーと、確かそこの引き出しにいれたのよね
小 嶋  遅ればせながら、ダルマの目入れをしましょう。あ、お日柄は大丈夫だったかな
和 則  (カレンダーを見て)今日は友引だぞ
柏 木  (スマホを見て)えーと、ダルマの目入れには・・・大安・友引・先勝ですね。
忠 明  じゃあ大丈夫だな
美奈子  ダルマの目入れにも、そういうの関係あるのね。
小 嶋  本当は事務所開きにそういうお日柄のよき日を選んで、目入れもするんですよ。
厚 子  (墨汁と筆をお盆に載せて)用意できたわよ
小 嶋  コホン!では、改めまして・・・ダルマの目入れ式を行いたいと思います。まずは前田忠
     明市長候補の当選を祈願して、(神棚に向かい、二礼二拍手一礼。ダルマを抱え)候補。
忠 明  うん。(厚子から筆を受け取り)・・・と、右からだったか?
小 嶋  はい、右です。当選したら左目を・・・あ!
和 則  ん?
小 嶋  そうだ、秋元社長から言われてたんだった、すみません、両目に丸を描いてください。
     当選したら両目とも塗りつぶすということで。今は両目とも○だけ描いて、塗りつぶさな
     いでください
忠 明  なんだそれ
小 嶋  なんか、今はダルマの片目が差別だと騒ぐ人たちがいるらしくて・・・
美奈子  はぁ〜?
和 則  あ、そういえばそんなニュースあったな
厚 子  ええ〜?ほんとに?
小 嶋  とりあえず候補、両目とも○だけ描いて白目に
忠 明  あ、ああ、(両目を描く)・・・なんか変な感じだな
サエコ  っていうか、片目が差別なら、そもそもダルマに手足がないのもマズイんじゃないですか
全 員  ・・・。
美奈子  手足・・・つける?
全 員  ・・・。

       全員、無言でダルマを囲んで見ているところに、峰岸のじーちゃんがくる

峰 岸  よぉ!表に選挙カーとまってたな!初乗りの前に、まずは景気づけに一杯呑もうぜ!
柏 木  なに言ってるんですか
峰 岸  お〜ダルマか!めでたいな!よし、お神酒のんで必勝祈願だ!
小 嶋  お神酒はありません!
峰 岸  またけちな事いいやがって、ん?なんだ、このダルマ。目が・・
和 則  ああもう、面倒だ!行くぞ!
柏 木  そうですね、もう出発しましょう!(みな、そそくさと出かける)
美奈子  みんな頑張ってね〜
サエコ  ハーイ
峰 岸  あ、おい!
小 嶋  あ、美奈子さん、今日のお茶コンの準備、お願いしますね
美奈子  オッケイ!
小 嶋  期待してますよ、女性の意見〜
美奈子  まっかせて〜
峰 岸  おい、景気づけに一杯やらねぇのか!おい!

       暗転。

忠明の声「ダルマの手足か・・・」


        * * * * * 

       事務所。明かりがつくと、さり気なくダルマに微妙な手足がつけられている。
       忠明、和則、小嶋、柏木が頭をかかえている。

和 則  おい、誰だよ、女の人の意見は参考になるって言ったやつ
小 嶋  おれです。すみません。
柏 木  まさかあんな大胆な意見がとびだすとは・・・
忠 明  おれはなんとなく予感がしてた

       厚子と美奈子が大興奮で横断幕を持って登場。横断幕には「新市名「ああ!氷井川きよ市」」と書かれている。

厚 子  いや〜、ホントにインド人もビックリのこのアイデア!
美奈子  市の名前を新しく変えて、心機一転、町づくり!
厚 子  その名も
厚子・美奈子 「ああ!氷井川きよ市」
忠 明  お前らふざけてるだろ!
美奈子  何言ってるの!まじめもまじめ!大まじめ!
厚 子  演歌歌手の氷井川きよし君には名誉市民に就任してもらって〜
美奈子  イブの夜には「きよしとの夜」と銘打ち大々的なディナーショー!きゃー!
和 則  それ、完全にお前らの趣味だろ!
美奈子  マスコミ大注目!ファンも大挙して押し寄せ一気に観光収入がはねあがるわよ〜!
和 則  だめだ、聞いちゃいねぇ。
忠 明  だいたい、「ああ!」ってなんだ「ああ!」って
厚 子  「ああ、小麦峠」みたいで感動的でしょ!
忠 明  知るか!
美奈子  それに最初に感嘆符の「ああ!」をつけることによって、全国市町村名をアイウエオ順に並べたときに、な、なんと!我が
    「ああ!氷井川きよ市」がトップに躍り出るのよ!
厚 子  ふはは!現在トップの相生市やぶれたり〜!!
和 則  どこだよ相生市
柏 木  兵庫県です
小 嶋  っていうか,、市町村合併のときならまだしも…
和 則  それだよ、いまさら市の名前を変更するって、
柏 木  しかも氷井川きよ市って、 
和 則  なんだそりゃ!                
忠 明  おれはファンクラブの連中がくるってあたりで嫌な予感はしてたんだ。
柏 木  ファンクラブって氷井川きよしのだったんですね・・・
和 則  姉ちゃんもうちのやつも、もう熱狂的なファンなんだよ。
忠 明  この守銭奴がきよしの為ならいくらでも出すからな。
和 則  むしろ、きよしのために普段節約してるっていう・・
厚子・美奈子 (歌う)どン、どンどン、どん底!キヨシ!

       厚子と美奈子、横断幕を持って歌い踊る。そこに峯岸のじーちゃんが登場

峰 岸  なんだ、賑やかだな、宴会か!宴会なのか!やっぱり選挙事務所はこうでなくっちゃ!酒はどこだ酒は(なぜか一緒になって
     踊る)
小 嶋  あ〜も〜また面倒なのが

       アキラが駆け込んでくる

アキラ  おい!オヤジが市長に立候補したってマジか!
和 則  おまえ、今頃かよ
アキラ  今頃かよって、出張でいなかったんだよ。帰ってみたらみんなに「お父さん頑張ってね」って、、なんのことだっつーの
和 則  なんだアキラ、お前の嫁さんから連絡いかなかったのか?
アキラ  嫁・・・、
美奈子  あ〜〜〜〜〜!!そうよ!アキラ、あたしビックリしたわよ!
厚 子  美奈子さん?
美奈子  単票整理してたら、亜美ちゃん、旧姓で実家の住所になってるじゃない!あんたいつ離婚したの?
忠 明  なんだって?
和 則  離婚?!
厚 子  ちょっと聞いてないわよ、どういうことなのアキラ!
美奈子  え?姉さんたちも知らないの?
厚 子  知らないわよ!
アキラ  ちょ、ちょっと待った、ちょっと、いや、これにはワケがあるんだよ
忠 明  じゃあほんとなのか
アキラ  いや、ホントだけどウソっていうか
和 則  なんだそりゃ
忠 明  どっちなんだ!
アキラ  あ〜なんていうか、書類上の離婚っていうやつ?事実婚状態って言うのかな
美奈子  はぁ?わかるように説明してよ
アキラ  だからぁ・・・保育園代が高いんだよ!
和 則  へ?
アキラ  市の保育園ってその世帯の収入によって料金が高くなるんだよ。おれら二人分の収入だと月に7万超えるんだって
和 則  7万?!
美奈子  そっか、離婚して母子世帯になったらぐっと安くなるんだ!母子家庭だと月、いくら?
アキラ  五千円ちょい
和 則  安っ、ってことは? 6万5千円も差があるのか、大きいよな
美奈子  それに母子家庭手当も出たりするんじゃないの?
アキラ  え、・・・どうだろ、それは聞いてないな
厚 子  亜美ちゃんのことだもの、、絶対貰ってるわね。
和 則  亜美ちゃんだもんなぁ
忠 明  このばかやろう!
厚 子  お父さん!
忠 明  情けない、なんて情けないヤツだ、おまえはそれでも男か!
和 則  ま、まぁまぁアニキ!
忠 明  いくら高いって言ったって、所得から算定してるんだから払えない金額じゃないだろう!恥を知れ!
アキラ  ・・・なんだよ、うるせーな!おれだってこんなの情けねぇよ!だけど俺がそう言ったって、アイツがきかねぇんだよ!気が
     ついたら勝手に届けを出してたし!
忠 明  なに、人のせいにしてるんだ!
厚 子  ふふふ、亜美ちゃんもねぇ、あのこ、お嬢さん育ちだから。使えるお金が少なくなるのは我慢できないのね
和 則  姉ちゃん、なにのんきに笑ってんの
厚 子  だって、アキラはお父さんのせいで貧乏に慣れてるもの。お金がなかったらなかったで楽しむことを知ってる子。お金をケ
     チって偽装離婚なんて、亜美ちゃんが強引にひとりで進めなきゃ、するわけないじゃない。お父さんだってそう思うでしょ、
     アキラはお父さんの子なのよ?
忠 明  ・・・。
アキラ  母さん・・・
厚 子  まったく、悪知恵を働かせて・・・いかにも亜美ちゃんらしいわ。
アキラ  (焦って)いやでもアイツも根はいい子なんだけど
厚 子  一句出来たわ。「根はいい子、母さんそれもう耳にタコ」いっそもう、ほんとに別れたら?
アキラ  母さん!
厚 子  冗談よ
アキラ  冗談に聞こえないって
美奈子  も、もう、姉さんってば・・・、ねぇ? (苦笑) でも兄さん、兄さんがいちばんわかっ
     てると思うけど、ほんとに、アキラはそういうずるいことが出来るタイプじゃないわよ。
和 則  だな、なんてったって、アキラは金のかかってないアニキ手作りのパチンコが宝モンだったもんな
忠 明・アキラ  あれはパチンコじゃなくて弓矢だっつーの!

       ふたり、見事にハモり、顔を見合わせる。

和 則  ぷぷ!ハモちゃってんの!あれのどこが弓矢なんだよ
忠 明  改良を加えてるうちにあの形になっちまったんだよ!おい、小嶋、柏木!呑みに行くぞ!
小嶋・柏木  え?おれら?
アキラ  あれ、おまえら・・・
峯 岸  お!呑みに行くんか!前田ちゃんの奢りだな?
忠 明  オレに選挙違反させる気か!ワリカンだよ!ワリカン!(さっさと退場してしまう)
峯 岸  チッ、まったくどいつもこいつも違反違反って!昔は選挙って言えばなぁ〜おい!(追いかけて退場)
美奈子  照れちゃってまぁ、兄さんも可愛いもんね。
アキラ  なんでお前らがここに?
小 嶋  おれ、おじさんの選対事務局長。
柏 木  ぼくは選対本部長です!
美奈子  なに?知り合いだったのあんたたち。
小 嶋  おれ同級生です。
柏 木  ぼくは1こ下なんですけど、むかしよく一緒に遊びました。
アキラ  っていうか、母さん気づいてないのかよ。コイツ、うちで働いてた小嶋のよっちゃんの息子だよ
厚 子  え、よっちゃんの?!
美奈子  あの、子供のくせに成人病だったオデブちゃん!?(小嶋じゃなくて柏木に対して)やっだ、気づかなかったわ〜
厚 子  わたしもよ〜!ちょっと、あんたあの頃の面影、その太ってる体にしかないじゃない! 
     きゃははは
柏 木  っていうか、ふたりとも!ぼく柏木です。
厚 子  あ?あ、そうよね、あなた柏木くんだもんね。
美奈子  え?じゃあ・・・小嶋君が小嶋の・・・あのオデブちゃん?あの贅沢なお肉はどこへ?!
小 嶋  おれ痩せましたから
美奈子  やだ、わかんないはずよぉ〜〜〜どうしたの、そんなガリガリになっちゃって!
小 嶋  そりゃ健康の為ですよ。
美奈子  ちなみにどうやっての痩せたの?!
小 嶋  ・・・死ぬほど辛い食事療法と朝晩のジョギングですね
美奈子  ま、そうよね(急激に興味をなくす)
和 則  だからおまえ、楽に痩せる方法なんかねぇんだよ!
美奈子  うるさいわね、ちょっと聞いただけじゃない。っていうか兄さんひとりで行っちゃったけどいいの?
厚 子  峯岸のじーちゃんがついて行ったし、いいんじゃない?
アキラ  それよりさ、なんでオヤジが市長選にでることになったんだよ
小 嶋  ん〜話せば長いことながら
和 則  おまえがタイムカプセルにいれた宝モンが発端だな
アキラ  なんだそれ
和 則  というわけで、アキラ!お前は責任とって我が選対の政策会議に参加すべし
アキラ以外  わ〜パチパチパチ!(拍手)
和 則  じゃあ、明日の夜は〜
柏 木  8時だよ!
アキラ以外  全員集合!(腕を振り上げる)
和 則  アキラ!おまえも来いよ!じゃあ解散!

       「あ〜疲れた疲れた」と口々に言ってみんな解散してしまう

アキラ  はぁ〜?そのまえにちゃんと説明しろよ!なんだタイムカプセルって、おい!

       暗転。

       事務所。誰も敢えて話題に出さないが、ダルマの手足がなんか立派になってる。
       厚子・美奈子・和則が単票の整理をしながら会話している。

美奈子  それにしても、亜美ちゃんもほんと、とんでもないこと考え付くわよね
和 則  友達にシングルマザーがいるんじゃないか?
厚 子  何人かいるわね。それで母子家庭がいろいろ優遇されてて羨ましいって、よく言ってたわ
和 則  大島も自分の娘が出戻ったからな、そっち方面には力いれたんだよ
美奈子  だけど書類上だけの離婚って言ってもさぁ、結局、離婚は離婚よね。
和 則  ま、法律上、他人になっちゃったわけだしな
美奈子  ちょっとケンカして離れたら、そのまんまホントの他人じゃない
和 則  ある意味それ、綱渡りの関係だよな。
厚 子  いっそもう別れればいいのよ、ばかなんだから、ほんとに。
美奈子  姉さんってば、
厚 子  もう知らないわ。勝手にすればいいのよ
美奈子  またそんなこと言って。
和 則  ま、外野があれこれ言っても仕方ないか
厚 子  そうよ、ハイ、この話はおしまい!
美奈子  なんだかんだ言って、亜美ちゃんのこと可愛がってるくせに
和 則  姉ちゃんは昔から、ああいう裏表がなくて、ちゃっかりした子と気があうんだよな。
厚 子  聞こえませーん
美奈子  はいはい、もう言いませんよ
和 則  はぁ〜こういう作業も肩こるな(大きくノビをして)おっと、そろそろスーパーの前で街演する時間だな
厚 子  がいえん?
和 則  街頭演説だよ。おれちょっと行ってくるわ。あ、そのまま車乗ってカラスやるかもしれん
     から、そのときは遅くなる(去る)
美奈子  はーい
厚 子  カラス?
美奈子  女の子はウグイス嬢っていうでしょ。男はカラス
厚 子  なるほどね、確かにウグイスおじさんよりはいいわ
美奈子  ウグイスおじさんって(笑)でもさ、街頭演説って言えば、どうしてあんな喋り方するの
     かしら
厚 子  ん〜?どんな喋り方?
美奈子  「わたしは!この!まちをっ!」みたいにやたら細かく区切って喋ってるでしょ。
厚 子  あ〜あれ、私も不思議に思って聞いたんだけど、普通に喋ると建物に反響してホワン
     ホワン〜って何言ってるかわからなくなるからだって。出来るだけ短く発声するとクリア
     に聞こえるらしいわよ。
美奈子  は〜、なるほどねぇ。でもさ、確かにクリアに聞こえるけど途切れ途切れだから結局なに
     喋ってるのかわかんないんだけど。
厚 子  あはは確かに!言語明瞭意味不明、ってやつ?
美奈子  懐かしいフレーズね!それ誰だっけ
厚 子  あれよ、消費税が導入されたときの総理大臣
美奈子  そうだ、よく覚えてたわねえ 
厚 子  忘れられないわよ、ただでさえ借金で困ってんのに消費税なんか導入するんだもの
美奈子  いまじゃ当たり前になってるけどね
厚 子  慣れって怖いわ。導入されるまではあんなに抵抗あったのに
美奈子  消費税もさ〜確か、その前の総理のとき、一回廃案になったのよね、
厚 子  そうよ、そのときは売上税って名前ね、で、次の総理大臣で、売上税から消費税に名前変えて導入しちゃってさ。ったく、政
     治家ってのはタヌキだなと思ったわよ。
美奈子  そういや、別の政権になったとき、夜中にいきなり「消費税廃止します!」って緊急記者会見あったじゃない?
厚 子  あ〜あんとき一緒に家で呑んでたのよね、んで、ふたりで「やった!」ってバンザイして
美奈子  で、その両手を下ろさないうちに「かわりに新たに福祉税を導入します」って。
厚 子  「あほかー!!」って思わずテレビの前で叫んだわ
美奈子  あんときの姉さんの雄たけび!酔いつぶれて寝てた兄さんが飛び起きて、テーブルの角に
     頭ぶつけて・・・笑ったわ〜
厚 子  笑い事じゃないわよぉ
美奈子  ごめんごめん、だってさぁ
厚 子  夜中に叫ぶ奴があるかってずいぶん怒られたわ
美奈子  夜中にあんなわけわからん記者会見やる方が悪いのよ
厚 子  そうよ、なんで「単に名前を変えただけ作戦」がもう一度使えるかと思ったのかしら
美奈子  いくらなんでも国民をばかにしすぎよねぇ
厚 子  当選したらうちの人も政治家の仲間いりよ〜?
美奈子  おぅ・・兄さんが政治家・・・、言っちゃ悪いけど違和感ハンパないわね
厚 子  そうなのよ、キツネとタヌキの中にワンコが紛れ込んだような・・・
美奈子  そうねぇ、兄さんは良くも悪くも単純っていうか、
厚 子  バカ正直っていうか、
美奈子  腹の探り合いなんて器用な真似できる人じゃないしね。
厚 子  おかげでずいぶん苦労したわよ
美奈子  ははは、まぁそれが兄さんのいいところでもあるんだから
厚 子  どうなるのかしらね〜この選挙。
美奈子  ん〜こればっかりはフタあけてみないとわかんないわね。
厚 子  なんとしても、きよしには名誉市民になってもらいたいけど
美奈子  そうね、あと氷井川きよし記念館も実現したいわ!(まじめ)
厚 子  氷井川きよしクリスマスディナーショーもね!(大まじめ)
美奈子  でもまずは選挙に勝たないとねぇ、
厚 子  そうよ、それが1番の問題なのよね。
美奈子  やっぱ、神頼みか(ちらりとダルマを見て、ふたり、神棚の前で二礼二拍手)
厚 子  (拝みながら)あ、とりあえず供託金が没収されないことを祈るわ。
美奈子  それ、よっぽど心配なのね・・・

       暗転

       選挙カー、マリコとサエコと柏木が遊説中。

マリコ  「ありがとうございます、ありがとうございます、市長候補の前田忠明、前田忠明でござ
     います」
サエコ  「させてください」
柏 木  「やらせてください」
マリコ  「前田忠明でございます」
柏 木  「どうか、やらせてください」
サエコ  「たたせてください」
マリコ  「前田忠明でございます」
柏 木  「奥さ〜ん!やらせてくださ〜い!」
サエコ  「前田を男にしてください!」
マリコ  「前田忠明でございます」っていうか、ふたりとも!ふざけてるでしょ!
柏 木  いやいや、まじめにやってますよぅ
サエコ  てへ

       暗転

       事務所。ダルマの手足が微妙にグレードアップしている。
       アキラ・和則・小嶋がたくさんのメモを見ながら政策会議中。
      
アキラ  確かにこりゃひどいな
小 嶋  だろ?
アキラ  なんだ「ああ、氷井川きよ市」って。確かに観光客は増えそうだけど!・・・ダイエッ
     ト発電はまぁ面白いっちゃ面白い。
小 嶋  それは意外といいアイデアだと思うんだよ。まぁ、風力やソーラーに比べたら地味だし、北電に売るほどの電力は無理だと思
     うんだけど
アキラ  逆にいいんじゃないか、このくらいの規模で。北電は買い取る電力の上限を決めるそうだから
和 則  マジで?
アキラ  なんだかんだ言っても北海道は電力足りてるし、余剰分を他の県にまわすにも津軽海峡をつなぐ送電線に限界があるからな。
     それに自家発電の買取事業に出してる政府の助成金もなくなるし、北海道で発電事業に乗り出してとこはどこも旗色が変わっ
     て焦ってるんだよ
和 則  ほ〜
アキラ  で、これは・・・水田の負担金が高い?農協に言えよ。市への要望をきいてるんだっつーの。こっちのはなんだ、「山間助成
     の金、対象の個人にほしい」って、なんだこりゃ
小 嶋  ああ、それな、ほんとは山とかの、坂が急で作りづらい畑を持ってる農家のための助成金なんだけど、全然違う使われ方して
     るんで不満がでてるんだ
和 則  どういうことだよ、それ
小 嶋  国からまとめて地方自治体に予算がいくんだけど、使い方はそれぞれの自治体の自由らしいんですよ
和 則  ああ?
小 嶋  たとえばうちの市だと、ほぼ、市の農業政策の予算として使ってて、個人にはほとんど渡らないんですよ。しかも斜面とは全
     然関係ない平地の排水工事とかに使われたり
アキラ  それ、いいのかよ
小 嶋  いいらしいんだよなぁ、これが
和 則  そりゃ不満もでるわな
アキラ  じゃあ、これ大島行政の弱みなんじゃないか?、対抗案だしてみるか?
小 嶋  ただなぁ、それぞれ個人にただ金をばら撒くより、市の農業政策の予算として使ったほうが、農業の振興にもなるし、工事を
     依頼される側も仕事が確保できるわけだし、そんなに悪い話でもないんだよな
和 則  結果的に経済が動いてるわけか
小 嶋  ぶっちゃけ、うちの秋元組もこれでかなり仕事させてもらってます
和 則  なるほど、やけに詳しいと思ったぜ
アキラ  となると、下手するとこっちの分が悪いか・・・、とりあえず保留だな。

       忠明がタスキを外しながら入ってくる

忠 明  なんだ、きてたのか。
アキラ  まぁな。ん、「これからも粗大ゴミを無料のままにしてほしい」・・・そうか、有料化の話が出てるもんな。これは使えるか
     もな。
忠 明  それはもう確定だ。粗大ごみは無料。廃棄場への持ち込みのほか、自宅に引き取りにく
     る場合もただにしようかと思う。
アキラ  何の条件もつけずに?
忠 明  そのつもりだが
アキラ  それじゃダメだな。
忠 明  なに? 
アキラ  ただ無料にするだけじゃそれだけで終わりなんだよ。どうすれば世の中がより回るかを考えねぇと。逆に粗大ごみを有料にし
     たほうがいい
和 則  おいおい、それじゃ市民が黙ってないだろ
アキラ  そこが狙い目なんだよ!今までタダだったものに金を出すのは抵抗があるだろ?
和 則  ああ、
アキラ  だから抜け道を作るんだよ。たとえば商店街で買ったレシート、どの店でもいいさ、レシ
     ートの合計金額が1万円を超えると、粗大ごみが無料になるとか、3万円以上たまると自
     宅までの引き取りも無料だとか、5万円以上だと家電の廃棄料も市が負担するとか、そし
     たら地元で買おうって気になるだろ
和 則  なるほど、地元商店街の活性化対策にもなるわけか。
アキラ  おやじはなぁ、なんでもすぐ単純に片付けちまう。それじゃダメなんだよ。
忠 明  なんだと、
アキラ  実際、駆け引きできねぇオヤジはしょっちゅう損害出してたじゃねぇか。おやじはバカ正直だから経営向きじゃねぇし、それ
     に金さえ出せばみんな黙るだろうって、考えが浅いよ。
忠 明  わかったような口を利くな!なんだそれは!
アキラ  本当のことだろ!違うなら言ってみろよ!
忠 明  おれはお前みたいになんでも無責任に口に出すのはきらいなんだ。
アキラ  どういう意味だよ。
忠 明  発言にはそれなりの責任があるってことだ。お前は少しばかり知恵がまわって口もうまいが、いざ会社に損害を与えても何も
     責任をとらないで済ましてるじゃないか。
和 則  アニキ!
忠 明  おれは違う。おれはいつだってすべての責任を自分が負ったし、その覚悟でやってるんだ
     
       アキラ、何かを言いかけるがグッっとこらえ、大きく深呼吸したあとにこの場を去る。
       気まずい沈黙。

和 則  アニキ・・・ありゃアキラが可哀想だ。都会のブラック企業ならともかく、こんな田舎の、まともな会社だったら社員個人に
     損害を負担させるなんてありえねぇ。
忠 明  そうだ、だから無責任になんでも言えるし、やれるんだ
和 則  アニキ違う。アニキはよ、アキラがあの損害を作ってから会社でどれほど肩身の狭い思
     いをしてきたか、想像したこともないんじゃないか?
忠 明  なに言って
和 則  アニキは会社の損害を全部自分ひとりで背負い込んで、誰にも何も文句を言わせなかった
     だろ。言い換えれば金で自分への批判を抑えこんで、それでおれは自分で責任を取ったっ
     て威張ってんだよ。
忠 明  おまえ、おれをそういう風に見てたのか
和 則  見てねぇよ、ただそういう側面もあるってことで
忠 明  そういうことじゃないか
和 則  いいから聞けよ!とにかくそれはアニキが経営者だから出来たことだ。イチ社員にはそれができねぇ。周りからの批判やあて
     こすりに必死に絶えるしかねぇんだよ。それがどんだけしんどいかわかるか

       間

和 則  認めてやれよ、あいつ頑張ってんだよ
忠 明  ・・・。

       峯岸のじーちゃんがやってくる

峯 岸  おう!ここは今日も酒なしか!
小 嶋  あたりまえでしょう、いつも言ってるけど選挙事務所でお酒を振舞うのは・・・
忠 明  いや待て、事務所じゃなくて自宅ならいいだろう。じーさん、自宅の方へ行こう。缶
     ビールでよければちょっと飲むか、
峯 岸  おお、そりゃ呑めるんならビールだってなんだって構いはしねぇよ!
和 則  アニキ!?
小 嶋  候補、なに言ってるんですか
忠 明  ちょっと呑みたい気分なんだ。つきあってくれるか
峯 岸  おう、いいぜ。お前もやっと話がわかるようになったな!

       ふたり自宅へ向かう。小嶋と和則は顔を見合わせ、あわてて後を追う。

峰 岸  (歩きながら)まったくよぅ、前田ちゃん、あんたはどうも、こうと思ったら他が見え
     なくなるところがあるからな。いくら公職選挙法だのなんだの言ったって、お神酒のひと
     つも出さないなんて、頭がかたいにも程があるぜ
忠 明  そうは言ってもな。あ、そのへんに適当にすわってくれ(冷蔵庫に缶ビールを取りに行く)
峰 岸  まぁ、事務所がだめなら、自宅で! いいねぇ!臨機応変ってやつだ。これだよ、この
     発想の柔軟さがお前さんには大事なんだ。これからはもっと視野を広げてだな・・・
忠 明  (ビールを持ってきて)オレは視野が狭いか
峯 岸  ちょっとな。自分の理想がハッキリしてるのはいいが、そっからちょっと外れたヤツのことも理解してやらないと。(ビール
     を受け取り)か〜キンキンに冷えてやがる
忠 明  そうか・・・、お前たちもどうだ(和則や小嶋にも奨める)
峯 岸  ぷはー旨いな!
和 則  おれも貰う。(ビールを受けとって呑む)うん、うまい。
小 嶋  じゃあ、おれも(呑む)はぁ〜・・うまい
忠 明  (呑む)はは、今日のはなんだか苦いな
和 則  ・・・わりぃ。
忠 明  なに謝ってるんだ
和 則  さっきは言い過ぎた。アキラのこと、ちょっと自分と重ねちまって
忠 明  ・・・いや、お前に言われて良かったよ。おれは自分のモノサシでしか見てなかった。なにやってんだろうな俺は。
和 則  アニキは立派だよ。どんなに経営が苦しくても、従業員の給料だけはしっかり払ってやったし、取引先にも迷惑かけないよう
     走り回った。
忠 明  それはあたりまえのことだ
和 則  だいたい経営が苦しかったのだって、潰れそうな取引先から無理に回収しないで、一緒に泥かぶってやったりしたからじゃ
     ねぇか。みんなそれを知ってるからアニキを認めてるし、世話になったヤツらはみんな感謝してる。だから今回みんながアニ
     キの応援をしてくれてるんだ。
峰 岸  おう、そうだそうだ!秋元だってな、今でこそでっかくなったが、あれも昔は一時期やばかっただろ、あんたと共同で大きな
     仕事やって持ち直したって、みんな知ってるぜ
小 嶋  いまの秋元だって、資格持ってる前田さんが非常勤役員に名前を連ねてくれてるから、大きな仕事を請けることができるんで
     すよ
和 則  やっぱ、資格もってると強いよな〜
小 嶋  奥さんは供託金のこと心配してますけど、たとえ没収される事態になっても、社長は前田さんに請求することはないと思いま
     すよ
忠 明  いやいや、秋元からは充分すぎるくらいの役員報酬だってもらってるんだ、そんなわけにはいかねぇよ
和 則  っていうか、選挙に勝つつもりで戦ってるのに、供託金没収されるようなことになってたまるか!
忠 明  まったくだな!
峰 岸  そうだそうだ!戦う以上は勝たないと!勝ったら祝勝会でいっぱい呑ませろよ!
和 則  あんたはまったく、そればっかりだな! 
小 嶋  ・・・話は戻るけど、うちのオヤジもおじさんには感謝してましたよ。うちが何不自由なく暮らせるのは前田社長のおかげ
     だって。
忠 明  小嶋くんは・・・そうか、よっちゃんの息子か。
小 嶋  ハイ、ちゃんとご挨拶してなくてすみません。社長のおかげでここまで大きくなったようなものなのに。
忠 明  昔の方が大きかったような気がするが
小 嶋  ははは、太ってましたからね、おれ。アキラとおれ、どっちが社長の息子だよって、よくからかわれました。オレはおもちゃ
     もいっぱい買ってもらって贅沢してましたしね。
忠 明  借金におわれて、あいつにはろくにおもちゃのひとつも買ってやれなかったな
和 則  そのかわり、アニキはいろいろ作ってやったじゃないか。
忠 明  ははは、作ったな。下手なりに工夫して
小 嶋  おじさんの作ったおもちゃでアキラはいつもスターでしたよ。
忠 明  ええ?
小 嶋  おれの超合金のロボットもゲームウォッチも、みんな最初は見せて見せて!って来るのに、気が付いたらダンボールで作った
     モビルスーツきたアキラの方にみんな行っちゃうんっすよ。あれは悔しかったなぁ〜
和 則  あれは実際、よく出来てたよ
忠 明  ああ、ハリボテのガンダムのことか。
小 嶋  このあいだ掘り出したタイムカプセル、あん中から出てきた物の中でもアキラのパチンコやモビルスーツはやっぱピカイチ
     で。・・・おじさんはスゴイです。
忠 明  褒めすぎだよ
小 嶋  おれ、おじさんの作るものには魔法がかかってると思ってました。
忠 明  そんな大層なものじゃない。
小 嶋  大層なものでしたよ。アキラと喧嘩になったとき、どう見ても横綱みたいな体のおれが勝つはずなのに、逆にモビルスーツ着
     たアキラにボッコボコにされて、それ見てたみんなが「モビルスーツすげぇ!」って(笑う)
和 則  モビルスーツかよ!
忠 明  ははは
峯 岸  なんかよくわからんが、いい話だ、酒がうまいぜ
忠 明  うん、うまい。・・・ありがとう。おかげで酒がうまくなったよ
峯 岸  こりゃ、あと3、4本は欲しいな
和 則  じじぃ!コノヤロ、あんまり調子にのんじゃねぇ

       みんな笑う。

       暗転。

       選挙カーでマリコとサエコと柏木が遊説中。車を叩く音がする。
       「」内のセリフはマイクを持ってしゃべっている。

マリコ  「ありがとうございます、ありがとうございます」
柏 木  「市長候補の前田忠明、前田忠明でございます」
サエコ  「前田忠明、みなさまにはげ(バンバン車を叩く音がする)ありがとうございます」
マリコ  「ありがとうございます!」
サエコ  「前田忠明、みなさまにはげ(バンバン車を叩く音がする)・・・ありがとうございます」
マリコ  「ありがとうございます!」
柏 木  ちょっと、みなさまにハゲって、なに!
サエコ  「前田はハゲ!(バンバン!)ありがとうございます」
マリコ  ちょっと、
サエコ  「前田はみなさまに励まされて!がんばっております前田忠明、これからも、前田は励ん
      で参ります。前田忠明でございます」
マリコ  「(納得)どうか変わらぬご支援を!」
柏 木  「前田忠明、よろしくお願いを申し上げます」
サエコ  「前田忠明でございます!」

       暗転。
       
     * * * * *

       事務所。ダルマの手足が更にグレードアップしている。
       美奈子が電話をしているところにマリコがやってくる。

美奈子  いつもありがとうございます、前田忠明後援会事務所でございます。はい、はい、ありがとうございます。今後ともご支援の
     ほど、よろしくお願いいたします、はい、ありがとうございました。
マリコ  すみませーん、漂白剤あります?
美奈子  (電話を切って)ありますよ〜どうかしたのマリちゃん。
マリコ  車ばんばん叩いていたら手袋汚れちゃって。石鹸で洗ったんだけどちょっとシミが落ちなくて
美奈子  あら新しい手袋使っていいのよ?
マリコ  ええ、午後からは新しいの使わせてもらいます。でもマイクにかぶせてたガーゼも一緒に
     洗っておきたいんで。
美奈子  ね、前から不思議に思ってたんだけど、なんで遊説してるときに、車ばんばん叩いてるの?
     あんなことしなきゃ手袋も汚れないでしょう?
マリコ  あれは「手を振ってくれてる人がいるから、、お礼を言って!」っていう合図なんですよ。マイク持ってる人が気づかない場
     合があるんで、大きい音だすために、車の外側を叩くんです。
美奈子  そういうことなんだ。テンションあがりすぎて暴れてるわけじゃないのね
マリコ  やっだー違いますよぉ〜。ま、合図があったら言葉の途中でも「ありがとうございます」
     って言わなきゃならないから、たま〜に、変なセリフになっちゃいますけどね。
美奈子  変なセリフ?
マリコ  ええ、さっきも、サエちゃんが「みなさまにハゲ!」「前田はハゲ!」って
美奈子  はぁ〜?
マリコ  「皆様に励まされて」とか、「前田は励んで参ります!」とか言いたかったらしいんです
     けどね。
美奈子  それ、兄さんはぎりぎりセーフだけど、大島さんだったら完全アウトね
マリコ  え、大島さんって・・・
美奈子  あ、これ大島の機密情報だった
マリコ  大島さんの頭、あれ地毛じゃないん・・・
美奈子  (さえぎるように)っていうか、セリフ全部言ってから「ありがとう」って言えばいい
     んじゃない?
マリコ  だめですよぉ、だって選挙カー走ってますもん。ありがとうって、言ったときには
     ずっと通り過ぎた後、なんて、誰にお礼を言ってるかわからないじゃないですか
美奈子  そう言われてみればそうね!
マリコ  それより大島さんの頭って
美奈子  ふんふんふっふ〜♪(わかりやすく口を尖らせて口笛を吹く)
マリコ  なんですか、その古典的な誤魔化しかた! 

       柏木が行程表を持ってやってくる。

柏 木  小嶋さーん、あ、マリちゃん、こっちに小嶋さん来てない?
マリコ  きてないですよ
柏 木  どこ行ったのかな、午後から街演やる場所について相談したいんだけど
美奈子  小嶋くんなら、なんか近くで大島の街頭演説やってるとかで偵察にいったわよ。
柏 木  えー?いつのまに
美奈子  ん〜十分くらい前? はい、マリちゃん漂白剤。あ〜このくらいのシミなら遠目じゃわかんないわよぉ
マリコ  ありがとうございます。でも真っ白いから、些細なシミでも気になっちゃって
柏 木  あぁ、「なんか気になる」って、そのシミのこと。
マリコ  え?
柏 木  さっきからしきりに言ってたでしょ、車の中で。
マリコ  あ〜・・・それは手袋じゃなくて
柏 木  ちがった?
マリコ  ええ、あの・・・峯岸のおじーちゃんが車を運転してたから
美奈子  そりゃ運転くらいするでしょ。あ、でもじーちゃん、いつもは自転車ばっかりよねぇ。
マリコ  そうなんですよぉ、それが何度もすれ違うし、毎回いっぱい人を乗せるてし・・・なーんか気になるんですよねぇ。
サエコ  (ちょっと顔を出して)柏木さん、まりちゃん、そろそろ出発するって!
柏 木  あ、でも小島さんがいないんだよ。街援やるから一緒に行くって言ってたのに
サエコ  小嶋さんなら連絡つきましたよ、いま大島さんの街演をスパイ中ですって。終わったら
     連絡するから、出先で拾ってくれって
柏 木  フットワーク軽いよなぁ、小嶋さん。ぼくなんか休憩中はめいっぱい寝ていたい方だけど
美奈子  (ぼそっと)まぁそれが体型の違いに現れてくるのよね・・・
柏 木  なんかいいました?。
美奈子  ん〜ん、別に。あ、まりちゃん、じゃあその手袋とガーゼ、こっちで洗っとくわ。
マリコ  すみません、じゃあお願いします。(サエコと出て行く)
美奈子  いいのよ、午後からも頑張って
柏 木  よっし!またがんばるかー、問題は街演の場所だな〜(去る)
美奈子  ・・・確かに些細なシミだけど気になるわね

       暗転

       選挙カー、マリコとサエコと和則、小嶋,、柏木。
       「」内のセリフはマイクを持って喋っている。

和 則  「(切羽詰った様子で)だ、だいべんしっ・・・たい!」
サエコ  「(焦って)皆様の声の代弁者!前田忠明でございます!」
小 嶋  運転手、あそこの公園寄って!トイレタイム、トイレタイム!
和 則  「だ、だいべんさせてっ!」
マリコ  「代弁させてください!きっと市政に反映いたします!」
和 則  「だいべ・・・ん、モゴッ(小嶋に口をふさがれる)」
柏 木  トイレもうすぐだから!もう黙って!無理して喋らないで!!
サエコ  「前田忠明でございます〜〜!」

       サエコの絶叫が轟く中、暗転。

       トイレの流す音。続いて戸の開閉音、明かりつくと小嶋がいる。そこに和則がくる。

和 則  いや〜危なかった! 
小 嶋  勘弁してくださいよ、もう
和 則  わりぃわりぃ、あれ?皆は?
小 嶋  遊説続けてますよ、高橋さんはもうおれと一緒に事務所に戻りましょう
和 則  おう助かるわ。まだ腹がゴロゴロいってるんだ、あ?ん〜・・・
小 嶋  ちょっとちょっと、事務所までもちますか
和 則  ん〜・・・自信ない
小 嶋  マジですか、歩きだとやばいかな・・・タクシーでも拾うか・・
和 則  まぁ、いざとなったら適当なお宅でトイレ借りよう!
小 嶋  いやいや事務所まで我慢してください。
和 則  なんで!
小 嶋  遊説隊のユニフォーム着てるからですよ!こんな目立つかっこで、戸別訪問してるの見
     られたら、やばいのわかるでしょう!
和 則  あ〜?そんときはユニフォーム脱いで裸でピンポンするよ
小 嶋  余計だめでしょう、変質者としてつかまります!
和 則  チッ、堅苦しい時代だぜ
小 嶋  峰岸のじーちゃんみたいなこと言わないでくださいよ。
和 則  やべぇ、影響受けちまったかな、
小 嶋  勘弁してください、あんなのがいっぱいいたら困ります
和 則  そういや、大島の街演のぞいてきたんだろ、どうだった
小 嶋  あ〜・・・ものは言いようって感じでしたね、生駒ランドのリニューアルなんか自分の
     手柄みたいに話してましたよ
和 則  生駒ランド? あそこ赤字がひどいから、老朽化を理由に閉鎖するんじゃなかったか?
小 嶋  いやぁ、地元の署名があれだけ集まっちゃうと・・・
和 則  でもよ、申請した国の補助金が却下されたんだろ、生駒ランドの存続は絶望的って新聞
     で読んだぞ
小 嶋  あれね、補正予算で追加で補助金がでちゃったんですよ
和 則  マジか! 国から金出ちゃったら、やめらんないだろ
小 嶋  ええ、もう赤字覚悟で、リニューアルせざるを得ないですよね。
和 則  建て直したところで、どうせ客なんか増えねぇだろ。第3セクターで市からも金つぎ込ま
     なきゃならねぇのに、どうすんだよ
小 嶋  やばいですよね、大島さん、「作文のうまい馬鹿がもっともらしい申請書を書くから!」っ
     て八つ当たりしてたらしいですよ。
和 則  作文のうまい馬鹿って・・・、補助金あたって嬉しくないのか大島は。
小 嶋  どうも、わざと競争率の高い補助金を申請したみたいですね
和 則  わざと?
小 嶋  はじめから「補助金がもらえなかった」って大義名分で、生駒ランドを閉鎖するつもり
     だったんじゃないですか?
和 則  はぁ?別に赤字だから閉鎖する!でいいだろ
小 嶋  たとえ実際そうでも、あれだけ署名が集まった以上、市民の反発は目に見えてるでしょう
和 則  わかったぞ!つまり、自分が悪者にならないように、補助金をくれない国のせいにするつ
     もりだったわけだ!
小 嶋  ま、あてがはずれたわけですから、策士、策におぼれるって感じですけどね。
和 則  へっ、ざまぁねぇな!
小 嶋  それでも街演では、「私の努力が功を奏して、生駒ランドの存続が叶いました」って言え
     ちゃうんだから、敵ながらたいしたもんですよ
和 則  タヌキだな、あいつも・・・うっ!
小 嶋  え?
和 則  やべぇ、腹が、そ、そこの家でトイレ・・・
小 嶋  待った待った、戸別訪問、あ〜!(和則がユニフォームである上着を脱ぎはじめる) 
     脱がないで!待って!脱がないで!、た、タクシー!!!!

       と、そこへ車の急ブレーキ音、バタン!とドアをしめる音の後、
       颯爽と峰岸のじいちゃん登場、かっこよくサングラスを外す。

峰 岸  おう!どうした
小 嶋  じ、じいちゃ〜〜〜ん!

       暗転。

       事務所。ダルマの手足がまたまた以下略。どこまで進化するのか
       小嶋がぐったりしている。和則と厚子が入ってくる

和 則  いや〜さっぱりした!なんだ、小嶋!疲れてんな!
小 嶋  誰のせいですか
和 則  いやぁ、わりわりぃ、(超さわやかに)おれも久しぶりにウンコもらしたよ!
小 嶋  さわやかに何を言ってるんですか
厚 子  私も久しぶりに弟のパンツの面倒みたわ
和 則  いや〜アニキの新しいパンツもらっちゃって悪いな!
厚 子  いいわよ、もう、あれ?峰岸のじーちゃんは?
小 嶋  もう行きました、連れがいるからって
和 則  いやぁ〜あのじじぃが車で通りかかってくれて助かったよ、
小 嶋  乗り合わせたおばあちゃんたちには嫌な顔されましたけどね
和 則  ありゃ、どっちかが彼女か、三角関係か〜? やるなぁ、じじい
厚 子  なに言ってるの。峰岸のじいちゃんはあれで割りと世話焼きでね、たまに車の無いお年寄
     りたちに車出して、買い物とかに付き合ってあげてるのよ
小 嶋  へぇ、ただの呑んだくれじゃないんですね
和 則  でもよ、年寄りは敬老パスでタダでバス乗れるだろ?
厚 子  そりゃ病院や役所はそばに停留所があるからいいけど、お店はちょっと歩かないと停留所
     ないでしょ
小 嶋  ん?これから役所に行くって言ってたけど・・・
和 則  役所ならバス、停まるだろ
厚 子  健康センターか交流館の帰りで、ついでに寄るってことじゃないの?
小 嶋  ああ、健康センターも交流館も、近くに停留所ないですもんね。
厚 子  ああいう高齢者が使う施設のそばにこそ停留所がほしいわよねぇ
和 則  だよなぁ、、・・・市営バスの路線見直しとか、マニフェストにどうだ
小 嶋  いいですねぇ、ちょっと路線図見てみます。

       アキラが入ってくる

厚 子  あら?どうしたのアキラ、仕事は
アキラ  いま、外回りの途中なんだ。あのさ、今晩からしばらく、うちで寝泊りして会社通ってい
     いかな
厚 子  そりゃいいけど、なに?亜美ちゃんとケンカでもした?
アキラ  そういうわけじゃないけど、いろいろ聞こえ始めただろ、その・・・
厚 子  ああ、お父さんに愛人がいて隠し子が3人いるとかね
アキラ  そんなの嘘だよ!
厚 子  知ってるわよ、信じるわけないでしょ。
和 則  まぁ、市会議員選挙ならともかく、市長選挙みたいに勝つか負けるかの勝負になると、で
     てくるんだよな、誹謗中傷のたぐいが
小 嶋  誹謗中傷といえば、大島の街演で、「名義貸しで不労所得を得てるような人間に市長を
     まかせるわけにはいかない」なんてことも言ってましたね
和 則  ああ?!
アキラ  なんだよそれ、そりゃ非常勤役員だから、普段は働いてないけど、資格持ってる人間が
     やらなきゃならねぇ一番大事なことは親父がしてるんだ!名義貸しの不労所得なんて、
     言われる筋合いはねぇよ
厚 子  でもよく知らない人には遊んで暮らしてるように見えるんでしょ。お父さん、月に5日く
     らいしか仕事に行かないもんねぇ
アキラ  母さんは親父がそんなこと言われて、悔しくないのかよ!
厚 子  あんたは悔しいのね
アキラ  っ・・・。
小 嶋  (優しい目でアキラを見て)おれも悔しいよ
和 則  おれもだ!でもまぁ、向こうがそういうこと言い出したってことは、焦ってる証拠、いい
     勝負になってきたってことだ、気合がはいるぜ
アキラ  だけど、
厚 子  (アキラに)あんたの噂はまだ聞こえてこないわよ
小 嶋  あ〜・・・本人だけじゃなく家族も言われたりしますよね
和 則  おまえ、離婚したことになってるのに、元嫁と一緒に暮らしてたらまずいんじゃないか?
厚 子  保育園代に母子家庭手当ての不正受給、まずいわね
和 則  なるほど、それでしばらく実家で暮らすってか、
アキラ  ・・・ああ、
小 嶋  一緒に暮らしてさえなければ誤魔化せますよ、離婚しても子供を理由によく会ってる夫婦
     はこのへん多いし
和 則  そうだ、アニキの愛人だの名義貸しだの、嘘の噂ばっかりだし、堂々としてりゃ大丈夫だ
厚 子  アキラのそれは本当のことだけどね
アキラ  ・・・
厚 子  いい大人なんだから、あれこれ言わないわ。ただ、お父さんに対して顔向けできない息子
     でいてほしくはないわね。
アキラ  ・・・ああ、
厚 子  晩ご飯、用意しておくから、あとで数日分の着替え持ってらっしゃい。
アキラ  ・・・うん、
和 則  ほらほら、お前は仕事もどれ、外回りの途中なんだろ
アキラ  ああ、じゃあ

       アキラ、下を向いて出て行こうとして、入ってきた忠明とぶつかる

忠 明  うわっ
アキラ  悪い、大丈夫か
忠 明  ああ、だけどお前、ちゃんと前向いて歩け。悪い癖だぞ、考え事して下ばっかり見て
     歩くの。
アキラ  あ、ああ、・・・そうだな、前を向いて歩かないと

       しっかり顔を上げ、前を向いて歩いていくアキラ。なにかを決意した様子

忠 明  (見送りながら)なんだ?妙に素直だな・・・はぁ
和 則  なんだ、アニキ、ため息なんかついて
忠 明  いや、
柏 木  お疲れ様です〜、ちょっと休憩に戻ってきました。(マリコとサエコも一緒に入ってくる)
小 嶋  ん? 予定より早いんじゃないか?
柏 木  少し早めに休憩とって、これから永尾地区まわってこようと思いまして。
小 嶋  永尾地区を?
マリコ  前田さん、あんなの気にしないほうがいいですよ
忠 明  ああ、
厚 子  なに?
マリコ  ええ、ちょっと・・・
サエコ  大島さん陣営があれこれ言ってるの聞いちゃって
和 則  あ〜そんなん気にしなくていいんだよ
忠 明  ああ、でも、ちょっと行って来よう、永尾地区の、東沢
和 則  東沢?

       暗転。

       走る選挙カー内。
       マリコとサエコはマイクを持ち、和則と忠明は手を振りながら外を見ている。
       柏木は運転手である。

マリコ  「前田、前田忠明でございます!」
サエコ  「東沢のみなさまに立候補のご挨拶とご支援のお願いに伺いました!」
マリコ  「前田、前田忠明でございます」
和 則  あ、いないわ、玄関にベニヤ打ってある。
忠 明  ここも空き家か。
和 則  おい、少し休憩しようぜ。どうせこのへんは空き家ばっかりだ。
忠 明  まりちゃん、マイク切っていいよ。もう少し行って、元の河原があったあたり、あそこに
     車とめて、コーヒータイムだ。
柏 木  ああ、あそこですね
マリコ  (通り過ぎる景色を目で追いながら)あ、あの家も、・・こっちの家も空き家なんですね
サエコ  まだまだ新しい家っぽいのにねぇ
和 則  このへんは、昔から大雨のたびに土砂が崩れたり、川が氾濫して床上浸水したりしたから
     な、何回も改修してるから、一見、新しく見える家が多いんだよ
マリコ  じゃあ、それで、みんな引越しちゃったんでしょうか
和 則  いや、たんに年をとったから、農家辞めて便利な市街地に移ったり、グループホームに入
     ったんだろ。後継者もいないだろうしなぁ
柏 木  どこも深刻ですね、後継者問題は
和 則  若いもんはどんどん都会に行くからな
マリコ  私はもう都会はこりごりですけどね
忠 明  まりちゃんはUターン組か
マリコ  むこうで働いてたとこがもう、完全にブラックで。
サエコ  こっちは給料は安いし就職先も限られてるけど、ブラックな話って聞きませんよね。
和 則  田舎でブラック企業みたいなことしたら、ただでさえいない若い働き手がやめちゃうだろ。
     昔は人使いの荒いとこもあったが、今はみんな職員確保するため、社長の方が残業し
     たり、失敗のフォローしたり、もう必死だよ
マリコ  あはは、このへんの社長たちって、ほんと普通のおじさんばっかですよね
サエコ  二日酔いで選挙事務所きて寝てたりね
柏 木  あれなぁ
サエコ  でもみんな憎めないっていうか、ふふ、
マリコ  私、こっち帰ってきて驚いたの、お祭りの前の日に会社からお小遣いもらったことですよ。
サエコ  板野さんは羽振りいいから結構くれたでしょ
マリコ  ん、ちょっとびっくり。
サエコ  いいなぁ、うちの松井社長も気前いいけど、板野社長には負けるもんね
柏 木  秋元組は社員からパートまで全員に缶ビール1箱ずつ配られますよ。
サエコ  秋元くらい大きくなると、それすごいことになりません?
柏 木  いや〜すごいよ、でも金で小遣い配ること考えたら缶ビールなんか安いもんだよ
サエコ  確かに
マリコ  それにお祭りの日、仕事が休みなのもびっくりで。
和 則  むかしから「怠け者の節句働き」って言ってな、祭りに働くやつが変なんだよ
柏 木  まぁどこの社長も、お祭りは呑んだり神輿担いだりしたいって人ばかりですからね
サエコ  もう仕事どころじゃないんですよ
マリコ  みんな、お祭りっていうと全力で楽しんでますもんね。
和 則  田舎だからな、ほかに娯楽も少ないしな
柏 木  (通り過ぎる景色を目で追いながら)少ないっていえば、ほんとに空き家ばかりですね
マリコ  もったいないですよね、このへんも。家はまだまだ立派だし、道も川も整備されてきれい
     なのに、住民がいないなんて
和 則  そうなんだよ、せっかく数年かけて工事して、川の被害がなくなったのになぁ
マリコ  被害、なくなったんですか
和 則  ああ、アニキが頑張って陳情に行った結果だぜ〜。この辺に住んでた人にはずいぶん感謝
     されたもんだ
忠 明  今じゃ誰も住んでないがな。
和 則  まぁそう言うなって。
柏 木  あ、ここですね、元の河原だったとこ
和 則  ああ、すっかり変わっちまったがな、はい、到着〜さぁ休憩しよ〜ぜ。俺、ちょっと外に
     でて一服する

       みんな車を降りる

サエコ  あれ?ここって
柏 木  ん?来たことある?
サエコ  ええ、たぶん。昔、父と釣りにきたとこだと思います。と言っても、私は釣りより直接そ
     こから川に入ってヤツメウナギとかドジョウをとって遊んでましたけど。
柏 木  さえちゃん、意外と野生児?
サエコ  え〜普通でしょ?父には魚が逃げるからやめろ!って怒られたけど・・・今は高い堤防
     ができて川に入れなくなったんですね。
和 則  あ〜まぁな。大雨が降ったらここらへんから川が氾濫してたからな
忠 明  今じゃヤツメウナギもヤマメもこのへんにはいないよ
サエコ  そうなんだ・・・ 
忠 明  元の自然を壊してまで工事したってのに、今は誰も住んじゃいねぇ・・・大島の言うこと
     ももっともだよ。
柏 木  前田さん、
忠 明  東沢の工事なんか、前田の手柄なんかじゃなく、無駄な公共事業だったって、言われ
     ても仕方ない。ほんとに、こんな空き家ばかりになってるなんて
和 則  アニキ、
忠 明  あのときは正しいと信じて疑わなかったが、俺がやったことはなんだったんだろうな
和 則  アニキ、
忠 明  こうも空き家ばっかりだと、どうしたって考えちまう
マリコ  前田さん・・
忠 明  人も、ヤツメウナギもドジョウもヤマメも今はいない
和 則  ・・・
柏 木  だって、仕方ないじゃないですか、先のことなんて誰もわかりません
忠 明  それはわかってる。わかってるけど、もう少し、俺にこうなる未来が見えてたらって、
柏 木  ・・・こうなるってわかってたら、動かなかったんですか?
忠 明  え、
柏 木  ぼくはそう思いませんけど。前田さんは、どうせ将来みんないなくなるってわかってい
     たとしても、そのとき困ってる人たちがいたら、きっと知らん顔なんかできなかったと思
     います。
忠 明  ・・・
柏 木  ぼくが知ってるアキラの父さんは、昔からそういう人でしたよ
忠 明  柏木くん
和 則  柏木の言うとおりだ!「みんな今を生きてるんだ。今、必要なことなんだ」って、あん
     とき、アニキは確かにそう言ったぜ
忠 明  おれが?
和 則  なんだよ、忘れたのか?
忠 明  ・・・。
和 則  「未来があるかどうかわからない地域にそこまで予算がまわせない」って偉い奴に言われ
     てよ、「そりゃ未来を考えることも大事だ。だが、今をしっかり生きなきゃ未来にだって繋
     がらないだろう」って、あの啖呵、おれは忘れてないぜ
忠 明  ・・・ああ、あったな、言った、言った。おまえ、よく覚えてたな
和 則  なんで言った本人が忘れてんだよ
忠 明  ははは、だめだな、、そうだな、そんなこと言ったな・・・
和 則  しっかりしろよ、っていうかよ、なんでおれら過去の思い出話してんだ?! アニキはこ
     れから!これから市長になって、あれこれやろうってのによ
柏 木  そうですよ、前田さん、なんで過去の人みたいな風情だしてるんですか
和 則  これからだぞ、これから!
忠 明  ・・・。
サエコ  前田さん、あそこ(指差す)
忠 明  ん?
サエコ  見えます?あの畑とか、あの大きな木のあるあたりとか
忠 明  ?ああ、
サエコ  うちの父ね、釣りのほかに写真が趣味で。私も一緒によくあちこち連れられてきたんです
     けど、あの大きな木は桜で、春にはそりゃ〜見事に満開になるんです。
忠 明  確かにあれだけ大きな木だと見事だろうな。
サエコ  で、その下の畑は昔はよく菜の花が植えられてて、それもまたすっごくきれいで。
柏 木  ああ、時期になると菜の花も一斉に色づいてきれいですよね。
サエコ  菜の花って、食用か油をとるために作ってるんだと思ってたら、このへんじゃ緑肥なんで
     すって。知ってました?
忠 明  ん?ああ、
マリコ  リョクヒ?
柏 木  緑の肥料と書いて、リョクヒ。土地を肥やすために植えるんだよ
マリコ  へぇ
サエコ  それでね、もう何年も、このあたりで菜の花畑の写真、撮れないんです。
マリコ  菜の花、植えてないってこと?
サエコ  前は川が氾濫するたびに畑の表土が流されて、畑に栄養ぶんが残ってなかったらしくて。
     だからよく菜の花が植えられていたんですって。でももうずっと、菜の花じゃなくて普通
     の作物が作られているんです
柏 木  ・・・そうか、工事したおかげで、川に土の栄養が流されなくなって、土地が肥えたまま
     なんだ
サエコ  そういうこと。人はもう住んでなくても、畑はこうして誰かが受け継いで、人の営みは
     続いてるんです
柏 木  人の、営みか・・・
忠 明  ・・・。
サエコ  前田さんの頑張った結果はちゃんと、今もこの土地に生きているんですね
忠 明  ・・・。
和 則  アニキ、
忠 明  ・・・ああ、
和 則  (サエコに)おまえ、良いこと言うなぁ〜見直したぜ
サエコ  見くびってたんですか、失礼な
和 則  ははは、わりぃわりぃ
サエコ  もう!(笑う)・・・あの畑ってなんの畑なんでしょうね
和 則  さぁなぁ、おれ、あんまり、よくわかんないのよ
マリコ  私もスーパーで並んでたらわかるけど、畑だとさっぱり
和 則  なんかわからんが、きっとうまいもんだぜ!
柏 木  てきとうですねぇ!
サエコ  でも、そうですね、きっと美味しいもので・・・あ!ちょっと、何か食べましょうよ!
柏 木  そうだ!せっかくおやつとかも乗せてくれたのに。食べましょう食べましょう!
マリコ  そうよね、コーヒータイムって言いながら、まだコーヒーも飲んでない!
和 則  おお、そうだな、アニキ、
忠 明  ああ、
和 則  英気を養って、またこれ(マイクを持つしぐさ)頑張らないと!

       みんなが車に戻る中、忠明はひとり、畑を見つめ続ける

忠 明  ああ、・・・そうだな、また、頑張らないと。

       暗転

マリコの声「前田忠明、前田忠明でございます!」

       舞台は徐々に明るくなるものの、全体の明かりはかなり落とされた状態。
       ここからしばし、選挙カーからの声などをバックに、選挙運動に励むそれぞれの姿が
       駆け足で演じられる。

サエコの声「前田忠明、市長候補の前田忠明、皆様の声に耳を傾け、きっと市政に反映して参ります。どうか、みなさまの暖かいご支援で前田忠明を支えてください。前田はみなさまのため一生懸命がんばります!」

       たすきをかけた忠明、遊説メンバーを引き連れ、ときたま頭を下げ、市民と握手したり
       笑顔で何を喋っている。たくさんの支援者たちがいるらしく、遊説隊の面々はあちこち
       に笑顔をふりまき手を振り、頭を下げる。

「大島雄三〜大島雄三でございます!どうか、大島のこれまでの実績を信じ、今後とも変わらぬご支援を大島雄三にお願いいたします」

       忠明の遊説だけではなく、大島選対の声も聞こえてくる

美奈子の声「この選挙、なんとしても勝利を収め、氷井川きよし名誉市民の誕生を実現せねばなりません!氷井川きよし記念館、さらに氷井川きよしクリスマスディナーショー実現のため、ぜひとも皆さんの力を結集し、我々ファンクラブの力で、氷井川きよしを、ついでに前田忠明候補も応援しましょう!」「おー!」

       なんかちょっと違うものも聞こえてくる

「い〜しや〜きいも〜♪」

       全然関係ないものも聞こえてくる

マリコの声「前田忠明でございます!みなさまの声の代弁者、前田忠明でございます」
和則の声「だ、だいべんさせてください!」
小嶋の声「またですか!」
厚子の声「あんたはもう!腹出して寝るからよ!」

       お尻を押さえて走り去る和則。追いかける小嶋。パンツを振って怒っている厚子

サエコの声「前田忠明、前田忠明でございます。このまちに、新しい風を吹かせましょう!新たに立候補した前田忠明でございます。このまちに、新しい風を!」

「大島雄三、大島雄三でございます!無風かと思われたこの選挙、大変厳しい戦いになりましたが、大島はどんな強い風にも負けません!」

        強い風が吹いたらしく、大島陣営のウグイスの帽子が風にとばされて転がる。同じよう
       にカツラが転がってくる。必死に帽子をおいかけるウグイス嬢と、頭を抑えながらカツ
       ラを追いかける、たすきをかけた男。
       転がるカツラをガン見するマリコ「こ、これが例の大島、機密情報・・・!」

柏木の声「前田忠明、前田忠明でございます。市長候補の前田忠明、どうか皆様のお力をお貸しください!今こそ、みなさまのお力で、新しい市長を誕生させてください!」

「会社ひとつ満足に経営できない人間に、この市の経済をまかせてよいのでしょうか!」

       大島陣営の厳しい演説に思わず足を止め、振り返る忠明。

「大島はこれまで四期、十六年ものあいだ、市長を務めてまいりました!どうか、実績で選んでください!生駒ランドの存続が叶ったのも、ひとえにこの大島の努力の成果です!大島雄三には揺ぎ無い、確かな実績があるのです!」

       固まる忠明に気づき、忠明の肩を軽く叩き、「気にするな」とばかりに首を振る和則。
       頷く忠明。「なにが生駒ランドの存続だよ。補助金出て焦ってるくせに」と言い捨てる
       和則。ふたり踵を返して歩き出すが、忠明はまた少しふりかえる。そしてまた笑顔で
       遊説を再開する。

「前田忠明でございます前田忠明でございます」
「大島雄三でございます」

「前田でございます」
「大島でございます」
「前田」
「大島」
「前田」
「大島」
「前田忠明でございます」

       舞台上から全員が去り、明かりと選挙カーの音が消えて、携帯の着信音がなる。
       街灯の明かりがあたるところにアキラが歩いてきて電話に出る。

アキラ  はい、もしもし。・・・なんで帰ってこないんだって、当たり前だろ。おれたち離婚したん
     だから。前から言ってるけど、こんなことはダメだ。・・・ダメだって。離婚した以上はも
     う一緒には暮らせない。・・・これからも家族でいたいなら、置いてきた婚姻届、あれに名
     前を・・・

       遠くで選挙カーの声が聞こえる

「前田忠明、前田忠明でございます」

アキラ  ・・・、じゃあ聞くけど、お前、子供に胸張って言えるのか?自分を棚にあげて、悪いこ
     とをしちゃいけませんって教えられるのか?・・・おれには無理だよ。それに、

「前田忠明でございます、ありがとうございます、ありがとうございます」

アキラ  おれは・・・オヤジに顔向けできないことはしたくないんだ

       明かり消える。 

       静寂の中、誰もいない舞台。
       事務所の神棚にぼんやりと明かり。
       浮かび上がる最終形態のダルマ。それは頭の部分がダルマで、胴体部分が人物サイズの
       ダンボール製モビルスーツ。(首なしモビルスーツの上にダルマが置いてある状態)
      
       たすきを外した忠明がひとり入ってきて、神棚の前に。
       しばしダルマを見つめ、おもむろにダルマを手に取り、物思いにふける。
       そこへ厚子がたすきを持って現れる。
       この1週間を振り返っているのか、万感の思いでダルマを見つめている様子の忠明を、
       厚子は少しの間、優しく見守り、やがて声をかける。

厚 子  あなた

       忠明、ダルマを元に戻し、振り返る。
       朝日がさしこみはじめたかのように明るくなる舞台。
       厚子はゆっくりと、たすきを差し出す。

忠 明  いよいよ今日が最後か(たすきを受け取る)
厚 子  ええ、・・・ついに最終日ね


       暗転


マリコ  (声のみ。最終日らしく若干泣きが入っている)「前田忠明、前田忠明でございます」
サエコ  (泣きが入っている)「みなさまに最後のお願いにあがりました!前田でございます!」
       
       夕方を思わせる明かり。集まった人々の喧騒が聞こえる。
       事務所の外で和則、美奈子、小嶋が立っている。
       もうすぐ最後の街頭演説会がはじまるのである。
       厚子は集まった人に、頭を下げてお礼を言いながら、和則たちのそばにくる

厚 子  ありがとうございます、ありがとうございます。
和 則  泣いても笑っても今日が最後か、ちくしょう、なんだかワケもなく涙がでるぜ
美奈子  わかる!「今日が最後、最後のお願いでございます」な〜んて、聞いてるこっちがこうウルウル〜と涙目になっちゃうわ。
     あ、島崎さん!宮脇さんも、どうもどうも〜(知り合いを見つけて挨拶に行ってしまう)
厚 子  どう、7日間戦った手応えは
和 則  悪くねぇ。だけど現職は強いからな。ぜんぜんわからねぇ。
小 嶋  さぁ、そろそろ最後の街頭演説の時間ですよ。
和 則  人もいっぱい集まってきたな。
厚 子  あ〜ドキドキしてきた!こんなのきよしの年末ライブ以来よ!
小 嶋  あー、ソーデスカ

       アキラが事務所から出てくる
 
アキラ  おい、なんだよ事務所のダルマ、あれ親父の仕業だろ
厚 子  他に誰がいるのよ
和 則  アニキの工作魂に火がついたんだな
小 嶋  さすがですよね、日に日に手足がグレードアップしていくとは思ったけど
和 則  もはや、人が入れそうなモビルスーツに頭の部分がダルマ!だもんな
アキラ  誰かとめとけよ!あれもう、最終形態じゃねぇか
厚 子  あら、まだよ。だって今朝、ダルマをじっと見つめて考え込んでたもの。あれは中身をく
     りぬいて、かぶれるようにするつもりね
アキラ  ・・・。
小 嶋  おまえ、いま、着てみたいって思っただろ
アキラ  お、思ってねぇよ!
和 則  思ったんだな・・・

       柏木が飛び込んでくる。

柏 木  大変です!
和 則  なんだ、どうした
柏 木  峯岸のじーちゃんが、選挙違反であげられました!
小 嶋  なんだって?!
和 則  さ、酒か、このあいだここで呑んだとか、なんかチクられたか?!
柏 木  酒じゃありません、あの、なんていうか・・・たくさんの高齢者を期日前投票に連れて行って投票させたっていう・・・あ
     あ、どう説明したらいいのかな、
和 則  あ〜〜っ!ひょっとしてあれか!俺がウンコもらした!
柏 木  ウンコ?!
小 嶋  なに言ってるんですか!
和 則  いや、だからあのときも婆さんたち乗せてただろ! じいさん、普段から年寄り連中の足になってたって言ったじゃねぇか。
小 嶋  あ! そういえば、あのとき役所に行くって・・・
和 則  つまり、こういうことだろ、「車で連れて行ってやるから、誰々に投票しろ」とか「誰々に投票してくれるんなら、帰りに
     どっか用足しに連れてってやるよ」とか年寄りを無理やり連れ出して、投票させたんじゃないのか?
柏 木  そうです!それです!
厚 子  はぁ?なにそれ違反なの?
和 則  交通手段を提供する代わりに特定の候補への投票を強要するのも違反なんだよ
厚 子  それが?そんなの普通によくあるでしょ
和 則  そりゃ、元からその候補の支援者だとか、身内だとか、他人でも一人や二人ならともかく、峯岸のじーさん、あちこちまわっ
     てかなりの人数、強引にやったんじゃないか?そうじゃないと捕まらないだろ
柏 木  そうみたいです。それで、その投票した高齢者たちの証言で、前田忠明に入れたって・・・
厚 子  それって、候補も罪になるの?
小 嶋  いや、候補の指示でやったっていう明確な証拠がなければ・・・たぶん候補までは・・・
厚 子  ・・・。
 
       美奈子が飛び込んでくる
 
美奈子  ねぇ!峯岸のじーちゃんが!
和 則  おう、今聞いた。
美奈子  もう噂になってるわよ!街演に集まったひとたちの間で騒ぎになってる
和 則  なんだって?!
柏 木  こういう噂って広まるの早いんですよね

       忠明がマリコとサエコを伴ってやってくる

美奈子  あ、兄さん。
忠 明  みんな、1週間ご苦労だった。
美奈子  それどころじゃないわよ、峯岸の・・
忠 明  聞いてたよ。
アキラ  なに落ち着いてるんだよ、大変なことだぞ!
忠 明  慌てても仕方ないだろ。時間だ。段取りしてもらって悪いが、司会も応援演説もいい。おれひとりで話す。
和 則  アニキ?

       忠明、マイクを持って「前田ただあき」と書かれた看板に囲まれた壇上(選挙カーの上
       を想定)にあがる  

忠 明  みなさん、この1週間、暖かい激励を頂き、本当にありがとうございました。この厳しい選挙戦を新人の私が今日まで頑張っ
     てこれたのも、ひとえにみなさまの暖かいご支援によるものでした。・・・みなさんもすでにお聞きになられたでしょうが、
     私をいつも応援してくれていたある方が選挙違反で捕まりました。もちろん、私の指示ではありません。ですが、私を真剣に
     応援してくださった方を、無関係と切って捨てるような真似は私にはできません。ですから私は――――

アキラ  なんだよ、「辞退します」って!

       忠明、深々と頭を下げ壇上をおりる。

厚 子  あなた!
和 則  アニキ、なにも辞退しなくても
アキラ  オヤジ!
忠 明  ・・・・。(マイクを小嶋に渡す)
小 嶋  前田さん、
柏 木  前田さん
マリコ  前田さん
サエコ  前田さん!

       忠明、みんなを振り切って去る。みんなが忠明を追おうとする中、アキラだけは小嶋
       からマイクを奪い、壇上へ。

小 嶋  アキラ?!

アキラ  みなさん、いつも私の父・前田忠明を応援頂き、誠にありがとうございます。父は先ほど辞退を口にしましたが、昔からくそ
     まじめで,曲がったことが大嫌いな父は、それが自分なりのけじめのつもりなのだと思います。けれど、それは今まで応援し
     てくださったみなさんに対する重大な裏切りであります。だから、だからみなさんにお願いがあります。私が父を説得しま
     す。だからどうか―――

       アキラの演説を立ち止まって聞いている忠明。

和 則  アニキ、
忠 明  おれはそんな立派な男じゃない。ちょっとな、怖気づいたんだよ。自分がいいと信じてやった結果が本当によかったのか、こ
     れからだって、なにか間違うんじゃないか、そうやって考え出したらな、怖くなったんだ。
柏 木  前田さん・・・
忠 明  それに今までのように、損害を自分で引き受けてみんなを黙らすことができやしない、批判をまっすぐ受け止めなきゃならな
     いって考えたら、どんどん怖くなっちまって
和 則  アニキ、
忠 明  (ちょっと笑って)おまけに俺は経営者としては甘かった。そんな俺が、市長なんて・・
小 嶋  おじさん、それは違う、会社の経営と政治は違うんだ。・・・確かにおじさんは甘かったかもしれない。経営者には切り捨て
     る非情さも必要だけど、だけど!政治は、弱者を切り捨てちゃいけないんだ・・・!
忠 明  政治は、弱者を切り捨てちゃいけない・・・
和 則  むしろ、アニキにぴったりじゃないか
柏 木  困ってるひと、見捨てておけない性格ですもんね。
小 嶋  それに、批判をまっすぐ受け止めるつもりでいるなんて立派なもんです。ずるい人間は上
     手に逃げるもんですよ
忠 明  いままさに逃げようとしているところなんだがな。
和 則  逃げられねぇよ、アキラがあんなカッコイイこと言っちまった
小 嶋  あいつ・・・昔からオイシイとこ持ってくんだよなぁ
和 則  アニキは果報もんだな
忠 明  ・・・ああ。

       アキラが壇上からおりてきて、忠明を発見。急激に動揺しはじめる。

アキラ  な、なんでいるんだよ!普通、あんなこと宣言したらサッと遠くへ行っちゃうもんだろ!
忠 明  だって、お前がいきなり演説しだすから
アキラ  だって、オヤジが!
忠 明  うん。
アキラ  う・・〜〜〜!!(もだえる) 
和 則  うんうん!(ニヤニヤ)
アキラ  だいたい辞退なんて、受かること前提じゃねぇか!新人のくせに図々しいんだよ!ばーか!ばーか!ばーか!!(走り去る)
小 嶋  おい、おまえ、親父さんを説得するんじゃなかったのかよ!!
アキラ  (声のみが聞こえてくる)うっせ!デーブ!デーブ!
小 嶋  で、デブじゃねぇよ、めっちゃ痩せたわ!ばーかばーか!
柏 木  小嶋さん・・・

       ハッと我に返る小嶋。落ち込む小嶋。がんばれ小嶋。

和 則  あいつ、モーレツに照れてんな

       忠明、肩をふるわせている

和 則  あ、あにき!アイツは兄に似て照れ屋だからよ、本心はあの演説のほうだぜ?
忠 明  はっはっは!いや、あいつらしい。
和 則  あ、怒ってないのね
忠 明  おかしいな。・・・いつも、しっかりしろと言ってるくせに・・・ああいう子供っぽいところをみると逆に嬉しくな
     るなんて。・・・親ってのは勝手だな。
厚 子  あなた、辞退するの?
忠 明  いや、息子に「説得」されたからな
厚 子  そうですか、よかった・・・
忠 明  すまない、心配かけたな。
厚 子  ほんとですよ、供託金没収の上、経費自己負担かと青くなったじゃない、まったく心臓に悪いわ(去る)
美奈子  ね、姉さんたら・・・もう照れちゃって、ねぇ
忠 明  ははは、そこが可愛いんだけどな、うん、ははは・・・(去っていく厚子に向かい大声で)おい、照れてるんだよな?

        暗転

        自宅の居間。事務所のほうではたくさんの支援者が集まってるらしくにぎわっている。
        候補や身内は結果が出るまで自宅(もしくは別室)で待機するものなので、忠明、厚子、
        和則、美奈子がこちらにいる。

美奈子  あ〜もう、まだ結果わかんないの?!むかしだったらもっと早く結果でなかったっけ?
和 則  今は投票時間が8時まで延長されたからなぁ。何時になるんだか
厚 子  アキラに電話してみる?
忠 明  動きがあったら、アキラの方からかけてくるだろ
和 則  あ〜!おれもアキラと一緒に開票所に行けばよかったぜ
小 嶋  (入ってくる)あの、峯岸のじーちゃんが来たんでこっち連れて来ました!!
和 則  ああ?じーちゃんは今頃警察だろ?
小 嶋  選挙違反の疑いが晴れたんですよ!
厚 子  だって、実際にやったんでしょ
小 嶋  それがですね。
峯 岸  (マリコやサエコと一緒にはいってきて)実はおれ、大島のところでも酒をご馳走になってよ。捕まった前の日は大島に票い
     れさせてたんだよ
和 則  はぁ?!
マリコ  それで警察も、調べてくうちに、おじーちゃんが前田と大島の両方に票をいれるように有権者に言ってたことがわかったらし
     くて
小 嶋  これが、どっちか一方に肩入れしてたなら選挙違反であげる理由にできたんでしょうけど、両方ですからね、選挙の投票その
     ものを推進していたってことで。
サエコ  このとおり、無罪放免ですって。
峯 岸  いやぁ〜都合のいい解釈してもらえて助かったよ
和 則  助かったじゃねぇよ!このコウモリ野郎め!
峯 岸  いや、おれも今回のことは反省したよ。だからほら、このとおり丸坊主に・・・(と帽子を脱ぐが髪はフサフサ)
和 則  してねぇじゃないか!
峯 岸  するくらいの気持ちでよ、毛先1センチほど揃えてみたんだけど、どう?
小 嶋  女子か!
峯 岸  そういうわけだ、前田さん、どうかこの頭に免じて勘弁してくれ
和 則  どの頭だよ!
忠 明  わかった!
和 則  アニキ!?
忠 明  峰岸のじーさんにそこまでされちゃ、許すしかないだろう
美奈子  毛先1センチよ?!
峯 岸  前田ちゃーん!
和 則  アニキ、なにノリノリでジョーダン言っちゃってんの?性格変わった?
忠 明  ははは、確かにな。なんか今回のことでは人生観が変わった気がするよ
峯 岸  そうかい前田ちゃん!いや、俺ってヤツはよ、昔から人の人生に影響与えちゃう男なのよ
和 則  うるせーじじぃ!調子にのんな!
忠 明  でも本当に、みんなには教えられたよ。おれは今まで自分はひとりでも立っていられる
     人間だと思ってた。だけど、人ってのは本当に支え合って生きてるんだな。
和 則  なんだよ急に 
忠 明  この一週間、何度、心が折れそうになったか・・・、そのたびにみんなに助けられたよ。
     みんなの言葉が、俺を支えてくれた。ほんとに、どれほど支えになったか・・・みんな、
     ありがとう、本当に、ありがとう、
和 則  アニキ、
マリコ  ふっ・・!(こみ上げてきて泣いてしまう)
和 則  まりちゃん、なんで泣くんだよ
マリコ  だって、だって、こんな風に言って貰えるなんて、あたし、あたし・・・
サエコ  まりちゃん・・・!
マリコ  あたし、前田さんの応援してよかった、こっちに帰ってきて、よかった・・・!
厚 子  ちょっとちょっと〜泣くのはまだ早いわよ〜
美奈子  兄さんも、そういうのは祝勝会までとっといてよ
忠 明  おまえ、まだ結果わからないのに

       そういう厚子や美奈子もちょっと泣きが入ってる。ほかのみんなも照れ笑いしながら、
       そっと涙をぬぐったり、鼻をすすったりしている。そこへ柏木が入ってくる

柏 木  候補!峰岸のじーちゃん、無罪放免になったそうですよ!あ・・・
小 嶋  いま聞いたところだよ
峯 岸  でも、まるっきし無罪ってわけじゃねぇぜ、免許は取り上げられたし、罰金もとられたし
厚 子  ええ?罰金?     
柏 木  微量だけどアルコール反応出たそうじゃないですか!ダメですよ飲酒運転なんか
峰 岸  時間がたってたから大丈夫だと思ったんだよ
柏 木  あのねぇ
美奈子  まぁまぁ、じーちゃんも反省して、こんなに顔色悪くしてんだから
和 則  あのな、これは普通の顔色。いつもが酔っ払って赤いだけ!
サエコ  え?!そうなんですか?
美奈子  はじめてみたわよ、こんな青い顔したじーちゃん
小 嶋  確かに
峯 岸  ったく、警察ってのは酒の一杯もすすめやがらねぇ。
忠 明  あたりまえだろ
峯 岸  カツ丼だって、あれ自分で金出すんだぞ?詐欺だぞなぁ
美奈子  もういいから、あっちいきなさい、じーちゃん(事務所をさす)
峯 岸  そうだな、そろそろ結果も出て祝勝会か。今日こそは酒呑ませてもらえるんだよな
和 則  今日はな。ったく口を開けば酒、酒って。
忠 明  残念会かもしれないがな
和 則  アニキ!
峯 岸  俺は呑めりゃどっちでもいいけどよ
和 則  このやろう!
忠 明  ははは、そうだな。

       遠くで電話の音が聞こえる

サエコ  ん?事務所の方で電話なってません?
小 嶋  え・・・あ、オレ携帯あっちに置いてきた!
厚 子  アキラからじゃない?
小 嶋  ちょっと行ってきます
忠 明  速報かもしれんな。
和 則  途中経過か当確か!
柏 木  ぼくも行って来ます!
マリコ  あ、わたしも。さえちゃんも行ってみよ!
サエコ  うん!
和 則  おれも行く!おら、じじーも行くぞ
峯 岸  おうよ。やっと浴びるほど呑めるかぁ?
美奈子  こりないわねぇ!

       前田夫婦を残してみんな事務所へ行く

厚 子  いよいよかしらね
忠 明  ああ、

       遠くでどよめきが聞こえる。

厚 子  なんかすごくない?
忠 明  結果がでたんじゃないか

       複数の派手な足音とともに和則らがかけこんでくる。みんなダラダラ涙を流している。

和 則  あ、あにきぃ〜!!!(忠明に抱きつく)
忠 明  どうした
和 則  うぉ〜!!!

       全員いっせいに雄叫びをあげて号泣する

忠 明  おい、受かったのか!だめだったのか、
和 則  うぉ〜〜〜〜!!(忠明に抱きついたまま離れない)
厚 子  泣いてちゃわかんないでしょ!
忠 明  どっちなんだ〜
和 則  うぉ〜〜〜〜!!
厚 子  ちょっと〜〜〜!!

       音楽とともに暗転

エピローグ
   音楽はそのままで明かりがつくと、みんなが一升瓶片手に浴びるほど酒を飲んでいる。祝勝会なのか、はたまた残念会なのか、
   みな、相当出来上がっている様子。アキラはモビルスーツを身にまとい、ダルマを抱きしめている。両目は塗られているのか、
   見えそうで見えない。そんなアキラを「やはり着ちゃったか」と苦笑して呑んでる小嶋。マリコは何故かハゲのカツラをかぶっ
   てご満悦。サエコは得意のドジョウすくいを披露し、氷井川きよしの応援グッズを持った厚子たちから喝采をあびている。和則
   ら若干名が上半身はだかでビールかけをしているあたり、ひょっとしたら祝勝会なのかもしれない。音楽はさらに大きくなり、
   幕が下りる瞬間、アキラが万歳!とばかりに頭上にダルマをかかげ―――――、
  (ダルマの目が塗られている=当選、白目のまま=落選。それとも幕で見えないまま終わるのか、演出にお任せします) 

                      完。


 
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