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それは噓の香りかも
岩野秀夫
1 人物
・瀬ノ内もとね(高校3年生の女子)
リケジョ。少し怒りっぽい。
・かお(仮)(高校3年生の女子)
嘘が匂いでわかる体質を持っている。
・高倉(高校3年の男子)
口数が少ない。もとねの交際相手。
・みい子(高校3年の女子)
一途で嫉妬深く、疑り深い。
・火野(高校3年の男子)
浮気性。友達思いの面も。
2 時・場所
10月の夕刻。学校の敷地内。
3 あらすじ
「私の友達、嘘が匂いでわかるんです…」
瀬ノ内もとねは高校3年生。交際相手の高倉が、自分に相談なく進路を
決めようとしており、4月から離れ離れになりそうな状況。
もとねの友人のかおは、ひとのつく嘘が匂いでわかるという特異体質をもって
いる。そんなかおに、高倉がこれからの2人をどう考えているのか、その本心を
確かめるようお願いするのだが、逆にもとねの意外な本心を知ることとなり…。
4 本編
瀬ノ内もとねがスポットに照らされ現れる。
もとね、客席に向かい
もとね
「どうも。今日(きょう)は、〇〇高校演劇部の△△公演にご来場
いただき、ありがとうございます。上演の前にちょっと聴いてもらっていいですか。
今日のお芝居の登場人物の一人、あたしの友達のこと話しておきたくて。
結構変わってるやつなんですよ。んふんふ(と笑う)。もう早速紹介しますね」
もとね、上手を見て、かおを手招く。
かお、スポットの中に現れる。
(かお登場後、ゆっくりスポットから舞台全体を照らす照明に変わる。)
かお、ぺこりと頭を下げる。
もとね
「友達です。えっと、名前は※※※(←かぶせてかお「ピー!」と言う。)」
もとね、かおを見つめる。
かお
「…」
もとね
「彼女の名前は」
かお
「ピー!」
もとね
「名前言っちゃダメ?」
かお
「ダメ」
もとね
「え、でも、どうすんの?うその名前で呼んだら、その度に匂ってこない?」
かお
「…」
もとね
「いいよね?名前言って」
かお
「だめ」
もとね
「ちょっと…」
かお
「じゃ、ハンドルネームで言って」
もとね
「(苦笑いして)まあ、いいけど。(客席に)友達の『かお』です」
かお、ぺこりと頭を下げる。
もとね
「と、言うわけで、これから、みんなこの子のこと、便宜上『かお』って
呼びます」
かお
「そういえばおめでと」
もとね
「え、何?」
かお
「高倉。消防士の一次試験受かったんでしょ」
もとね
「ああ…」
かお
「よかったじゃん」
もとね
「まあ、ありがと」
かお、嘘の香りに顔がゆがむ。
かお
「あれ?匂う…」
もとね
「そう?」
かお
「何?嬉しくないの?」
もとね
「そのことで、かおと話したいことがあってさ。ただ、ちょうどよかった。この
匂いのことなんですけど。みなさん、わかります?彼女は、今、嫌な臭いを
感じているんですよ。どういうことかと言うと、つまりですね、かおは、嘘が匂い
となってこう…香ってきちゃう、そういう体質なんです。こういうのなんていうの?
個性?才能?」
かお
「突然変異」
もとね
「かおのパパやママは、そういうの無いんだっけ」
かお
「…」
もとね
「(苦笑して)ま、こんな感じで、かおは自分のことあんまりしゃべん
ないんです。なんか、いろんなこと教えたり、知ったりすると、それだけ嘘に
つながるリスクが高くなるって、彼女なりの防衛手段なんです」
かお
「だって嘘ってすっごいくさいんだもん」
もとね
「嘘くさいって言うもんね」
かお
「急に匂ってきたりするのが本当にストレス」
もとね
「どんな匂いなんだっけ?」
かお
「あの…普段、生活していて、ふいに生ごみの匂いが漂ってくる時
無い?あんな感じ?」
もとね
「(嫌な顔して)あー…」
かお
「電車の中で、中年オヤジのすえた汗の匂いが漂ってくる感じ?」
もとね
「(嫌な顔して)あー…」
かお
「〇〇高校の女子トイレに入ったら、前の人が流し忘れていて、その残り
香が…」
もとね
「生々しい…まあ、皆さん、お察しのとおり、かおはこの体質のおかげで、
嘘を見抜くことができるんです」
かお
「ま、必ず匂うのかって言うと一概に言えなくて、なんかまだらな感じ。
嘘ついてる当人にとって嘘の自覚があればあるほど、匂いはキツくなる。
でも、全く本人に嘘の自覚が無くて、単純に勘違いとかだと匂ってこない」
もとね
「つまり、その当人の、ウソの自覚の度合いによって匂いのキツさが
変わってくるんだよね」
かお
「だから、嘘が見抜けるのも百パーの確率じゃない。あたしも嘘の香りに
気づくの時間かかったし、もとねにわかってもらうのにも時間かかった」
もとね
「かおに偏見の目が向けられるのも可哀そうなので、このことはあたしと
かおの2人だけの秘密」
かお
「まあ、言っても、まともな人なら信じないだろうけどね」
もとね
「あたしはまともじゃないっての?!」
かお
「(客席に向かって)皆さん、どう?ここまで言ってることわかる?」
もとね
「わかりやすく、ちょっと実践してみますね。例えば」
もとね、かおに向き
もとね
「私は男である」
かお、臭くて顔をしかめる。
かお
「におう」
もとね
「私はスポーツが好き」
かお
「におうにおう」
もとね
「私はかわいい」
かお
「(顔をしかめて)…」
もとね
「におってるでしょ!」
もとね、かおにツッコミをいれる。
かお
「要は匂いなので、いろんな制限によって嘘の香りが感じられたり、
感じられなかったりする。例えば距離。もとね、あっち行って」
もとね
「うん」
もとねとかお、ダッシュで舞台の端と端へ。
かお
「(大声で)この距離で!嘘をつかれても!流石に匂わない!」
もとね
「(大声で)私は文系選択である!」
かお
「(大声で)もとねはリケジョ!でも、この距離では匂いがわからない!
もとね!(と言って、もとねを手招きする)」
もとねとかお、互いに近づき、距離を縮め、互いに手をのばして、
手と手を触れ合わせる。
かお
「大体、これくらいの距離になると、はっきりと嘘の匂いがわかる。
でも、言葉を発しない限り、匂いは漂わない」
もとね、適当な手話で『私、手話、できる』を現す。
かお
「ん?もしかして『私は手話ができる』って言ってる?」
もとね、うなずく。
かお
「もとねは手話ができないので、これは嘘なんだけど、言葉として発声
されていないから匂わない!ちなみに正しくはこう」
かお、手話で『私、手話、できる』を現す。
もとね
「それと、方向」
かお
「当然、あたしの方に向いてないと、なかなか匂いは香ってこない」
もとね
「なので…」
もとね、かおに背を向け
もとね
「私には好きなひとがいない」
かお
「匂わない!けど匂う!」
もとね
「どっちよ!」
かお
「匂いはしない!でも、もとねには、さっき言った高倉って彼がいるし」
もとね
「それで実はね、かおにお願いがあって」
かお
「あ、さっき言ってたね」
もとね
「高倉のことなんだけど」
かお
「なんかあったの?」
かお
「高倉があたし達のこれからをどう考えているのか、かおに確かめて
もらいたくて」
かお
「何それ」
もとね
「あたし実は、高倉が消防士の試験受けること知らなくてさ」
かお
「え?高倉、言ってなかったの?」
もとね
「そうなんだよ!あたしに何も言わずに、あいつ消防士の試験受けてんの!」
かお
「へえ!」
もとね
「悲しいのは、そのこと知ったのだって、高倉本人から聞いたんじゃなくて、
他の人から聞いたんだよ」
もとね
「誰から?」
もとね
「たまたま職員室で、先生から一次の結果を報告している高倉をみた火野が、
みい子に話して、で、みい子があたしに教えてくれて」
かお
「ああ、そう」
もとね
「あたし、みい子から聞いて、もう、かなりむっとして、高倉に聞いたの。何で
前もって教えてくれなかったのって」
かお
「で、高倉は」
もとね
「(高倉のマネをして)『俺、消防士になりたいって…夢だったから…』」
かお
「あー、夢は公言すると叶わないって思ってるタイプ。高倉っぽい」
もとね
「それからこうも言われた。『俺の人生だ…決めるのは俺だ…それだけだ』」
かお
「あー、視野の狭い正論。高倉っぽい」
もとね
「あたし、自分の志望校は全部、高倉に伝えてるんだよ」
かお
「(観客の)みなさんに教えてあげて、志望校」
もとね
「埼玉大理学部」
かお
「と」
もとね
「東京農大生命科学部」
かお
「と」
もとね
「山梨大生命環境部」
かお
「と」
もとね
「…や、もういいから」
かお
「で、高倉は」
もとね
「『わかった…応援する』って。だから、あたし、高倉から、進路の相談が
くるもんだって…で、できれば高倉の進学先と同じエリアとか地域の大学を第一希望
にしようって」
かお
「ところが」
もとね
「あいつ、あたしに何の相談もなく、消防士になってこっちに残ること決め
ちゃって、試験受けちゃって、一次受かっちゃって」
かお
「まだ二次があるんでしょ。決まったわけじゃ」
もとね
「でも、みい子が教えてくれなかったら、あいつ、本気で受かってから事後報告
するつもりだったんだよ、きっと!」
かお
「どうどう(と、なだめる)」
もとね
「あたし、ちょっとキレちゃって…てか、かなりキレちゃって、高倉と大喧嘩」
かお
「でも、やつのことだから、言い訳らしい言い訳もせず」
もとね
「ホント、あたし達のことどう考えてるかわからん!」
かお
「で、それ以来」
もとね
「高倉とまともに話してない」
かお
「廊下ですれ違っても」
もとね
「挨拶もなく」
かお
「LINEは」
もとね
「返信せず」
かお
「当然、週末も」
もとね
「音沙汰なく」
かお
「そんな状態が」
もとね
「もう1か月以上」
かお
「みい子とか心配してないの?」
もとね
「ほら、高倉ってそもそもあんましゃべんないから」
かお
「それが2人のデフォルトだと思われてるわけか」
もとね
「ホント、嘘でもいいからあたしが安心できるようなこと言ってくれれば」
かお
「まあ、高倉って、本心にないこと言うの嫌いだから、嘘をつくことも」
もとね・かお
「ないない」
かお
「嘘がないってことは匂うことも」
もとね・かお
「ないない」
もとね
「そんなわけで、あたしは、かおの力を借りて、高倉があたしたちの
これからのこと、どう考えているのか確認します。それがこのお話『それは嘘の
香りかも』。本編始まります」
舞台後方から、みい子と火野がやってくる。
みい子はウィッグやアクセサリーでじゃらじゃらした感じ。
火野も派手な感じ。
みい子
「もとねー」
もとね
「あ、みい子」
火野、かおに手話の「こんにちは」。
かおも火野に手話の「こんにちは」。
みい子
「(かおを見つめて)なにー、また一緒なのー、仲いいねー」
もとね
「みい子だって!火野と!いつも一緒じゃん!」
みい子
「えー?」
火野
「まあな」
もとね
「昨日も一緒だったんでしょ?」
火野
「あー、まあな」
かお
「ん…」
かお、匂いで顔をしかめる。
みい子
「昨日は、一緒じゃなかったでしょー」
火野
「まあな」
もとね
「あれえ?昨日、体育館裏にみい子といなかった?」
火野
「え?」
みい子
「えー?」
もとね
「火野が女の子と、体育館裏に行くとこ見たからさー。てっきりみい子かと」
みい子
「じー」
みい子、じーっと火野を見つめる。
火野
「俺じゃねえよ」
かお、匂いでむせる。
かお
「んん…ん…」
火野
「俺じゃねえよ、俺じゃ」
もとね
「や、火野だったよ。5時ころ。ちょっと暗かったけど」
みい子
「火野、昨日は図書館で勉強してくるって」
火野
「図書館にいたって」
かお、匂いでむせる。
かお
「んんん!んん!んんんんん!」
みい子
「本当に?」
火野
「決まってるだろ」
かお
「んんん!んんんん!」
もとね
「ふーん。でも、あたし見たんだよな、火野が女の子と歩いてんの」
みい子
「(火野に)おま、マジふざんけなよ、誰だよ、そいつ」
火野
「知らねーよ、女となんかいねーし」
かお、こらえきれず
かお
「げほ!ごほ!ぐへ!」
かお、もとねとみい子、火野と距離を置く。
みい子
「(かおに)ちょっとー、大丈夫ー?」
かお、むせながら「大丈夫」の手話。
火野、「了解」の手話。
もとね
「かお、たまにあることだから」
みい子
「ならいいんだけど、(火野に)で、お前さあ」
と、みい子の追及が続く。
かお、みんなから離れたところで、呼吸を整える。
そのかおの近くから高倉が来る。
高倉
「かお…」
かお
「わ!高倉…」
高倉
「何してんだ?」
かお、もとね達を指さす。
もとね、高倉に気づく。
もとね
「高倉…」
高倉
「おう…」
火野
「(高倉に挨拶)よう」
高倉
「(火野に挨拶)よう…」
みい子
「あ、高倉さー、昨日、火野がどこにいたか知ってる?」
高倉
「ああ…」
みい子
「どこ?」
高倉
「……(たっぷり間をとって)学校だ」
みい子
「そりゃそうなんだけどさ。昼間じゃなくて夕方5時ころ、どこにいたか
聞いてんの」
火野
「おい!図書館にいたって言ってるだろ、何疑ってんだよ」
みい子
「おま、ちっと黙ってろよ、除光液飲ませて、のどつぶすぞ」
火野
「じょこ…?!」
みい子
「どう?高倉、何か知ってる?」
高倉
「ああ…火野な」
みい子
「そうだよ!」
高倉
「……(たっぷり間をとって)体育館の、裏だ」
火野
「おい!」
みい子
「やっぱり!」
火野
「やっぱりって何だよ!」
みい子
「図書館に行ってないじゃん!あー嘘ついた!あー嘘ついた!!」
火野
「ちげーよ、ばか」
みい子
「じゃ何?誰と体育館裏行ったっつーの?!なんで嘘ついたんだよ?!」
火野
「高倉、おま、どうすんだよ、この状況!」
もとね
「こら!ひとのせいにすんな!高倉、関係ないだろ!」
高倉
「俺が、思うのは…」
みんな、高倉に注目する。
高倉
「火野には…ワケがある…」
みい子
「ワケー?」
もとね
「ワケって何?」
高倉
「俺は知らん。ただ、こいつ(火野)は…ワケなく、隠し事をする男じゃない。
特に、惚れてる女には。(みい子に)な…そういう奴じゃないか」
みい子
「…うん。知ってる…」
もとね、かおをちらっと見る。
かお、「匂ってない」とも「匂ってきていない」ともとれるジェスチャー。
火野
「(高倉に)で、お前何しに来たんだよ」
高倉
「先生がな…お前、探してんだ。進路希望出してないの、お前だけらしい」
火野
「ああ…俺、まだ決めてねんだよなあ」
火野、歩き出す。
みい子、火野の後を追う。
火野、かおに「またね」の手話。
かおも、火野に「またね」の手話
みい子
「で、結局、誰といたんだよ」
火野
「ちげーよ、ばか」
みい子
「誰?」
火野
「ちげーよ」
みい子
「あいこ?いちか?うーちゃん?えっこ?おとめ?…」
火野
「(同時に)ちげーよ、ばか、ちげーよ、ばか、ちげーよ、ばか、ちげーよ…」
と、やりとりしながらみい子と火野は去る。
高倉ともとね、気まずい空気。
高倉
「よう」
もとね
「うん…」
かお、やれやれといった感じで2人を見守る。
もとね、高倉との空気に耐えらえず
高倉
「あのさ…」
もとね
「(高倉を避けるようにかおのもとへ)大丈夫?」
かお
「ま、だいぶ回復した」
もとね
「なら、いいんだけど」
かお、どうしたらよいかわからず
かお
「えーっと…」
高倉
「(かおに)お前も、やってるの?」
かお
「え?何が?」
高倉
「これ(と言って、先ほど火野がやってた『またね』の手話をしながら)手話」
かお
「ああ、うん」
高倉
「火野も、手話やっててさ」
かお
「へー、そうなんだ」
高倉
「あいつんち、おふくろ、耳…聞こえないからな」
もとね
「そうだったの…?」
高倉
「知らなかったか?」
もとね
「あ、うん…」
高倉
「(かおに)でも、なんで…お前も手話を?」
かお
「あたしは、まあ、必要にせまられて」
高倉
「必要?」
かお
「ほら、こうして」
かお、もとねと高倉と距離をとり
かお
「…離れて、話したい時ってあるでしょ」
かお、「こんにちは」の手話。
高倉
「近くに来て話せよ」
かお
「遠くからでも、気持ち伝えたい時、あるじゃない。(もとねに)ねえ?」
もとね
「(かおが何を言いたいのかわからず)え?」
かお
「いいの教えてあげるよ。はい、ご一緒に。『私』」
かお、「私」の手話。
もとね、高倉、とまどいながら、かおの手話をまねる。
かお
「『あなたが』」
かお、「あなた」の手話。
もとね、高倉、とまどいながら、かおの手話をまねる。
かお
「(発声せず)すき」
かお、「すき」の手話。
もとね、高倉、やりかけて止める。
かお、冷やかすように笑う。
高倉は、照れる。
もとねは、複雑な表情。
もとね
「(高倉に)あのさ」
高倉
「ああ」
もとね
「あたし、ちゃんと聞いておきたいことあるんだけど」
高倉
「ああ」
もとね
「進路のこと」
高倉
「ああ」
もとね
「高倉は消防士になるんだよね」
高倉
「まだ、決まってない」
もとね
「でも、なりたいんでしょ」
高倉
「ああ」
もとね
「消防士になって、こっちで就職するんでしょ」
高倉
「守りたいんだ。地元」
もとね
「あたしの進路は、もう知ってるよね」
高倉
「ああ」
もとね
「4月から離れ離れになる」
高倉
「そうかもな」
もとね
「それで?」
高倉
「うん?」
もとね
「高倉、どう考えてんの?」
高倉
「…」
もとね
「あたし達のこと…」
高倉、かおをちらっと見て
高倉
「…場所、変えよう」
もとね
「どうして」
高倉
「他人(ひと)の前で、話すことじゃない」
かお
「あ、あたしはいいから。てか、あたし、今日はこれで…」
もとね
「ちょっと待って」
かお
「え…あ(約束を思い出し)…」
もとね
「高倉、ここじゃダメ?」
高倉、ちらっとかおを見る。
高倉
「…ここでか」
もとね
「かおのこと、気にしなくていいから。高倉がどう考えているのか教えて。
あたし達のこと」
高倉、もう一度、かおを見る。
高倉
「いや、ひと様の前で話すことじゃ」
もとね
「言えないの?かおの前じゃ言えない?」
高倉
「そうじゃない。ただ…」
もとね
「かおが証人になると困ること、考えてるんだ、へぇ」
高倉
「あいつ(かお)だって迷惑」
かお
「あたしは…」
もとね
「かおだったら大丈夫。ねえ、言ってよ、かおの前で。高倉の気持ち」
高倉、もう一度、かおを見る。
もとね
「言えないの?」
高倉
「いや…」
もとね
「なら言ってよ」
高倉
「まあ…誰がいても、俺の思いは隠し立てすることない。俺は…」
もとね、かおを手招きする。
かお、もとねの後ろにぴったり立つ。
高倉、もとねを見つめると、当然、かおも視界に入ってくる
高倉
「俺も正直…4月からのこと、はっきりと見据えているわけじゃない…
消防士だって受かったわけじゃ…かぁおぉ!」
かお
「…はいっ?!」
高倉
「どうして、そこにいる」
もとね
「ほら、証人だから」
高倉
「証人と言っても限度があるだろう。どうしても…(かおが)気になる」
かお、「ごめんなさい」の手話。
かお、2人から離れようとする。
もとね
「(かおに)待って!」
もとね、かおと2人で、高倉から離れる。
高倉
「あ、おい…」
もとね
「(高倉に)ごめん、ちょっと待ってて!」
もとねとかお、しばし密談。
しばらくして高倉の元に戻る。
もとねと高倉が向き合い、ちょうど2人のレフリーのように、正三角形と
なるようにかおがいる。
高倉
「レフリーか?」
もとね
「(高倉に)気にしないで」
高倉
「…瀬ノ内」
もとね
「はい」
高倉
「進路のこと、お前は相談してくれてたし…そのこと自体は…嬉しかった…」
もとね
「うん」
もとね、ちらっとかおを見る。
かお、首を横にふる(匂いはしない)。
高倉もかおを見る。
かお、高倉ににっこり。
高倉、構わず
高倉
「でも、こうも思う。瀬ノ内は、前もって俺が消防士になりたいって知った
としても、こっちに残ることは考えなかったんじゃないかって」
もとね
「…」
高倉
「進路希望、どこだっけ?埼玉大理学部に、東京農大は…」
もとね
「生命科学部」
高倉
「あと、山梨大だっけ?」
もとね
「生命環境部」
高倉
「進学先に統一感があるようで、ないようで。だから俺、調べたんだ。
瀬ノ内の志望校の共通項」
かお
「…何かあったの?」
高倉
「あった」
かお
「何?」
高倉
「匂いだ」
かお
「匂い?」
高倉
「全部、嗅覚の研究で有名な学部だったんだ。瀬ノ内は嗅覚の研究が
したいんだ」
かお、もとねを見つめる。
高倉
「だからきっとお前は、俺がどんな進路を選んだとしても、自分の道を歩んで
たんじゃないかって」
もとね
「そんなの…わかんないじゃん」
高倉
「や、俺はそのことを責めてるわけじゃない。俺が地元に残るからって、瀬ノ内も
地元に残る。それは違うと思う。ただ、大学でやりたいことがはっきりしてる瀬ノ内に、
俺の入る余地は、そもそもなかったんじゃないか」
もとね
「決めつけないでよ」
高倉
「お前、今、俺のことどう思ってる?」
もとね
「え…?」
高倉
「お互い、やりたいことははっきりしてる。俺は消防士、お前は進学して嗅覚の
研究。道は違ってくる。そのうえで、お互いの思いを確認したい。瀬ノ内、お前、俺の
こと、どう思ってる?」
もとね
「どうって」
高倉
「証人もいる。話してくれ」
高倉、かおを見る。
もとね、かおを見る。
かお、何度も何度ももとねと高倉を見る。
高倉
「(もとねに)俺はお前のことを大切に想っている」
もとね、ちらっとかおを見る。
かお、首を横にふる(匂いはしない)。
高倉
「(前のセリフに続ける)だから、お前が話してくれなくなったこの1か月…
俺なりに結構きつかった。お前は辛くなかったのか?」
もとね
「あたしは…あたしも…だよ」
かお、匂いを感じ、少しむせる。
顔をしかめながら、もとねを見る。
もとねは、かおを見れない。
高倉
「(もとねをまっすぐ見つめ)それなら、聞かせてくれ。お前の今の気持ち」
もとね
「…好きだ、よ」
かお、匂いを感じ、むせる。
高倉
「本当か」
もとね、うなずく。
かお、少しずつ、その場から離れていく。
高倉
「それなら…瀬ノ内はどうしたい?…俺たちのこと…」
もとね、かおを意識しながら
もとね
「…え…わかんない」
高倉
「…わかんないか…」
もとね
「…」
高倉
「…まあいい…まだ、時間はある」
もとね
「…ごめん」
高倉
「謝ることじゃない…まだ…わからないってだけなんだろ」
もとね、うなずく。
高倉
「どうしたらいいんだろうな…俺もまだ、わからん。また、いつか話そう…」
高倉、下手へ去る。
かお、高倉を見つめる。
もとね、高倉を見つめない。
かお、高倉が去るのを見届けて
かお
「もとね」
もとね
「…何」
かお
「どういうこと?」
もとね
「どういうことも何も…あんな風に聞いてくるって思わなかったんだもん」
かお
「そうじゃなくて。嗅覚の研究のこと」
もとね
「ああ…」
かお
「大学で嗅覚の研究したいの?」
もとね
「うん、まあ」
かお
「どうして?」
もとね
「どうしてって…そうしたいから」
かお
「あたしのため?」
もとね
「…あたしは今の高倉の気持ちがわかればよかった。それで、自分の中で
どう折り合いをつけようか、考えたかっただけ」
かお
「答えになってないよ」
もとね
「まあ、いいじゃない、志望動機なんてさ」
かお
「…高倉に嘘はなかったよ。もとねは?」
もとね
「…」
かお
「もとねはもう高倉のこと好きじゃないの?」
もとね
「わかんない」
かお
「わかんないって…」
もとね
「確かに、あいつが最初から消防士になるって知ってたとしても、あたしの
志望校は、かわらなかった…かな?どうだろう?でも、高倉のこと、決して嫌いに
なったわけじゃなくて」
かお
「気持ち、変わってないってこと?」
もとね
「えー…わかんない」
かお
「てことは、気持ち変わってんじゃないの?!」
もとね
「え?変わってんの?」
かお
「だから、それを聞いてんだって」
もとね
「もう自分でも、自分で自分がわかんなくって…かお、あたし何考えてんの?!」
かお
「知らんがな」
もとね
「(急にキレて)しょうがないでしょ!自分の気持ち、わかんなくなること、
あんじゃない!そんな時にあんな風に聞かれたら…」
かお
「そんなキレられても」
もとね
「キレてないよ!」
かお
「匂うよ」
もとね、かおから顔をそむける。
かお
「で」
もとね
「え?」
かお
「追いかけなくていいの?」
もとね
「どうして?」
かお
「どうしてって…」
もとね
「またいつか話そうって言ってたし…」
かお
「あんなに隠し事のない人いないよ」
もとね
「(元気なく)うん…」
かお
「このままだと取返しつかなくなるかもしれない。もとねは気持ち、わかん
ないって言うけど、少しは高倉を想う気持ちあるんじゃないの?それなら、
とりあえず行ったほういいんじゃないの」
もとね
「今高倉のとこ、行ったって…何言えばいいかわかんないし」
もとねは動かない。
かお
「もとね」
もとね
「うるさいなあ!わかんないって言ってんじゃん!そんなに責めないでよ!」
かお
「…そっか…そんななんだ…」
もとね
「…」
かお
「今はもう、そんななんだ…」
もとね、何かに気づき
もとね
「え?…そういうこと?」
かお
「何が」
もとね、かおをじっと見つめる。
かお
「何…」
もとね
「ねえ…かおはどう思ってるの?高倉のこと」
かお
「どうって…別に…どうも…」
かお、自分の嘘が匂ってむせる。
かお、顔をしかめる。
もとね
「ねえ!」
かお、もとねから逃げだす。
もとね、かおを追いかけながら
もとね
「真っ正直で隠し事のない高倉」
かお
「…」
もとね
「他人に依らずに自分のことを決める高倉」
かお
「…」
もとね、かおの前に廻り
もとね
「好きなんだ?高倉のこと」
かお
「別に好きじゃ…」
かお、匂いにむせる。
かお
「ぐほっげほっ」
かお、もとねの傍から離れようとする。
もとね、再び追いかける。
もとね
「(かおを追いかけながら)え?かお!嘘でしょ?!本気なの?」
かお、逃げまどう。
もとね
「やめて!まだ、あたしだって、ホントわかんないだけなんだから!
だめだよ!」
かお
「…だから、違うって言ってんじゃん!」
かお、匂いにむせながら、走り去る。
もとね
「かお!」
かお、舞台中央にてその場で走るパントマイム。
同時に、もとねは走るパントマイムをしながら上手へ去る。
もとね
「違わないじゃん!かお!かお!」
もとねが舞台からはけた後、かお、走るパントマイムを止め、その場で立ち止まる。
かお、荒い息。
かお
「こうなんだよね。こうなんだよ。だから、あたし、あんまりひとのこと知りたく
ない。あたしのことも誰にも教えたくない。言葉だって交わしたくない。あーあ…
この気持ち…もとねだけには…あーあ…でも…どうして、もとね、嗅覚の研究
なんか…」
かお、泣けてくる。
そこへ高倉、下手から戻ってくる。
高倉
「かお…」
かお
「高倉!」
高倉
「瀬ノ内、どこか知ってるか?」
かお、上手を指さす。
かお
「さっきまで…あっちで…」
高倉
「そうか」
高倉、上手に行きかけるが立ち止まり、かおの方を見つめる。
高倉
「かお」
かお
「え」
高倉
「悪かったな…へんなことに…巻き込んで」
かお
「や、別に…」
高倉
「おれ…もう一度、瀬ノ内と話してくる」
かお
「うん…」
高倉、上手へ行こうとする。
かお
「高倉」
高倉
「ん?」
かお
「高倉…話すの苦手だろ」
高倉
「…まあ」
かお
「でも、もとねのこと、まだちゃんと…好きなんだろ」
高倉
「…ああ」
かお
「そんな時はさっき教えたやつで、気持ち伝えるんだよ」
高倉
「さっきの?」
かお
「覚えてる?これ」
かお、高倉に『わたし、あなた、好き』の手話。
かお
「進路、いろいろ迷うこともあるだろうけどさ、高倉の気持ちの根っこの部分、
しっかり伝われば、きっと大丈夫。うん」
高倉
「…こうだったかな」
高倉、かおに『わたし、あなた、好き』の手話。
かお
「そう」
かお、高倉に『わたし、あなた、好き』の手話。
高倉、かおに『わたし、あなた、好き』の手話。
高倉
「かお…お前何か、隠してるよな…」
かお
「…」
高倉
「無理してないか…」
かお、高倉をまっすぐ見つめ、気持ちをこめて『わたし、あなた、好き』の手話。
高倉、淡々と『わたし、あなた、好き』の手話。
かお
「そうそう、いい感じ」
かお、もう一度『わたし、あなた、好き』の手話。
高倉、『わたし、あなた、好き』の手話。
そこへ、みい子と火野が帰ってくる。
みい子
「(同時に)らあら?りこ?るみ?れな?ろりろり?」
火野
「(同時に)ちげーよ、ばか、ちげーよ、ばか、ちげーよ、
って、ろりろりって誰だよ(かおと高倉に気づき)あ…」
かお
「え?」
火野
「(「好き」の手話をしてかおを指さす)あ…(「好き」の手話をして
高倉を指さす)あ…」
かお
「や、これは…違うから」
かお、自分の嘘が匂い、むせるのをこらえる。
かお
「んふっ…ごっ…ぐふっ」
高倉
「これは…かおから…教わってたんだ…」
火野
「(高倉に)なんでお前に手話がいるんだよ」
かお
「(むせるのをこらえながら)何だよ!なんで戻ってきたんだよ!」
火野
「や、もう、帰るとこなんだけどな。高倉、ちょっと」
火野、高倉のところへ行き、高倉の肩に手をかけて少しみい子とかおから離れる。
火野
「よう、お前、事情はわかるけど、もう少しこうやり方ってのをだな。例えば、
体育館の裏に呼んで」
高倉
「や、違うから…」
みい子、上手の舞台袖にむかって
みい子
「あ、もとねー!」
もとね、上手から来る。
もとね
「みい子」
みい子、もとねのところに行き
みい子
「ちょ、もとね、きいて。さっき、かおと高倉お互いこんなことして
(「好き」の手話)ちょーうける」
もとね、かおを見る。
かお
「や、ちがくて、これは…」
かお、自分の嘘が匂い、むせるのをこらえる。
かお
「んん…んんん」
もとね
「ふーん」
かお
「何…」
もとね
「いや…別に」
みい子、かおともとねの不穏な空気に気づき、火野のところへいく。
みい子
「ちなみにこれ(「好き」の手話)ってどういう意味な?」
火野、みい子に意味を説明する。
その間、かおともとね。
もとね
「何で?」
かお
「何が」
もとね
「何で言ったの」
かお
「や、あたしは『言って』は、ないからね」
もとね
「そうじゃないでしょ。言ったかどうかなんて関係ない…伝えたか
どうかでしょ」
もとね、『好き』の手話。
かお
「伝わってないと思うんだけど…」
もとね
「どうだか…」
かお
「大体さ、なくない?もとねからいろいろ言われる筋合い」
もとね
「え…」
かお
「あたしが高倉をどう思おうが、もう、もとねに関係ないでしょ」
高倉
「え…」
もとね
「そういうこと言う?」
かお、余計なことを言ってしまった、と悔やむ様子。
火野
「(高倉に)どういうこと?」
高倉
「いや…」
火野
「お前ら、うまくいってなかったの?」
高倉
「…」
高倉、もとねに近づき
高倉
「瀬ノ内…」
もとね
「なに」
高倉
「さっきの…どういう意味?」
もとね
「なにが」
高倉
「…筋合いがないって」
もとね、高倉とかおを交互に見て
もとね
「だから…つまりね、一応つきあってるわけじゃん、あたし達。だから、
あたし達がどんな進路に進もうとも、あたしの気持ちは、まあ、気持ち的に言う
ところでは、それは変わらない(このあたりから、かおは匂いにむせ始める。
そんなかおの様子を伺いながら)変わらないって言うか、変わりみがないって
言うか…だから筋合い論で言うと…筋合いがないっていう…」
高倉
「…わかんない言ってること」
かお
「(匂いにむせて)んんっ…んんんっ」
もとね
「なんかわかんないよね。かおに聞いたら?あたしもわかんないよ」
高倉
「かお?」
高倉、かおを見る。
かお
「また、もとねがへんなこと言って」
高倉
「(かおに)何か知ってるのか、瀬ノ内のこと」
もとね
「あたしのことを聞くんじゃなくて」
かお
「(前のセリフに被せ気味に)高倉は自分の気持ちをもとねに言って
おけばいいんだよ」
もとね
「(前のセリフに被せ気味に)(高倉に)かおの本当の気持ち、聞いて
あげてよ」
高倉
「本当の気持ち?」
かお
「ごめん、高倉、もとねがへんなこと言って。高倉はきちんと、もとねとの
これからのこと、話しなよ。さっきの手話、使って」
高倉
「悪い、お前らの言ってること、わからん…」
かお、もとねに向き
かお
「(前のセリフに被せ気味に)もとね!」
もとね
「何!?」
かお
「…悪かったよ。もとねと仲よくなっちゃって、もとねの気持ち、知っちゃって…
もとねのこと、たくさん知っちゃって…知りすぎたんだよね、あたし。本当にごめん。
もとねのことも知らない方が…よかったんだよね、きっと」
もとね
「かお…」
かお
「…でもさあ、仕方ないじゃん…あたしは、隠せないんだから」
もとね
「…」
かお
「…もとねが嗅覚の研究するって聞いて、すっごい嬉しかったんだから」
かお、去ろうとする。
もとね
「かお…」
もとね、はけようとしたところで
みい子
「ねえ、あんた、待ちなよ」
かお、立ち止まる。
みい子
「なんか、よくわかんないけどさ。もとねもかおも、知っちゃったんでしょ、
お互いの隠しごと。そんなのさ、まあ、あることじゃん」
かお
「みい子…」
みい子
「みんな、あるでしょ。嘘とか隠し事のひとつやふたつ、みっつ、よっつ…。
あたしもあるし、うちらみんな、数えきれないくらい嘘ついてきてると思うよ。
火野だって」
火野
「俺?」
みい子
「火野だって、あたしに相当、嘘ついてるの知ってる」
火野
「そんなこと…」
3秒間、無音
高倉
「どっちだよ」
みい子
「いいよ、わかってるから。嘘なんてさ、みんながつくし、それに本当のこと
知っちゃったら、あとは、知っちゃった方の問題だからさ」
もとね
「…」
みい子
「火野なんか超嘘つきじゃん。でも、家族思いで、友達思いで、だから、
なんか許しちゃうんだよねえ。火野のこと考えるじゃん。なんかそれだけで幸せに
なっちゃうんだー。だからしゃーないんだよね。火野のことが大好きで、今好き
なんだから」
みい子、かおの正面に立ち
みい子
「火野の言ったことが嘘だってわかっても、それでも許しちゃう。それが
今のあたしなんだってこと。許すのは火野だけじゃない。そんなどうしようもない
火野のことを許しちゃうあたしを、あたしは許してあげるんだ。もとねは許せる?
自分のこと」
もとね
「…」
みい子
「かおは許せる?自分のこと」
かお
「…」
もとねとかおの視線があう。
もとね
「…高倉」
高倉
「ん?」
もとね
「後で時間くれる?今のあたしの気持ち、聞いて欲しいんだ」
高倉
「…ん(「わかった」の意)」
もとね
「かお」
かお、振り返らず
もとね
「…これからあたしの言うこと、嘘じゃないってわかる?」
かお
「…さあ」
かお、そのまま去ろうとする。
もとね
「待って!」
かお、ふりかえる。
もとね
「(去ろうとするかおに)私は男である。匂う?」
かお
「うん…」
かお、もとねの方を向きながら後ずさりを続ける。
もとね
「私はかわいい。匂う?」
かお
「(後ずさりながら)うん…」
もとね
「私には好きな人がいる。匂う?」
かお
「(後ずさりながら)…」
もとね
「私は、かおのこと大切に思ってる。匂う?」
かお、立ち止まる。
もとね
「かおが信頼できるやつだって、あたしが一番わかってると思う。だから
あたし、かおとは変わらずにやっていきたい。どう?嘘か本当かわかる?」
かお
「…信じる」
もとね
「ふーん…」
かお
「うん…信じる」
もとね
「匂い、ここからだと届かないでしょ。大丈夫なの?」
かお
「もとねのこと、よく知ってるし…それに…」
もとね
「それに?」
かお
「あたし、そんな自分を意外と許せるみたい」
もとね、かお、見つめ合い、微笑し合う。
もとね
「匂うよ」
かお
「匂わないでしょ」
火野
「さっきからお前ら、何いってんだ?」
もとね
「え?」
みい子
「匂うとか、匂わないとか、なに?」
もとね、かおの方を見る。
かお
「あたしね…嘘が香りでわかるんだ」
みい子
「えー?!」
火野
「本当かよ?」
もとね
「何、信じてんの?」
火野
「は?」
もとね
「そんなのあるわけないじゃん」
火野
「何だよ」
もとね
「ねえ、かお」
かお
「(微笑して)うん、嘘(と言って、嘘の香りにむせる)」
みい子
「なんだー」
火野
「まあ、みんな気をつけろよ。嘘はひとを傷つける。でも真実はひとを
悲しくさせるっていうからな」
みい子
「へえ」
火野
「それでもひとは…大切なあなたのことなら、知りたくなる」
高倉
「深いな」
もとね
「誰の言葉?」
火野
「おれが今考えた。ちなみに手話ではこうだ」
火野、手話で『嘘はひとを傷つける。でも真実はひとを悲しくさせる。
それでもひとは、大切なあなたのことなら知りたくなる』をみんなに教える。
教えているところで幕が下りる。
シアターリーグ
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シナリオ
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それは噓の香りかも
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