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卒業式の前日に前日が前日を
岩野秀夫
タイムループもの掌編
①あらすじ
田舎町の高校。卒業式の前日。
春田は、友人のあきらから、自分が今、タイムループのさ中にいることを
告白される。この延々と繰り返される卒業式の前日から助け出して欲し
い、と。状況を把握した春田だが、このまま卒業式の前日の繰り返しで
いい、と言い出して…。
②舞台
教室のベランダ。
手前に柵。校舎の壁の窓越しに教室の風景。
③人物
〇春田れいみ(女)高校3年生。眼鏡女子。勉強はできる。しかし、
家庭の事情で、進学をあきらめ、地元の老人ホームで就職することに
なっている。
〇尾瀬(おぜ)あきら(女)高校3年生。陸上で大学に推薦入学。春田に
勉強を教えてもらって仲良くなった。家はお金持ち。
〇菅原(男)高校3年生。春田とは幼馴染み。
ゲーム実況系のユーチューバーになりたい。
大学入ったら、アルバイトをして、ゲーミングPCを買う考え。
〇川瀬のぞみ(女)高校3年生。春田とは、いわゆるいつメン。
栄養士または管理栄養士の資格をとるため大学へ行く。色恋ネタが好き。
〇東(あずま)りこ(女)高校3年生。春田とは、いわゆるいつメン。
卒業後は、エステティシャンの資格をとるため、東京の専門学校へ行く。
1 教室のベランダ(昼近く)
教室のベランダに、春田がいる。
春田、ベランダから見下ろし、正門近くにのぞみとりこがいることに
気づく。
春田、手を振る。
春田の後ろ、教室の窓越しに菅原が現れる。
春田は、のぞみとりこに何か言われているようだが、よく聞き取れない。
春田
「え…何?…聞こえない…(大声で)何っ―?」
春田のスマホが鳴る。春田、スマホに出る。
春田
「はい…のぞみちゃん(のぞみに手を振る)お昼でしょ。大丈夫だよ、後で
行くから。お店、〇〇でいいんだよね…え?そうじゃなくて…後ろ?…あたしの?」
春田、振り返る。菅原に気づく。
春田
「えっ…」
菅原
「わっ…」
春田
「菅原君」
菅原
「おう」
春田
「どうしたの?」
菅原
「ま、ちょっとな。春田こそ。何してんの?もう、川瀬も、東も帰ったぞ」
春田
「いいの。後でお昼一緒に食べることになってるから」
菅原
「ふーん」
春田
「あ、そうだ(スマホで通話中だったことを思い出しスマホを耳にあてるが)
あ、きれちゃった」
春田、のぞみに電話する。
菅原
「お前、行かないのかよ」
春田
「(スマホを耳にあてながら)うん、ここでちょっと待ち合わせしてて」
菅原
「誰?」
春田
「あっきい。尾瀬さん」
菅原
「尾瀬?大丈夫なの、あいつ。今日、来てなかったけど」
春田
「そう。あたしも心配してたんだけど、さっきライン来て、話したいことあるから
教室でちょっと待っててって」
菅原
「卒業式来れんのか」
春田
「明日でしょ。大丈夫じゃない?これからここに来れるくらいなんだから」
菅原
「そっか」
春田、のぞみが電話に出ないので諦めて
春田
「(スマホを耳から離し)だめだ、出ないや」
菅原
「尾瀬?(にかけたの?)」
春田
「あ、これ(スマホ)?これはのぞみちゃん。りこちゃんも一緒なんだけど…
(正門を見下ろし)ほら、あそこにい(る)…」
菅原も覗き込むが
春田
「あれ?いない」
菅原
「お前ら仲いいよな」
春田
「うん」
菅原
「でも、卒業したら、ばらばらになっちゃうな」
春田
「…うん」
菅原
「川瀬は、どこだっけ」
春田
「のぞみちゃんは、□□(最寄りの大きめの都市)の大学。栄養士か
管理栄養士になるんだって」
菅原
「その違い、何?」
春田
「あたしも詳しくは知らないんだけどね」
菅原
「東は?」
春田
「りこちゃんは東京でエステの専門学校。ボディケアのエステティシャン
目指してるんだよ」
菅原
「エステやるのか。(りこ)らしい」
春田
「似合うよね」
菅原
「春田は…」
春田
「あたしは就職だって。知ってるでしょ」
菅原
「そうじゃなくて春田、本当に大学行かないの?」
春田
「え?…」
菅原
「大学…来年、受けたりしないの?」
春田
「だって…ねえ、うち経済的に無理だし」
菅原
「春田なら、奨学金だって十分狙えると思うんだよな」
春田
「ほら、弟もいるしさ」
菅原
「あ、まあな」
春田
「あたしは働かなきゃ」
菅原
「おやじさん、まだダメなんだ」
春田
「前よりだいぶ表情は戻ってきたけどね、たまに笑うようになったし…でも、
まだかかりそうかな」
菅原
「そっか」
春田
「ま、どうにかなるでしょ、うん…」
菅原
「(同時に)本当は…」
春田
「(同時に)菅原く…」
春田・菅原
「あ」
菅原
「どうぞ」
春田
「どうぞどうぞ」
菅原
「(笑って)本当はなー」
春田
「え?」
菅原
「本当は春田だったら、俺なんかより全然いい大学行けただろうに」
春田
「そんなの、わかんないよ」
菅原
「いや、行けるでしょ」
春田
「どうだろ。でも、もう決めたことだから」
菅原
「うーん」
上記の2人の会話の間に、のぞみとりこが教室に入ってくる。
のぞみとりこは、春田と菅原に気づかれないように、2人の
様子を教室の窓越しに見守る。
のぞみは、春田と菅原の微妙な関係の様子を楽しんでいる様子。
りこは渋々ついてきている様子。
菅原と春田は、のぞみとりこに気づかないまま会話を続ける。
春田
「…いいんだって。就職することも、あたしが決めたんだから」
菅原
「そっか」
春田
「ありがと。いろいろと」
菅原
「や、別に」
春田
「菅原君は大学、がんばってね」
菅原
「ま、がんばるってほどのもんじゃないよ。そんないい大学受かってないし」
春田
「(ふ、と思い出し)あ、そっか。なんかゲームの実況やりたいんだっけ。
文集にそんなの書かなかった?」
菅原
「書いた」
春田
「アルバイトしてゲーム用のパソコン買うんだよね」
菅原
「ゲーミングPC。よく覚えてんなあ!」
春田
「いいじゃん。やりたいことあって。楽しみだね」
菅原
「俺のは遊びみたいなもんだし。だから、4月から働く春田ってすげえ
なあって」
春田
「まあ…そう決めたんだ」
菅原
「老人ホームだっけ。〇〇(←通りの名前)沿いの」
春田
「うん」
菅原
「あの、夏にバイトで行ってた…」
春田
「そうそう。行っといてよかったよー。就職に有利になった」
春田の笑顔。
菅原
「まあ、介護の仕事って、春田に向いてるなあ、とも思うし、これで
良かったのかもな」
春田
「向いてる?どうして?」
菅原
「春田、やさしいし、ちゃんと人の話聴こうとしてる」
春田
「(菅原をじっと見て)あたしが?」
菅原
「うん」
春田
「やさしくて、人の話ちゃんと聴こうとしてる?」
菅原
「(見つめられていることに照れて)…と思うよ。案外あってんじゃね」
春田
「本当に?本当にそう思う?」
菅原
「(予想外に食いつかれて驚く)お、思うよ…」
春田
「…ねえ、あたしのどのへんがやさしいの?なんで、そう思えるの?」
菅原
「や、そう言われると…」
春田
「結構、不安なんだよね。ちゃんと人の話聴くのだって自覚ないしさ」
菅原
「俺は本当にそう思うし、みんな思ってると思うよ?あれ?」
春田
「どうしたの?」
菅原
「あ、デジャブだ。今この風景」
春田
「ええ?」
菅原
「デジャブ…」
春田
「それで…あたしのどのへんがやさしくて、なんで人の話ちゃんと聴こうと
してるって思えるの?」
菅原
「うん、そうね…うん」
春田
「言えないじゃん」
菅原
「そんなことないんだよ。そうだな…なんて言ったらいいんだろ…うーん…」
のぞみ
「ったく、だめだねえ菅原。ああ聞かれた時にぽんぽん出てこなきゃ」
りこ
「もう、先に店行こうよ。なんで、ここにいんの?〇〇、並ぶことになるよ」
のぞみ
「まあまあ、いいもの見れるかもしれないからさ」
りこ
「のぞみ、好きだよねぇ、こういうの」
のぞみ
「うん」
りこ
「てかさ、卒業って時に告ろうとするの、どうよ」
のぞみ
「え、なんで。よくない?」
りこ
「菅原、関西の大学行くってのに、春OKしたら遠距離確定じゃん。
幼馴染だからって…いや、幼馴染だからこそか。物理的に離れれば、心も
遠ざかっていく…」
のぞみ
「会えない時間が想いを育むこともあるでしょ。それに、別に
いいんだって、結果なんか。菅原だって求めてないんじゃない」
りこ
「んなの意味ないじゃん」
のぞみ
「(笑って)りこ、嫌いだもんね、意味ないの」
りこ
「ダメ、ないわ」
のぞみ
「意味なくたっていいの。相変わらずだけど、治したほうが得だよー、
りこのそういうとこ。男って女に幻想求めるからさ、意味あるものばかり求めてる
女には寄ってこないよ」
りこ
「知るか。幻想だけで喰っていけねっつーの」
のぞみ
「あ。ちなみに胃袋もつかんどく必要あるからね。色気なんかより断然、
食い気大事。だからりこもまだ大丈夫だよ」
りこ
「どういう意味だ。てか、そう言ってる時点でのぞみだって色気の勝負捨ててる
だろ」
のぞみ
「何でよ」
りこ
「じゃ、のぞみ、栄養士になるのってなんのためよ」
のぞみ
「は?」
りこ
「だから胃袋の方で勝負するってことだろ」
のぞみ、数秒の間の後、りこの肩にグーパンチする。
りこ
「いっ…(痛い)」
のぞみ、りこに、しーっのリアクション。
りこ
「おい…」
のぞみ
「まあ、突き詰めれば、男と女ってタイミングが全てだから」
りこ
「振り切ったな」
のぞみ
「でなきゃ、あっきいとかには敵わないでしょ」
りこ
「あっきいか…」
のぞみ
「家がお金持ち。陸上で推薦もらって大学行けて、勉強できて」
りこ
「勉強の点では、うちらと同じ、春のおかげってとこあるけどね」
のぞみ
「ま、そうなんだけど、そもそもねぇ、世界が違うから」
りこ
「ただ、あっきいがすげえのは、ちゃんと自己管理してるってとこなんだよ。
そんな自分の環境に甘んじることなくさ。ほら、修学旅行行った時」
のぞみ
「何、急に」
りこ
「みんなで風呂入ったじゃん」
のぞみ
「入ったよ」
りこ
「のぞみ、あっきいの身体見た?」
のぞみ
「そんな、じろじろ見ないよ」
りこ
「も、すごかったから」
のぞみ
「何?エロかったの?」
りこ
「ある意味ね。当然のように割れている腹直筋や無駄のない上腕二頭筋、
僧帽筋。女とは思えないくらい引き締まった広背筋、大殿筋…」
のぞみ
「そそられてんの、りこだけだから」
りこ
「兄貴の大殿筋よりしまっているんだよ」
のぞみ
「自分の兄貴の尻と比べるんじゃない」
りこ
「あー…触ってみたい。てか、いつか、あたしの客で来てくんないかな」
のぞみ
「そういえば修学旅行の時あっきい、夕食だって揚げ物やデザートは全部、
手をつけずにいたね」
りこ
「よく見てんねぇ」
のぞみ
「なんか思い出しちゃった。隣に座ってた、たま子が全部食べてさあ」
りこ
「たま子なあ…」
のぞみ
「何か、そんな話したらお腹空いてきちゃった」
りこ
「もう、行こう。あの2人につきあってらんない。〇〇、あんま待ちたくないん
だよね」
上のセリフの間に、ジャージ姿のあきらが廊下から教室に入ってくる。それに気づく
のぞみ。
のぞみ
「あれ、あっきいだ」
りこ
「あ、ホントだ。今日来てなかったっしょ」
のぞみ
「うん、てか、あっきい、どこ行くつもりなの?」
あきら、そのまま教室を抜け、ベランダに向かう。
のぞみ
「あ、ばか、邪魔、何やってんの、だめ、あっきい」
あきら、そのままベランダに出て、菅原の隣に来る。
(向かってあきら、菅原、春田の並び)
菅原
「あのさ、春田」
春田
「あっきい」
菅原
「や、ちが、俺、菅原(隣のあきらに気づき)ん?うわあああ!」
あきら
「うるさい」
菅原
「(のぞみとりこの存在にも気づき2人を指さしながら)ああ!
うわあああああ!うわああああ!」
のぞみ・りこ
「うるさい」
菅原
「お前らいつからいたんだよ!」
のぞみ
「菅原、ちょっと」
菅原
「なんだよ」
のぞみ
「いいから、こっち来て」
菅原
「なに…」
のぞみ
「今の何?全然ダメじゃん」
菅原、のぞみとりこの元へ行く。
のぞみの菅原に対するダメ出しが始まる。
あきらは意に介さず話始める。
あきら
「春!」
春田
「あっきい、どうしたの?今日、学校休んで」
あきら
「春、助けて!」
春田
「え?」
あきら
「あたしをこの卒業式の前日から助け出して!」
春田
「どういうこと?」
あきら
「あたしもう、この説明7、8回目だから端的に言うけど」
春田
「7、8回って」
あきら
「あたし、今日をずっと繰り返してるの!」
春田
「え?」
あきら
「おかしなこと言ってると思うけど、あたし今日を繰り返してるの!何度も!
何度も何度も!今日から抜け出せないの!起きても起きても今日なの!
今日をもう7回も8回も繰り返しているの!!お願いだから助けて!!」
春田
「あっきい?」
あきらの勢いに、のぞみとりこと菅原も聴き入ってしまう。
のぞみ
「ちょっと…あっきい、何言ってんの?」
りこ
「今日を繰り返してるって何?」
菅原
「だって、うちら明日、卒業式だろ。卒業式にならないってこと?」
春田
「タイムループしてるみたい」
あきら
「そう!春、毎回それ言ってくれてる」
春田
「ええ?」
あきら
「それで、こうも言う。映画や小説でしか聞いたことないけど」
春田
「うん、そう思った」
あきら
「やさしい春はいっつも落ち着いて話を聞いてくれる。だから、あたし、
また話す!それは、昨日の夜…ま、あたしにしてみれば一週間くらい前の夜
なんだけど」
のぞみ
「ねえ、これ何が始まったの?」
りこ
「さあ…」
あきら
「あたしの夢の中に、知らない男の人が現れたんだ」
春田
「知らない人…」
あきら
「これね、本当にその夢の中の男の人が毎回言ってることなんだけど、
その男の人って、文部科学省の事務次官で、今は2065年なんだって」
りこ
「2065年?」
のぞみ
「今から…」
菅原
「(だいたい)40年後。未来の話ってことでいいのか」
春田
「おもしろい」
あきら
「で、その人が言うにはね、その2065年に、あたしはスポーツ庁の
長官になっているんだって」
春田
「なんだかすごいね」
菅原
「大きく出たな!」
あきら
「本当にそいつが言ってんだよ!毎回毎回言ってんの!あたしだって
いろいろ聞きたいことあるんだけど、そいつはあたしの脳の…つまり未来の
あたしの脳の記憶中枢から直接、寝ている今のあたしに語りかけているん
だって。だから、あたしからは何も聞けないの!しかも未来のあたしは、
死にそうなんだって」
りこ
「あっきい、大丈夫?」
のぞみ
「まあ、夢の話なんでしょ」
あきら
「毎回、言われてんの、同じこと!本当に言われてるんだって!その
事務次官って人がね、来年の2066年に日本が某国とFIFAワールド
カップの共同開催をやることになってるらしいんだけど、その某国との関係が
悪くなってるみたいで」
りこ
「また共同開催するんだ」
菅原
「どこなんだ、某国って」
あきら
「もう、毎回、菅原その質問してくるんだけど、夢で一方的に
メッセージが送られてるの!だから、あたしからは何も聞けないの!だから
知らないの!何度も聞かないでよ!向こうも話さないし、言えないって
言ってるし」
のぞみ・りこ
「菅原ぁ…」
菅原
「さーせん」
あきら
「その某国とのパイプ役があたしだったらしくて、そのあたしが急病で
死にかけてる。だから、あたしの現状を変えるために、つまり、あたしの未来を
変えて、あたしの命を救うために記憶を遡ったら、今日、この卒業式の前日
が転換点なんだって!」
春田
「だから、未来のあっきいが救われるまで、今日が繰り返されてるって
こと?」
あきら
「そう!」
菅原
「未来の尾瀬の記憶中枢を通じて、どうやって今のお前に働きかけられ
るんだ?」
あきら
「あたしに聞かないでよ!40年後ならできるんでしょ、それぐらい!」
菅原
「そもそも、未来が変わったら、お前がスポーツ庁長官じゃなくなるかも
しんないじゃん」
あきら
「だから、最適解が得られるまで、繰り返し繰り返し、あたしは今日を
やり直しさせられるんじゃないかって…3回くらい前の春が言ってた!」
菅原
「その最適解ってどうやってわかるんだ?」
あきら
「知らないよ!国のその、おえらいさんならわかるんでしょ、きっと!
あたし、ワケわかんないまま、どこで起きてようが、寝てようが、真夜中に
なるとベッドの上に戻されて、それがもうずっと…」
のぞみ
「りこ、わかった?言ってること」
りこ
「1ミリもわからないんだけど」
菅原
「だから、こういうことなんじゃない?未来の尾瀬が助かって、なおかつ
そんなに未来の状況が変わってない。変わったとしても許容範囲って判断
されるまで、尾瀬は、今日を繰り返させられる」
あきら
「多分、そう!」
菅原
「尾瀬は、少しづつ行動を変えて、許容範囲の未来になるまで、ずーっと
今日を繰り返さざるを得ないってことなんだよ」
あきら
「おお!今回の菅原、普通にわかってる!」
菅原
「まあ、尾瀬の言うことを信じればの話だけどさ」
あきら
「だから本当だって言ってんじゃん!」
春田
「つまり、行動変えるために、あっきい、今日学校休んだの?」
あきら
「今、そのパターンで試してる」
春田
「そうか…そうすると、学校は休むけど、陸上の練習には行く。
あるいは、学校には来るけど、練習には行かない。
あるいは、学校を休んで、練習にも行かず、他のことをする…
学校を休んで、練習に行くけど、その練習中の行動を変えるってこともある…
何か選択肢がありすぎない?」
あきら
「だから、困ってるんだよ…ねえ、春、あたしの行動パターン分析して、その
選択肢っての、つぶすの手伝って!」
春田
「(とまどい)え…」
あきら
「こんなお願い、春にしかできない!超絶頭よくて、ちゃんと話聴いてくれる
春にしか頼めないんだよ!」
春田
「でも、そんな夢の分析とか…」
あきら
「違うんだ!夢の分析とかじゃないんだよ!現実に起こってる…」
菅原
「(前のセリフに被せて)尾瀬、先生呼んでくるからさ」
あきら
「黙ってろよ!」
菅原
「さーせん」
春田
「菅原君、あっきいはこういうこと、冗談で言うひとじゃない。きっと、なんか
あるんだよ」
あきら
「春、毎回それ言ってくれる!もう!春ぅ~!」
あきら、春田を抱きしめる。
春田
「ちょっと、あっきい」
あきら
「菅原!」
菅原
「お?」
あきら
「言っとくけど、タイムループなめんなよ!だてに何度も今日を繰り返してんじゃ
ないんだぞ」
菅原
「何だよ」
あきら
「あたし、何で菅原が今日、ここに残ってたのか、知ってんだからな!」
菅原
「な!」
あきら
「さらにその結果だって知ってんだからな!」
菅原
「お前、何言って…」
りこ
「(何のことか知っててあえて聞く)菅原、結果って何?」
菅原
「知らねえよ!」
あきら
「それに、これから春とのぞみとりこが、ランチに行くことも知ってる」
のぞみ
「え?!」
りこ
「なんで?!」
あきら
「〇〇に行く予定でしょ。でも、今日、開いてないよ。臨時休業してる。
で、結局、駅前のマックで済ませることになる。毎回そうなの」
のぞみ、スマホで〇〇にTELして、確認する。
春田
「さっき決めたことなのに、なんで知ってるの?」
あきら
「だから、あたしはもう今日を7回も8回も繰り返してるんだって!」
のぞみ
「確かにやってない、〇〇。都合により臨時休業だって」
りこ
「どういうこと?」
あきら
「どう?春、今度こそあたしの話信じてくれる?」
春田
「…信じるも何も…」
菅原
「おい…春田、困ってるだろ」
あきら
「あたしだって、困ってんだよ!でも、そう、春は、いつだって困ってる
あたしを助けてくれて…陸上で忙しくて勉強できなかったあたしに、ちゃんと
推薦とれるように勉強教えてくれた。あたしの練習後、夜遅くなっても、電話で
テスト対策の相談にのってくれた。勉強だけじゃない。(あきらの種目名)の
記録が伸び悩んでいて、あたしがつらくなっている時に、あたしの話を聞いて
くれて。春には何のメリットもないことなのに」
春田
「でも、どうしたらいいんだろう…うまくいかなかったら全部リセットされて、
あたし、何も知らない状態に戻るわけなんでしょ」
あきら
「(前のセリフに被せて)とても、独りじゃこの状況、対応しきれないん
だよ!もう、てんぱって、てんぱって、自分が何をしたのか、あとどんな
行動パターンが残されてるのか。あたしの話をちゃんと聴いてくれて、あたしの
ことよく理解して、どんな行動とればよいのか、教えてほしいんだよ!お願い!春!
あたしをこの卒業式の前日から助け出して!」
のぞみ
「やばいな、あっきい」
菅原
「俺、これ動画とっとこうかな」
りこ
「実況するの?」
あきら
「だめかー!!」
あきら、しゃがみこむ。
あきら
「…どうしたらいいんだよう、もう…もう!!」
春田
「あっきい」
あきら
「ん?」
春田
「わかったよ」
あきら
「…え?」
春田
「ま、ホントはよくわからないんだけど、あっきいは今、困ってて、
あたしが何か、力になれるってわけでしょ」
あきら
「(すくっと立ち上がり)そう!」
春田
「しかも、未来のあっきいの命に係わることなんでしょ」
あきら
「そうだよ!」
春田
「いいよ!何ができるかわからないけど、あたしで役にたてるんだったらさ。
あっきいの話を聞いて、いろんな行動パターンを一緒に考えればいいんだ
よね?」
あきら
「え、どうしよ。こんな展開初めてなんだけど」
春田
「7、8回目なんだっけ?」
あきら
「これは…今までと違う。なんか、いけそうな気がする。やっと先に進めるかも」
のぞみ
「え、春、どうすんの?ご飯行かないの?」
春田
「そうだね。ね、あっきい、ちょっとのぞみちゃん達とごはん食べてからでいい?
旅行の打ち合わせする約束でさ」
あきら
「ああ…」
りこ
「あ、でも〇〇開いてないんでしょ」
のぞみ
「だから、うちらマックに行くんだっけ?」
あきら
「じゃあ、その後でいいから、連絡ちょうだい。あたし、連絡待ってる」
春田
「あっきいも行かない?みんなで話聴けたら、何かいいアイディア見つかるかも」
あきら
「あー…」
あきら、のぞみとりこの方を見る。
のぞみとりこ、疑わしそうにあきらを見つめ返す。
あきら
「やっぱ、あたし、練習行くわ。このパターン初めてだし、一番最初の流れに
戻ってみる」
春田
「今日はホームルームの後、練習あるって、昨日言ってたもんね」
あきら
「…うん、春にとっては昨日だよね」
あきら、教室の中に入り、そのまま、部活に向かおうとする。
あきら
「必ず、連絡ちょうだいね」
春田
「うん」
あきら
「ほんと、待ってるから、連絡。必ずちょうだい」
春田
「夕方になっちゃうと思うけど」
あきら
「大丈夫、日付け変わらなければ。よろしくね!必ずだよ!」
春田
「後でねー」
あきら、教室から出ていく。
あきらが教室から出ていくのを見届けてから、菅原、春田のところに行く。
菅原
「春田」
春田
「…変な話だったね」
菅原
「で、お前どうすんの?」
春田
「どうするって」
菅原
「尾瀬のこと、何ができるの?」
春田
「わかんない」
菅原
「えー、じゃ、どうすんのよ」
春田
「未来の自分が死にかけてるなんて、ユングの夢分析でありそうなんだよね。
でも、夢分析なんてあたしできないし…うーん…ひとまず、また、あっきいと
話してみるよ」
菅原
「さすが、春田はやさしいな」
春田
「何が?」
菅原
「やさしいし、ちゃんと人の話聴こうとしてる」
春田
「(菅原をじっと見て)あたしが?」
菅原
「うん」
春田
「やさしくて、人の話ちゃんと聴こうとしてる?」
菅原
「(見つめられていることに照れて)…と思うよ」
春田
「本当に?本当にそう思う?」
菅原
「(予想外に食いつかれて驚く)お、思うよ…」
春田
「…ねえ、あたしのどのへんがやさしいの?なんで、そう思えるの?」
菅原
「や、そう言われると…」
春田
「結構、不安なんだよね。ちゃんと人の話聴くのだって自覚ないしさ」
菅原
「俺は本当にそう思うし、みんな思ってると思うよ?あれ?」
春田
「どうしたの?」
菅原
「あ、デジャブだ。今この風景」
春田
「ええ?」
菅原
「デジャブ…」
春田
「それで…あたしのどのへんがやさしくて、なんで人の話ちゃんと聴こうと
してるって思えるの?」
菅原
「うん、そうね…うん」
春田
「言えないじゃん」
菅原
「そんなことないんだよ。そうだな…なんて言ったらいいんだろ…うーん…」
ジャージ姿のあきらが廊下から教室に入ってくる。それに気づくのぞみ。
のぞみ
「あれ、あっきいだ」
りこ
「あ、ホントだ。今日来てなかったっしょ」
のぞみ
「うん、てか、あっきい、どこ行くつもりなの?」
あきら、そのまま教室を抜け、ベランダに向かう。
のぞみ
「あ、ばか、邪魔、何やってんの、だめ、あっきい」
あきら、そのままベランダに出て、菅原の隣に来る。
(向かってあきら、菅原、春田の並び)
菅原
「あのさ、春田」
春田
「あっきい」
あきら、事前に耳を塞ぐ。
菅原
「や、ちが、俺、菅原(隣のあきらに気づき)ん?うわあああ!」
あきら
「うるさい」
菅原
「(のぞみとりこの存在にも気づき、指さしながら)ああ!うわあああああ!
うわああああ!」
のぞみ・りこ
「うるさい」
菅原
「お前らいつからいたんだよ!」
のぞみ
「菅原、ちょっと」
菅原
「なんだよ」
のぞみ
「いいから、こっち来て」
菅原
「なに…」
のぞみ
「今の何?全然ダメじゃん」
菅原、のぞみとりこの元へ行く。
のぞみの菅原に対するダメ出しが始まる。
あきらは意に介さず話始める。
あきら
「春!」
春田
「どうしたの、あっきい、今日学校休んで、大丈夫?」
あきら
「大丈夫じゃない!あたし、もう、今日を12,3回繰り返してるんだよ!」
春田
「ええ?」
あきら
「同じ説明になるから端折るけど、これこれこういうわけで、かくかくしかじか
だから、あたしは、今日を繰り返してるってわけ!」
春田
「まるで、タイム…」
あきら
「そう、タイムループなの!」
春田
「映画…」
あきら
「そうなの、映画や小説でみたことあるけど、現実にあるの!」
春田
「今、ちょうど…」
あきら
「春は、今そう思ったとこだったの!ここまではもう毎回同じなの!」
のぞみ
「(りこに)あっきい、大丈夫かな?」
りこ
「ねえ」
あきら
「あたし、知ってるの!春とのぞみとりこがこれからご飯食べに行くことも、
行こうとしてた〇〇が今日は開いてないことも知ってるの!で、行先がマックに
なることも知ってるの!」
のぞみとりこ、顔を見合わせる。
のぞみ、スマホで〇〇にTELする。
菅原
「どうする?先生、呼んでくる?」
あきら
「それから、菅原が今日なんで残ってたかも知ってんの!」
菅原
「な!」
あきら
「ついでに結果も知ってんの!」
りこ
「(何のことか知っててあえて聞く)菅原、結果って何?」
菅原
「知らねえよ!」
のぞみ
「りこ、確かに〇〇やってないわ。都合により本日休業だって」
りこ
「え…」
あきら、春の肩をつかみ
あきら
「ねえ、春、お願いだから信じて!あたしがタイムループってやつに
はまっていること、ずーっとずーっと卒業式の前日が続いていること!」
春田
「(前のセリフに被せて)あっきい、ちょっと落ち着いて…」
あきら
「こんなの落ち着いて話せるわけないでしょ!あたし、もう、2週間くらい
ずーっと卒業式の前日が繰り返されてるんだよ!」
春田、あきらから離れ
あきら
「なのに…こんなに言ってるのに…誰も信じてくれない」
春田
「あっきい…」
りこ
「(のぞみに)ねえ、あっきい大丈夫かな?」
のぞみ
「わかんない…」
あきら、ポケットから金メダルを取り出し
あきら
「春、これ…」
春田
「それって…」
あきら
「夏のインターハイのメダル…」
春田
「だよね?どうしたの?」
あきら
「春にあげる」
春田
「え?」
あきら
「このメダルだって春のおかげで取れたようなものだから。
これ、春にあげる。だから信じて、あたしの話」
春田
「もらえないよ、そんな大切なもの」
あきら
「そう、あたしにはすっごい大切なものなんだけど、でも、春にあげる!
ねえ!あげるから!あげるから信じて!お願い!信じて!ねえ!
これあげるから!ねえ!」
あきら、メダルを強引に春田にかけようとする。
春田
「ちょ…ちょっと待って…あっきい」
菅原
「もうやめろよ、尾瀬」
あきら
「しょうがないだろ!こうでもしなきゃ、あたしの話、信じてもらえない
んだから!」
菅原
「春田、きっと信じてないぞ。むしろ引いてる」
あきら、再度、春田にメダルをかけようとする。
あきら
「ねえ、春、だめ?信じてくれないの?このメダルあげるって!
だから信じてよ!ねえ!」
春田
「や、まって…あの…」
りこ
「あたし、先生呼んでくるわ」
のぞみ
「あ、あたしも。菅原、ここは頼んだ!」
菅原
「ええ?!」
りこ、のぞみ、先生を呼びに教室を抜けて廊下へ駆けていく。
あきら
「ちょっと、待ってよ!りこ!のぞみ!」
あきら、春田にメダルをかけるのを諦める。
あきら、深いため息。
あきら
「わかった…今日はこれでやめておく。今回はきっとだめだ。
また、明日、卒業式の前日になる」
あきら、ダッシュで教室を抜け、廊下に抜けて駆けていく。
春田
「あっきい!」
あきらが去った後、菅原、春田に近づく。
菅原
「どうしたんだろうな、尾瀬…」
春田
「ねえ、ちょっとおかしかったね。でも、あっきいは冗談で、こんなことする
人じゃない。きっと何か理由があるんだよ」
菅原
「理由?ってことはタイムループは本当だってのか?」
春田
「わかんないけど…後で、あっきいに電話してみる。もっと、あっきいの
話聴いてみたら、事情が何かわかるかもしれない」
菅原
「さすが、春田はやさしいな」
春田
「何が?」
菅原
「やさしいし、ちゃんと人の話聴こうとしてる」
春田
「(菅原をじっと見て)あたしが?」
菅原
「うん」
春田
「やさしくて、人の話ちゃんと聴こうとしてる?」
菅原
「(見つめられていることに照れて)…と思うよ」
春田
「本当に?本当にそう思う?」
菅原
「(予想外に食いつかれて驚く)お、思うよ…」
春田
「…ねえ、あたしのどのへんがやさしいの?なんで、そう思えるの?」
菅原
「や、そう言われると…」
春田
「結構、不安なんだよね。ちゃんと人の話聴くのだって自覚ないしさ」
菅原
「俺は本当にそう思うし、みんな思ってると思うよ?あれ?」
春田
「どうしたの?」
菅原
「あ、デジャブだ。今この風景」
春田
「ええ?」
菅原
「デジャブ…」
春田
「それで…あたしのどのへんがやさしくて、なんで人の話ちゃんと聴こうと
してるって思えるの?」
菅原
「うん、そうね…うん」
廊下から、りことのぞみの声が聞こえる。
りこ
「ちょっと!あっきい、大丈夫?!」
りことのぞみが廊下を駆けて来る。
あきらがよろよろと、疲れ切った様子で、廊下から教室に入り、ベランダに来る。
春田
「あっきい、どうしたの?」
りことのぞみも、追ってベランダに来る。
春田
「あれ、りこちゃん、のぞみちゃん?もう〇〇行ったかと思った」
のぞみ
「や、まあ、ちょっと」
りこ
「ねえ、大丈夫なの?あっきい」
のぞみ
「今日来てなかったっしょ」
あきら、疲れ切っている。
あきら
「春…」
春田
「どうしたの、今日学校休んで…具合悪いそうだし、大丈夫なの?」
あきら
「大丈夫じゃない…あたしね、もう、今日を30回くらい繰り返してるんだ…」
春田
「はあ…」
あきら
「これこれしかじかで、あたしは、今日を繰り返してる…」
春田
「まるで、タイム…」
あきら
「そう、タイムループなの…」
春田
「映画…」
あきら
「そうなの、映画や小説でみたことあるけど、現実にあるの…」
春田
「今、ちょうど…」
あきら
「春は、今そう思ったとこだったの…ここまではもう毎回同じ…」
のぞみ
「(りこに)あっきい、やばくない?」
りこ
「やばいかも」
あきら
「あたし、知ってるの…春とのぞみとりこがこれからご飯食べに行くことも…
行こうとしてた〇〇が今日は臨時休業だってことも…行先がマックになることも
知ってるの」
のぞみとりこ、顔を見合わせる。
菅原
「どうする?先生、呼んでくる?」
あきら
「それから、菅原が今日なんで残ってたかも知ってんの…」
菅原
「な!」
あきら
「ついでに結果も知ってんの…」
りこ
「(何のことか知っててあえて聞く)菅原、結果って何?」
菅原
「知らねえよ!」
あきら
「ねえ、春…どうしたらいい?どうしたら信じてくれる?
あたしにしたらもう、1カ月くらいずーっと今日なんだよ…
あたしこのまま永遠に今日を繰り返すの?助けてよ、春…
お願いだから、あたしを信じて…」
春田
「信じる。信じるから落ち着いて」
あきら
「あたし、春休みから大学で陸上やることになってるの…
20××年(←直近の開催)のU20の世界陸上目指してるの…いつまでも卒業
できないんじゃ、困るの」
春田
「何だかよくわからないけど、あっきいは今、困ってて、あたしが何か、力に
なれるってわけでしょ」
あきら
「そう…」
春田
「いいよ!何ができるかわからないけど、あたしで役にたてるんだったらさ」
あきら
「今回はこれか…」
春田
「え?…」
あきら
「…今回はこの展開か…」
あきら、がっくりと肩を落とし、力が抜ける。
春田
「今回って、どういうこと?」
あきら
「…(大きくため息)また、だめかぁ…」
春田
「や、だめって言うか、手伝うってば、だから。ただ、今日、これからのぞみ
ちゃん達とお昼食べにいく」
あきら
「旅行の相談するんでしょ」
春田
「そう、何で知ってるの?まあ、だから、お昼食べた後、連絡するから」
あきら
「そう、それで、この展開の場合、連絡はくるんだけど、結局は春も信じて
くれてない。電話で話を聞いてくれても、最後はこう言って終わる。『明日、卒業式
終わったら、また話そう』って。その卒業式が、あたしには来ないんだよ。ずっと
卒業式の前日のまんまなの…お願いだから信じてよ…」
春田、のぞみ、りこ、菅原、「どうしよう」って感じで互いに目を合わせる。
あきら、ベランダから外を眺め、深いためいきをつき、力無いまま
あきら
「あ~あ…やっぱ、ダメかぁ~」
あきら、ベランダ越しに地面を見下ろし
あきら
「…もう一生ダメかなぁ」
春田
「あっきい…」
あきら、ベランダの手すりにつかまり、危険な態勢で地面を覗く。
春田
「ちょっ…危ないよ」
あきら
「ここから、飛び降りれば、信じてくれる?」
春田
「え?」
あきら
「足から落ちればきっと死にはしない。あたしはきっと救急車で病院に
つれてかれる。春、その病院にきて」
春田
「何言ってんの」
あきら
「病院で話そう。どうしたらいいか。ダメなら、また、あたしには同じ今日が
始まる。きっと…ケガのない体に戻って」
春田
「卒業式、どうすんの?ケガしたら出れなくなるじゃん。あたし、やだよ。
あっきいのいない卒業式」
あきら
「このままだと、あたしにはその卒業式の日が来ないんだってば」
春田
「だいたい、そんなことしたら、あっきい、陸上できなくなる」
あきら、持っていた(あるいはジャージの下で首にかけていた)金メダルを
取り出す。
あきら、メダルを手すりに置きながら話し出す。
春田
「それって…」
あきら
「夏のインターハイのメダル」
春田
「どうして、今もってるの?」
あきら
「2週間くらい前から持ってきてるんだ。春にあげようと思って」
春田
「え?」
あきら
「春に信じてもらうためにさ。これあげるから信じてって」
のぞみ
「や、それは…」
りこ
「もらえないでしょ」
春田
「もらえないよ。あっきいが頑張って取ったメダルを」
あきら
「そう。やっぱり断られて…信じてもらえなくて…」
菅原
「そりゃそうだろ」
あきら
「でも、これ持ってたとしても、このままじゃ意味ないんだ。
今日が続く以上、陸上続ける意味なんかない。だから、もう…
こんなメダルも…いらないかな…」
あきら、3秒程迷うが、メダルを手すりから、すり落とす。
みんな
「あ…」
あきら、メダルの紐の部分を押さえており、手すりから金メダルがぶら下がる。
春田、あきらに近づく。
春田、ゆっくりと手を伸ばし、あきらが金メダルを落とす前に、金メダルを
すくい取る。
春田
「…やめなよ。そういうことするの」
あきら
「…陸上だけじゃない。やりたいこといっぱいあるんだ、あたし。
先に進めないなんて耐えられない。なのに、春が信じてくれないから、
あたしは延々と今日を繰り返してる。毎日毎日同じこと、言わさないでよ」
春田
「…だから信じてるって」
あきら
「春…」
あきら、春田をつきとばす。
春田
「わっ!?」
のぞみ・りこ
「あ!!」
春田、しりもちをつく。
菅原
「春田!」
菅原、春田の元へ駆け寄る。
菅原
「大丈夫か…」
あきら
「病院にきてよ、春」
あきら、手すりに飛び乗り、飛び降りようとする。
菅原
「あ!」
りこ
「ばかっ!」
りこ、ダッシュであきらのところへ向かい、飛び降りるのをくい止める。
りこ
「(あきらを羽交い絞めながら)ばかばかばかばかばか…!」
あきら、少し抵抗するが、りこが力づくで、あきらを手すりから引きずり下ろす。
あきら、りこ、息が荒い。
のぞみ
「りこ!」
のぞみ、りことあきらの元へ駆け寄る。
のぞみ
「大丈夫…?」
りこ
「何やってんのよ…もう」
遅れて、春田と菅原も近寄る。
あきら
「…」
あきら、しばらくその場で立ち上がれず、息のあがった状態となっている。
やがて、大きく深呼吸して、ゆっくりと立ち上がり
あきら
「次は絶対飛び降りるからね。春が信じてくれるまで何度だって
飛ぶから」
あきら、教室の中へ入ろうとする。
春田
「あっきい」
あきら
「なに」
春田
「本当に、今日って、繰り返されてるの」
あきら
「だから、ずっとそう言ってんじゃん」
春田
「そっか…(くすっと笑い)そうなんだ」
春田、はっきりと笑いだす。
のぞみ
「えー…」
りこ
「今度は春がおかしくなった」
春田
「や、ちが…」
春田、笑いが止まらない。
のぞみ
「なんなの」
春田
「ちがうの…ちが…(笑って)ごめん、みんな。あたしはね、ずっと
このままでいいかなって思って」
あきら
「…は?」
春田
「て言うか、このままがいい。ずっと。もう、ずっと、この卒業式の前日が
繰り返されてていい」
あきら
「春…」
春田
「あっきいのこと信じるよ。信じるからこそ、あたし、このままがいい」
あきら
「どうしちゃったの、春」
春田
「どうしたも何も、あたしはただ、今日が繰り返されてる方が
いいってだけ」
あきら
「よくないよ!みんな卒業できないままになるんだよ!」
春田
「あっきいの夢に出てきた人…あたし達のこと、何か言ってた?」
あきら
「な…何かって?」
春田
「あっきいはスポーツ庁のえらい人になってるんでしょ。のぞみちゃんは?
りこちゃんは?菅原くんは?で、あたしは…将来どうなってるの?」
あきら
「みんなのことは特に」
春田
「みんなは、卒業して、このまちを出て、これから、いろんな選択肢が
あって、何かを選んで、何かになっていく。でも、あたしは…ここに残る。
それしかない。どこにも行けない。何にもなれない」
りこ
「そんなこと言うなよ、春」
のぞみ
「休みには帰ってくるからさ」
春田
「のぞみちゃん、栄養士になる勉強で忙しくなるでしょ。それに、きっと
大学でいろんな出会いがあって、のぞみちゃんのことだから大学がすっごく
楽しくなるんじゃない?忙しくてこっちなんか帰ってられないよ」
のぞみ
「そんなこと(ない)」
春田
「りこちゃんもそう」
りこ
「あたし?」
春田
「りこちゃんは、エステティシャンになって、東京に馴染んで、きっと楽しい
毎日を送っちゃうんだよ。東京なら遊べるところいっぱいあるもんね」
りこ
「…」
春田
「菅原君だって」
菅原
「おれ?」
春田
「普通に大学いって、普通にバイトして、ゲームの実況して、登録者がいたり
いなかったりして、普通の会社に入って、なんとなくよくいるタイプの人になる」
菅原
「あの…もう少し夢があってもいいんだけど」
春田
「卒業したら、みんな行っちゃう。あたしだけ残される。あたしだけ、ここに
残って、毎日毎日おじいちゃん、おばあちゃんのお世話をして、昔話を聞いて、
痛いところ聞いて、同じような日が、同じように、同じように、過ぎていく。
どこにも…行けない」
あきら
「春…」
春田
「ごめん、あっきい。あたしは、このままでいい。このままがいい。明日になったら
みんないなくなる。あたしはずっと今日がいい。このまま…ずっと卒業式の前日でいい」
みんな
「…」
春田
「みんな、置いていかないで…」
あきら
「そんなこと言わないでよ」
りこ
「春さぁ、みんながみんな、自分の進路にそんな満足してると思う?」
春田
「だって…いろんな選択肢があって…そこから自分で決めて選んだでしょ。
あたしにはなかったもん」
りこ
「選択肢だったら春にもあったろ?」
春田
「なかった」
りこ
「本当にそうか?本当に春は選択肢がなかったか?てか、今だってもうないもん
なのか」
春田
「ないよ…」
りこ
「あんたが勝手に諦めただけなんじゃないのか?」
春田
「じゃ、何ができるの?!お父さんも、お母さんも働けなくて、そもそもこんな
田舎じゃ働くとこだって限られてて、うちにはお金が無くて…」
りこ
「あたしに言わせれば、春は、諦めるための理由を探してるだけだよ」
春田
「じゃ、りこちゃんはエステの学校に、誰のお金で行くの?」
りこ
「…」
春田
「自分のお金じゃないでしょ」
りこ
「…ふーん。春って本当はそういうやつなんだ」
春田
「そういうやつって何…みんなが勝手にあたしのイメージ決めてるだけじゃない。
あたし、別にやさしくないし、話聴くだけなんて、誰だってできるでしょ。みんな、
あたしのこと、いいこと言っといて、結局はあたし置いて、ここからいなくなるん
だから…みんな大っ嫌いだよ…」
春田、泣き出す。
春田
「でも、これでリセットされて、またみんなに会えるんだね。嬉しいな」
春田、何かを言いたそうだが、それを飲み込み、帰ろうとする。
春田
「帰る。みんな、また今日会おうね」
春田、教室へ入ろうとする。
春田の前に立ちふさがるあきら。
春田、あきらの脇をすりぬけようとするが、あきらがなおも立ちふさがる。
春田
「どいてよ…」
あきら
「わかった。今日はもうこれでリセットする。みんなは今日のこと忘れるけど、
あたしは覚えてる。春の気持ち、忘れないから。あたし、あんま春のことわかって
なかったかな」
春田、あきらの脇をする抜けるのを止め、のぞみや菅原のいる方から教室に
入ろうとして、のぞみや菅原の方へ行く。
いつの間にか、りこは手すりに寄りかかり外を眺めてる。春田は、その後ろを通り
過ぎて、のぞみや菅原の前へ行く。
春田がのぞみの前に来た時
のぞみ
「春、言ってなかったっけ?就職だって自分で決めたことだって」
春田
「…」
のぞみ
「…あたしだって栄養士の資格とれるかどうかわかんないし、本当にこれで
よかったのか、今でも不安だよ」
菅原
「俺だってさ…別に大学で勉強したいことあるわけじゃないし、案外、仕事を
続けた春が、一番しっかりするかもしれないんだよな」
春田
「…」
のぞみ
「(笑って)ま、いっか。じゃ、またね」
春田、教室に入る。
あきら、春田を追いかけて、教室へ入る。そのまま教室の中で春をつかまえる。
りこ、うんざりしてベランダに寄り掛かかったまま。
のぞみ、菅原は、困ったなあ、といった雰囲気。
のぞみ
「どうする、この空気」
菅原
「明日は卒業式だってのになぁ」
あきら、春をつかまえたが、どう話そうか迷ったまま。
春田
「何…」
あきら
「やっぱこれだけ、今日のうちに言っときたくて…あたしは、春のこと…
春が抱えてる不安とか…よくわかってないかもしんないんだけど…ただ、
あたしは、これからも春に力になってほしくて」
春田
「あたし、もう何もできないよ」
あきら
「今までと同じでいいんだ。あたしの話、じっと聞いてくれたじゃない。
春は誰でもできるって言ったけど、それってなかなかできるもんじゃないよ。
だから、大切な大会の前の日、あたし、必ず春に電話してた。インターハイ
の前日もそうだった。春、覚えてる?」
春田
「(うなずく)」
あきら
「あたしの緊張とか不安、みんな聞いてくれた。ただ聞いてくれてたことが、
どれだけあたしの勇気になったか」
春田
「いいんだよ、そんな…無理して言わなくても」
春田、教室から廊下に出て、去っていく。
あきら
「(春田を追いかけながら)まだ、話終わってないよ、春!!」
あきら、春田を呼び続けるが、春田は舞台からはけていく
あきら、廊下を歩く春田を教室から声をかける。
あきら
「このまま明日になったら、春は今日のこと忘れちゃう!!
春が覚えているうちに聞いてほしいんだって!!」
春田
「…」
あきら
「お願いだから、最後まで聞いてよおおおお!!」
しばらくして、春田が戻ってくる。
春田
「…はい」
あきら
「…確かにあたしは春と離れてしまう。でも、それって距離の問題であって…
あたしは、ずっと春にいてほしくて…あー…うまく言えないな…ただ、無事に明日が
きて、卒業式があって、あたしが大学行っても、将来、実業団入っても、あたし、
こうして今みたいに、春に話を聞いてもらいたいって思ってる」
春田
「あたしに…」
あきら
「そう、春に。あたし、春がどんなに仕事で忙しくしてたとしても、ちゃんと
時間つくって、あたしの話、聞いてくれる。なんか、そんな気がしてしょうがないん
だよね」
春田
「わがまま」
あきら
「わがままだよ、あたし。だから、いろいろやってみたくなっちゃって、春の
助けが必要になるんだ。ねえ、あたしは、春の力になれない?」
春田
「あっきいが?」
あきら
「春が少しでも、誰かに頼れるようになれたら、春の未来も変わると思うよ。
まあ、あたしが言うのもなんだけど」
春田
「違うんだよ、あっきいと私じゃ」
あきら
「何も違わないよ」
春田
「持ってるひとが、そういうこと言えるんだって。あっきいは違う。特別なの。
才能があって、みんなに注目されて…でも私には、無いから、何も」
あきら
「あたしは、違わないと思う。春はどこにも行けない、何にもなれないって
言うけど、ただ、時間はみんなに流れてくじゃん。今までずっと一緒だったけど、
これからはみんなひとりで未来に進まなきゃならない。だから、どこに行こうと、
何になろうと、みんな不安になる。あたしだって、のぞみだって、菅原だって、
りこだって」
りこ、自分の名前が出て、振り返る。
そのまま、りこはあきらを見つめる。
あきら
「どんな選択だって、正解かどうかわからないし、そもそも正解なんてない
のかもしれない。わかんないじゃん、誰も。それでも、みんな選択したことに
結果を求められる。結果が出ない時は、自分の選択を疑う…そんなもやもや
した世界に、みんなひとりで進まなきゃならない。同じじゃない?」
春田、りこを見つめる。
りこ、一瞬、春田と視線が合うが、すぐにそらす。
あきら
「ただ…あたし、このタイムループでわかったんだけど…先に進めるって、
それだけで素敵なことなんだよ。それにさ、春は何もなくないじゃん。春には…
あたしがいる。のぞみもいる。りこもいる。なんなら菅原だっている」
春田
「…」
あきら
「だからさ、そんな独りで負けた気にならないでよ、春」
春田、のぞみや菅原やりこの方を見つめる。
のぞみ、手をふる。
菅原はサムアップ。
りこは春田に背を向け、春田が見つめたことに気づきさえしない。
あきら
「たとえ距離が離れても、みんな春とつながっていたいって思ってるんだよ」
春田
「…」
のぞみ
「当然」
菅原
「うん」
あきら、笑顔。
春田
「…あたし…まだ、あっきいの力になれるのかな?」
あきら
「なってるよ。今も。これからだって」
春田
「卒業しても…」
あきら
「卒業しても!」
あきら、うなずく。
春田、うなずく。
春田、のぞみと菅原の元へ行く。教室の窓越しに、2人に話しかける。
春田
「あの、ごめん、さっきは…」
のぞみ、春田に肩パンチ。
春田
「痛っ!」
のぞみ
「なんだか春、話しやすくなったわー」
春田
「のぞみちゃん…」
のぞみ
「どうせだから、いいよ、のぞみで」
菅原
「お前、水くせえよ。つきあい古いんだから、本心言えよな、たまには」
のぞみ
「たまにかい」
春田
「ありがとう」
りこ、春田と視線を合わさないまま
りこ
「ちょっと、春」
春田
「りこちゃんもごめんね。あたし…」
りこ
「いいから、さっき、あっきいと何話してたの」
あきら
「あたしと?」
春田
「それは、別に大して」
あきら
「ま、わかりやすく言うと、卒業後もあたしのメンタルサポートしてねって、
お願いしてただけなんだけど」
りこ
「ふーん…」
春田
「あのね、りこちゃん、さっきのことなんだけど」
りこ
「まぜてよ、それ」
あきら
「は?」
りこ
「そんな楽しそうなことするんなら、春だけでなくあたしも混ぜてよ!」
春田
「え?」
りこ
「あっきいのサポート、あたし、エステの中でもボディケアの勉強するからさ、
あっきいの身体のメンテナンス、あたしにやらせてくんない?」
あきら
「りこって、そうなの?」
りこ
「さっき、あっきいの身体触って思った。やっぱ、あたし、あっきいの
ボディメンテやってみたい。スポーツのこともちゃんと勉強するから。春が心の
メンテナンスなら、あたしは身体のメンテナンスやらせてよ!」
あきら、楽しくなってベランダに出てくる。
(教室の中には春田が残される)
あきら
「えー?何?何?チームっぽくなってきた!」
りこ
「チームにするなら、のぞみもつけるからさ!」
のぞみ
「あたし?」
りこ
「のぞみは栄養士の資格取ろうとしてる」
のぞみ
「つまり?」
りこ
「(のぞみに)あんたは、あっきいの食のサポートすんの!」
あきら
「チームだ!」
あきら・りこ
「わああああ!」
と2人、盛り上がる。
のぞみ
「いやいや、うちら住むとこバラバラなんのに」
りこ
「あたし、あっきいのとこ行くよ!あっきいの大殿筋見たいもん!」
あきら
「こわ…」
のぞみ
「あたしや春は無理でしょ」
りこ
「そこは菅原が何かやってくれるはず」
菅原
「俺?」
あきら
「菅原が?」
りこ
「ゲーム実況やるくらいなんだから、あたし達がWEBでやりとり
できるよう設定するくらいワケないでしょ」
菅原
「そりゃ、ま、できるけどさ。でも、結局、国の役人に利用されてる
だけって気が…」
あきら
「いやいや、あたしの命もかかわってるから」
のぞみ
「ただ、これで菅原、卒業後も春とのつながりができるよ」
菅原
「え?あ…」
春田
「どういう意味?」
のぞみ
「こうしてみんながつながれることは、春だけのためじゃない。
みんなのためでもあるってこと。(りこに)でしょ?」
りこ
「そういうこと!」
菅原
「(まんざらでもなく)じゃ、まあ。わかったよ」
りこ
「のぞみもこれで実践積めるからね」
のぞみ
「あっきいが結果出せば、あたしの実績にもなるわけか」
あきら
「そうだよ!みんなあたしを上手く使えばいいんだよ!」
りこ
「決まりじゃね?チームあっきい!」
のぞみ
「チーム…」
菅原
「(嫌そうに)あっきい?」
みんな、笑う。
春田
「みんな、楽しそう」
りこ
「なんだよ、春。ワクワクしない?」
春田
「……してる」
りこ
「それじゃあ、これからのこと、昼食べながら話そうよ」
あきら
「言っとくけど〇〇は閉まってるからね」
のぞみ
「あ、そうなんだっけ?」
あきら
「マックなら開いてるから」
りこ
「どっちでもいいよ。ちょ、みんな集合!」
春田
「りこちゃん!」
りこ、春田を見つめる。
みんながベランダに集まる中、春田だけが教室の中から、みんなを
遠まきに眺めている。
春田
「りこちゃん…さっきの話なんだけど…」
りこ
「自分で決めたことだからとか…要は、自分を納得させようとしてただけ。
なのに…うちらにあてこすりするようなこと言って…勝手なことばっかり。春が
そんな奴だなんて思わなかったよ…」
春田
「ごめん…」
りこ
「(笑って)まあ、嫌いじゃないけど」
春田とりこ、笑いあう。
※春田はまだ、教室の中。
あきら
「おいでよ!春!」
菅原
「春田!」
のぞみ
「春」
春田、みんなに求められる嬉しさに泣けてきて、涙をぬぐう。
音楽(例えばMrs.GREEN APPLE『春愁』)
春田、教室からベランダに出て、みんなに加わる。
りこ
「よおし!チーム結成だな!写真撮ろう、写真!みんな来て!」
りこ、あきらの周りにみんなを集める。
りこ、スマホを取りだし、自撮りでみんながフレームに収まるよう手を
伸ばすが、思うように収まらず
りこ
「菅原、まかせた!」
りこ、菅原にスマホを渡す。
菅原
「しょうがないなあ」
菅原、バッグから自撮り棒を取り出し、スマホをセットしながら
菅原
「ただ、俺、どうもチームあっきいって名前がなあ」
春田
「えーなんでー?いいじゃん」
菅原
「お前、尾瀬の言うこと聞きすぎ」
あきら
「当たり前でしょ、あたしの春なんだから!」
菅原
「なんだかな。(フレームを定めようとして)はい、みんなもうちょい集まって」
みんな、ぎゅっと集まる。
菅原、フレーム確定後
菅原
「OK!そのまま!」
りこ
「みんないい?」
あきら
「いいよ!」
りこ
「よーし!チームあっきいー!行くぞ…あ、やっぱこれ、あっきい言って!」
みんな、一瞬緩和する。
菅原
「おい…」
りこ
「や、こういうのはリーダーが言わないと」
あきら
「無茶ぶり…でも、みんなで前に進むんだもんね、わかった!
じゃ、みんなもっかい集まって!」
あきらの周りにぎゅっとみんな集まる。
菅原、スマホのフレーム確定後
菅原
「OK!」
あきら
「じゃ行くよ!」
りこ
「行こう!」
あきら
「(絶叫で)チームあっきいいいいいい行くぞー!!」
みんな、手を挙げ
みんな
「おおーっ!!」
菅原、撮る。連続のシャッター音。
菅原、すかさず撮った写真を確認する。
みんなで画像を見る。
菅原
「ちょっと俺の表情がいまいち」
りこ
「(菅原のセリフに被せて)よし!昼飯で作戦会議だ!」
みんな、ばたばたと帰り支度。
写真画像の共有などしている。
のぞみ、いつの間にかスマホで〇〇にTELをして
のぞみ
「あれ?今日、やっぱ〇〇開いてるよ!営業してますってさ!」
りこ
「あ、じゃ〇〇行こう!急がなくっちゃ!」
のぞみ
「すぐ混むからね、あそこ」
あきら
「え?え?え?〇〇開いてるの?!」
のぞみ
「うん、開いてるみたいだよ」
あきら
「〇〇、開いてるなんて、初めて…」
のぞみ
「や、昨日も開いてたと思うよ」
あきら、感動にひたっている。
あきら
「うん…そうだよね」
りこ
「もう!みんな慌てるよ!ダッシュだって!早く早く!」
のぞみ
「はいはい」
菅原
「へいへい」
りこ、のぞみ、駆け出し、教室を出る。
菅原、後を追って教室を去る。
音楽、フェードアウト開始
春田、感動にひたっているあきらに声をかける。
春田
「あっきい」
あきら
「あ、行こうか」
春田
「これ」
春田、あきらのメダルを返す。
あきら
「あ…」
あきら、メダルを受け取る。
あきら
「さっき、ごめん。突き飛ばして」
春田
「あの…あっきい、あたしね」
あきら
「ん?」
春田
「…あたし、前から心理学ってちゃんと勉強してみたかったんだ」
あきら
「心理学?」
春田
「結構、本とか読んでたんだけど、働くし、もう必要ないかなって…
でも、やっぱり、やってみたい」
あきら
「それって…あたしのため?」
春田
「わかんない。ただ、あっきいやみんなとこれからのこと話してたら、
自然に、働きながらでも心理学、勉強したいって思いだして。大学行く
わけじゃないのに、笑っちゃうよね」
あきら
「ううん(否定)。笑わないよ。笑うわけないじゃん」
あきら、金メダルをあきらに渡そうとする。
あきら
「ねえ、やっぱ春がこれ持ってて」
春田
「えー?」
あきら
「違…あげるんじゃないの。ただ、春に持っててほしいんだ。それで、
あたしが春を応援してるってこと、忘れないでいて」
春田
「…いいの?」
あきら、うなづく。
春田、金メダルを受けとる。
あきら
「日が変わってもメダルが戻ってこないといいんだけど」
春田
「その時は卒業式ってこと?」
あきら
「そう。卒業式の前日はもうおしまい」
春田
「うん」
春田、利き手の拳を挙げて
春田
「チームあっきい、行くぞ」
あきら、利き手の拳を挙げて
あきら
「おう」
あきらと春田、ハイタッチ(又はグータッチ)する。
春田とあきら、笑う。
あきらと春田、教室を走って出ていく。
誰もいなくなった教室、ベランダ。
学校の終鈴が鳴る。
幕
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卒業式の前日に前日が前日を
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