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さとみとさゆり
作 遠藤悠
 



• 路上(夜)
  道端に座り込む女、佐登美(43)。
  暫く座ったまま頭をゆらゆら揺らしてい
  るが、唐突にえずく。
佐登美「おえっ」
  佐登美、何も吐かずにノロノロと足元を
  確認する。
  履いてるハイヒールの右片方のヒールが
  根本から折れているのを確認すると顔を
  顰めて大きく舌打ちする。
佐登美「最っっ悪」
  ハイヒールを脱いで左手にまとめて持ち、
  裸足で立つが嫌そうな顔をする佐登美。
  暗い景色の中、前方におでん屋の赤い提
  灯を見つけ、ゲップを我慢してからフラ
  フラと提灯に向かって歩き出す。

• おでん屋の屋台(夜)
  屋台の椅子に座り静かに熱燗を飲んでい
  る男、吉永(60)。
  店主の飯田(64)は黙々とおでんの火の
  通り具合を確認している。
  屋台の柱には飯田の趣味と見られる数年
  前の石原さとみがイメージキャラクター
  を務めた時のハイボールのポスターが無
  理矢理貼り付けてある。
佐登美「何見てんだコルァ」
  至近距離で突然聞こえた巻き舌のドスの
  効いた声に驚く吉永と飯田。
  声がしたポスターの方を振り向くと佐登
  美がゆらゆら揺れながらポスターを睨み
  小声でブツブツ言っている。
  時折左手に持ってるハイヒールを柱にぶ
  つけるのでヒールの当たる高い音が響く。
  同じタイミングで佐登美から目を逸らす
  吉永と飯田。
  暫くブツブツ続けていたのを突然ピタッ
  と止める佐登美。
  ポスターを睨んでいた表情のまま首をグ
  リンと動かし飯田を見る。
佐登美「あのぉ!おでん食べさせてもらって
 いいですかぁ?」
飯田「・・・どうぞ」
  ぎこちない動きで吉永の隣のスペースを
  手で示す飯田。
  おでんの小皿と熱燗の徳利を持って奥に
  詰める吉永。
  勢いよくドサッと空いたスペースに座っ
  てカウンターに突っ伏す佐登美。
佐登美「(低く唸る)・・・水」
飯田「はいよ」
佐登美「あと何でもいいんでおでんください。
 5個位」
飯田「はいよ」
  水を汲んだコップを突っ伏す佐登美の横 
  に置く飯田。
  そのまま箸でおでんを選んで小皿に盛り
  付ける。
  佐登美、コップの水を掴んで一気に煽り
  大きく息を吐き出しながらカウンターに
  強く叩きつける。
  その隣に静かに置かれるおでんの小皿。
  具は大根、卵、はんぺん、昆布締め、餅
  巾着の5種類で湯気を立てている。
佐登美「いっただきまーす」
  大きな口を開けて大根にかぶり付く佐登
  美。
 
  ×     ×     ×

  2本目の熱燗を飲みつつ静かになった佐
  登美を横目で盗み見る吉永。
  小皿に残った餅巾着を無言で見たまま動
  かない佐登美。
  が、突然手に持っていた箸を振りかざし
  餅巾着に突き立てる。
  驚いて振り返る吉永と飯田。
  二度、三度と餅巾着が刺された所で振り
  かぶった佐登美の腕を抑える吉永。
佐登美「何よ」
  佐登美に睨まれ少し怯む吉永。
吉永「食べ物を粗末にしちゃ駄目だ」
佐登美「・・・私はねぇ、野菜がいっぱい入
  った餅巾着が好きなのよ」
  怪訝な顔をする吉永。
  飯田、チラッと佐登美を見るがすぐにお
  でんに視線を落として火加減を調整する。
  吉永に掴まれた腕を下ろして箸を置く佐
  登美。
佐登美「好きだったっていうか、私の家では
 そうだった。だから作ってやったのにあい
 つ・・・。(うつむいて頭を抱える)餅巾
 着にそんな拘りある?普通。食べられりゃ
 何だっていいじゃない。私だって知ってた
 ら餅しか入ってないやつ作ったわよ。何で
 言わないで通じると思ってんのよ。ふざけ
 んな。死ねよ」
  何とも言えない表情で佐登美を見る吉永。
  佐登美、体を起こして天を仰ぐ。
佐登美「私の4年間何だったのよ。返せよ」
  佐登美から視線を逸らして気まずそうに
  冷えた熱燗の徳利を弄る吉永。
佐登美「40過ぎてもまだ彼氏いるから大丈
 夫って思ってたのに。親に何て言えば良い 
 のか分かんないじゃない。餅巾着一つでガ
 タガタ言ってんじゃねぇよ。43歳の女捨
 てるとか普通ありえないでしょ。最後まで
 責任取んなさいよ社会人だろ」

• 靴屋(回想)
  笑顔で靴を選んでいる佐登美と婚約者。
  ハイヒールを選び、店員が座った佐登美
  の前にしゃがんでハイヒールを履かせよ
  うとするのを手で制す婚約者。
  しゃがみ込んだ婚約者が自分の足にハイ
  ヒールを履かせている背中を照れた様に
  笑いながら見ている佐登美。

• おでん屋の屋台(夜)
  カウンターを右手でバンと叩く佐登美。
  椅子の左隣に置いたハイヒールが目に入
  り、払って椅子から落とす。
  佐登美、柱に貼られた石原さとみのポス
  ターを睨んで指差す。
佐登美「全部お前が悪い」
  カウンターから身を乗り出す飯田。
飯田「さとみが何か?」
吉永「さとみって・・・」
  呆れた様な顔で飯田を見る吉永。
  佐登美、半笑いで飯田と吉永の方を向く。
佐登美「私ね、佐登美って言うんです。その
 子と同じ。どうもー。お世話になってまー
 す」
  ふざけて会釈する佐登美に小さく会釈を
  返す吉永と飯田。
佐登美「私の婚約者だった野郎の苗字は石原
 でーす」
  虚ろな目で話す佐登美を痛々しそうに見
  る吉永と飯田。
  吉永と飯田を睨みつける佐登美。
佐登美「べっつに石原さとみって名前がどう
 こうで結婚したかったわけじゃないから
 ね? 言っとくけど。ただ偶然、偶然あい 
 つと結婚してたら私の名前は石原佐登美だ 
 ったってだけなの。分かる?」
吉永「はぁ」
佐登美「ま、友達には言いふらしたけどね。
 (鼻で笑って)やだ〜恥ずかしい〜なんつ
 って。40過ぎたババアが弁えもせずには
 しゃいじゃってさぁ。痛々しいの何のって。
 それで餅巾着が原因で破局でしょ?冗談に
 もなりゃしない。笑えねぇよ。死にてぇわ。
 どの面下げて振られましたなんて言えるん
 だよ。言えるわけねぇだろ。言うくらいな
 ら舌噛んで死ぬわ」
  吉永、何かを思い出し小さく吹き出す。
  目を見開いた怖い表情で吉永を見る佐登
  美。
佐登美「笑った?今」
吉永「あ、違う。君を笑ったんじゃ」
佐登美「そんなにおかしいか。笑えるか。4
 3で男に馬鹿な理由で捨てられた女がそん
 なに面白いか」
  青くなった吉永、顔の前で手を振って慌
  てふためく。
吉永「違う違う誤解だ。君を笑ったんじゃな
 い。ただ」
佐登美「なによ」
吉永「・・・家内が、前同じ様な事を言って
 いたと思って」
  少し驚いた表情をした佐登美。
  深い溜息を吐いてカウンターに突っ伏す。
佐登美「で」
吉永「ん?」
佐登美「奥様は何て?」
  少し迷った様に飯田を見ると、興味津々
  といった顔で前のめりに吉永を見ている
  飯田と視線が合う。
  飯田、サッと目を逸らしわざとらしく咳
  をしてカウンターの奥でおでんを弄る。
  溜息を吐く吉永。
吉永「・・・大した事じゃない。俺の苗字が
 吉永で、家内の名前」
  勢いを付けて身体を起こす佐登美。
佐登美「もしかして小百合さん!?」
  佐登美の勢いに押される吉永。
吉永「あぁ」
佐登美「え、すごーい」
  今までの表情が嘘だったかの様に楽しそ
  うな顔になり、素直に感心してる様子の
  佐登美。
  ホッとする吉永。
吉永「凄い、のかな?」
佐登美「いや、凄いですよ。だって吉永小百
 合ですよ?え、漢字は?」
吉永「同じだ」
佐登美「えぇ!?凄い凄い!」
  笑って顔の前で両手を合わせる佐登美。
  釣られて笑う吉永。
  飯田もおでんを見ながら頷く。
  徳利を弄りながら笑って話す吉永。
吉永「俺にはよく分からなかったが、あいつ
 も喜んでたよ。普段静かなやつなのに珍し
 く。だから覚えてる」
佐登美「へー。・・・吉永さん奥さんの事好
 きなんですね?」
  ニヤニヤ笑いながら言う佐登美に渋い顔
  をする吉永。
吉永「何を今更そんな。普通だろ普通」
佐登美「へ〜〜〜」
  吉永が決まり悪そうに咳をして冷たくな
  った熱燗をお猪口に注ごうとすると、そ
  れを奪い取り注ぐ佐登美。
吉永「・・・ありがとう」
佐登美「いえいえ。(自分の徳利と吉永の徳
 利をカウンターに置く)大将、新しい熱燗
 ください。吉永さんと私の。(吉永をチラ
 ッと横目で見て)奢りますよ」
  首を振る吉永。
吉永「そんなわけにはいかない」
佐登美「良いんですよ今私奢りたい気分なん
 だから。あれです、さっきまでの謝罪とい
 うか口止料というか。兎に角、奢らせてく
 ださい!」
  頭を垂れる佐登美に、困る吉永。
吉永「・・・(溜息を吐いて)そういうこと
 なら。一杯だけ」
  顔を上げた佐登美、得意げに笑って頷く。

 ×     ×      ×

  熱燗の空いた徳利が佐登美と吉永の前に
  2本ずつ並んでいる。
  佐登美は水の入ったグラスを持っている。
  吉永はお猪口はくるくる回している。
佐登美「へぇ、公務員」
吉永「60で定年だよ。有給も溜まってたか
 ら使わせてもらって1か月早い定年退職」
佐登美「(頭を下げて)お疲れ様でーす」」
吉永「うん(頷く)」
佐登美「じゃあこれから小百合さんとずっと
 一緒ですね。家事手伝ってあげないと」
  お猪口を回していた吉永の手が止まる。
吉永「そうしようと思ってたが、出来なくなったんだ」
佐登美「・・・」
吉永「死んだんだ、あいつ」
  佐登美の顔が徐々に曇っていく。
吉永「胃癌でぽっくり逝っちまった」
  お猪口からぬるくなった熱燗を飲む吉永。
  慌てて吉永に向き直る佐登美。
佐登美「あの、私、すみません」
吉永「(笑いながら手を振って)いいよそんな。
 一年も前のことだし。謝ってもらう様なこ
 とでもない」
  おでんの煮える音だけが流れる。
  熱燗を飲み干す吉永。
吉永「俺は昔から旅が好きなんだ。学生の頃
 からあいつを引っ張って電車に乗って色々
 回ったよ」
  しみじみと聞いている佐登美。
吉永「役所で働いてる内は忙しくて、行事や
 ら付き合いで休みは消えるし、有給取るの
 も申し訳なくて結局最後に行ったの
 は・・・30年位前になる。いや、もっと
 か。何処だったかなぁ、あれは」

• 土産物通り(回想)
  リュックサックを背負った20代の吉永
  と妻の小百合がズラッと並ぶ土産物を並
  んで眺めている。
  派手な赤い帽子を持ってしきりと話しか
  ける吉永に、困った様に笑い首を振る小
  百合。
  そのまま歩いて行ってしまう小百合を、
  残念そうに帽子を戻してから追いかける
  吉永。

• おでん屋の屋台(夜)
  佐登美は水のグラスを置いて、遠くに浮
 かぶ月を眺めている。
吉永「次に行くところは決めてあった。二人
 とも四国は行ったことがなかったから、道
 後温泉に入って坊ちゃん団子でも食べよう
 ってな。退職したらと思ってたが・・・」
  振り返る佐登美。
佐登美「行かないんですか?」
  笑って首をすくめる吉永。
吉永「行きたいけど億劫だ」
佐登美「行った方が良いですよ」
吉永「(困った様に笑って)そうかなぁ」
  おでんを見ている飯田、こっくりと頷く。
  それを見て吹き出す吉永。
  暫く笑ってから一つ頷く。
吉永「大将にまで勧められたんじゃ、行かな
 きゃかな」
佐登美「ゆっくりしてくると良いですよ。時
 間はいっぱいありますし」
  また振り返って月を眺める佐登美。
  吉永も佐登美に倣って月を眺める。
  おでんに新たに大根を加える飯田。

  ×    ×     ×

  大根を食べる吉永と佐登美。
  欠片が落ちたのを追いかけた吉永が佐登
  美が裸足なことに気づく。
吉永「佐登美さん、ここまで裸足で来たの
 か?」
佐登美「まさか。途中まで靴履いてたんです
 けど踵が」
  地面に転がっていたハイヒールの右片方
  を拾って吉永に見せる。
  折れたヒールがプラプラ揺れているのを
  見て顔を顰める吉永。
吉永「これは履けば歩けるのか?」
佐登美「うーん、物理的に厳しいですねぇ」
吉永「帰れないじゃないか」
佐登美「そんなに家遠くないし、裸足でも何
 とかなりますよ」
  首を振る吉永。
吉永「止めた方がいい。怪我したら大変だ」
  鞄から財布を抜き出して席を立つ吉永。
吉永「大将、ちょっと出てくるけどすぐ戻る
 から、鞄は置いて行っていいかい?」
飯田「はいよ」
  飯田に向かって頷くと佐登美に向き直る
  吉永。
吉永「ちょっと待ってなさい。すぐ戻る」
佐登美「え、そんな大丈夫ですって本当」
  慌てて立ち上がろうとする佐登美を手で
  制して背中を向けると駆け足で去る吉永。
  佐登美、吉永の背中をボーッと見ている。
  5メートル程進んだ所でクルッと反転し
  て戻ってくる吉永を見て首を傾げる佐登
  美。
  真面目な顔で屋台まで戻ってくる吉永。
吉永「サイズは何センチだ?」
  吹き出す佐登美。
佐登美「(笑いながら)に、23センチです」
  真面目な顔で頷く吉永。
吉永「分かった」
  またクルッと背を向けて駆け足で去る吉
  永。
  腹を抱えて笑いながら吉永の背中が夜の
  暗さに消えるまで見送る佐登美。
  笑いが治るとカウンターに向き直り、困
  った様に飯田に笑いかける。
佐登美「行っちゃった」
  小さく頷く飯田。
佐登美「吉永さん、凄く良い人。小百合さん
 良い人捕まえたなぁ」
  ゆっくり頷く飯田。
佐登美「私にも良い人見つからないかなぁ」
  またゆっくり頷く飯田。
佐登美「吉永さんが20歳若かったらなぁ」
  首をすくめる飯田。
  吹き出す佐登美。
佐登美「何よそれ〜」
  ケラケラ笑う佐登美にちょい、と頭を下
  げて静かに笑いかける飯田。

   ×    ×     ×

  カウンターにレジ袋が置かれる。
吉永「すまん。店があんまり開いてなくてそ
 んなのしか無かった」
  汗をハンカチで拭きながら言う吉永に頭
  を下げて中身を取り出す佐登美。
佐登美「すみませんね、本当に」
  佐登美、袋から取り出した前面に大きく
  キティちゃんがプリントされた真っ赤な
  ラメ仕様のサンダルを見て何とも言えな
  い顔で固まる。
佐登美「(小声で)マジかよ・・・」
吉永「サイズを聞いた意味が無かったな」
  佐登美が何とも言えない顔のまま飯田を
  見ると飯田も何とも言えない顔をしてサ
  ンダルを見ている。
  半笑いで吉永を見る佐登美。
佐登美「絶妙に可愛いですね。ありがとうご
 ざいます(頭を下げる)」
吉永「あぁ」
  笑う吉永をちょっと何とも言えない顔で
  見てからハイヒールを袋に入れてサンダ
  ルを履く佐登美。
吉永「それ、持って帰るのか?」
  吉永を見てからレジ袋を見る佐登美。
佐登美「(吉永を見て)えぇ、まぁ」
吉永「荷物にならないか?」
佐登美「大丈夫です。女々しいですけどまだ
 ちょっと捨てるのは」
  気まずそうに黙る吉永。
佐登美「これ、ブランド物で」
吉永「そっちか」
佐登美「まぁあいつに買ってもらったやつな
 んですけどね」
  苦笑いする佐登美。
佐登美「誕生日プレゼントなんです。この前
 の」
  レジ袋を見ている佐登美。
佐登美「石原さとみが広告で履いてたモデル
 で、あいつが後ちょっとでお前も石原佐登
 美だからな、なんて言ってて・・・舞い上
 がって、馬鹿みたいに幸せで・・・っ」
  声を詰まらせる佐登美。

• 靴屋(回想)
  ハイヒールを履いた佐登美。
  婚約者、石原に抱きついてとても幸せそ
  うに笑っている。
  店内に貼られたポスターには佐登美と同
  じハイヒールを履いた石原さとみが綺麗
  な笑顔で写っている。

• おでん屋の屋台(夜)
  肩を震わせて泣く佐登美を辛そうに見て
 いる吉永。
  肩に手を置いていいのか迷う様に手を浮
 かせている。
佐登美「ごめんなさい、泣くつもりじゃなか
 ったのに・・・あぁもう面倒臭いなぁ。嫌
 になる本当に・・・」
  佐登美、涙を拭うが泣きやめない。
佐登美「私、石原、佐登美に、なりたかった」
  顔を手で覆って声を上げて泣き出す佐登
  美の肩を撫でる吉永。
  悲しそうな目で石原さとみのポスターを
  見つめる飯田。

  ×     ×    ×
 
  泣き止んでカウンターに突っ伏しレジ袋
  に入ったハイヒールを見つめる佐登美。
佐登美「私これ捨てて帰ります」
吉永「そうか」
  顔を上げた佐登美の顔はサッパリと明る
  い。
佐登美「新しい人、探しますよ。探せば小百
 合さんにとっての吉永さんみたいな人が私
 にも見つかるかもしれませんし」
  少し戸惑った表情の吉永。
吉永「それは、あまりお勧めできないな」
佐登美「・・・」
吉永「俺は多分あいつを幸せには出来ていな
 かったと思う。仕事ばかりで結局最後の約
 束だって守れなかったんだ」
  首を振る佐登美。
佐登美「小百合さんは幸せだったと思います
 よ。・・・だって吉永小百合になれたんだ
 から」

• 市役所窓口(回想)
  20代前半の吉永と小百合が婚姻届を記
 入している。
  妻の欄に丁寧に自分の名前を書き入れる
 小百合。
  緊張した面持ちで提出を終え幸せそうな
 笑顔を浮かべて吉永を見上げる。

• おでん屋の屋台(夜)
  黙ったまま目を瞑る吉永を見つめる佐登
 美と飯田。
佐登美「好きな人と結婚して吉永小百合にな
 れるなんて幸せですよ、小百合さんは」
  目を開いてはにかむ吉永。
吉永「そんなもんか?」
佐登美「(頷いて)そんなもんですよ。少なく
 とも私は石原さとみになりたくてしょうが
 なかったんだから」
吉永「なれるんじゃないか?」
佐登美「なりますよ。色んな所を探しまくっ
 て最高の石原を見つけてみせますから」
  笑って頷く吉永。
佐登美「それで、吉永さんが良ければ協力し
 てくれませんか?」
吉永「うん?」
佐登美「吉永さんの旅の相棒にしてください
 よ」
  驚いて目をパチパチさせる吉永。
  笑う佐登美。
佐登美「吉永小百合のご利益にあやかりたい
 んですよ」
吉永「しかし佐登美さん、俺と旅に出たって
 きっと楽しくないと思うぞ?」
佐登美「そんなことないです。楽しいですよ
 絶対」
  力強く断言する佐登美に笑い頷く吉永。
吉永「分かった。じゃあよろしく頼むよ相棒」
佐登美「(ガッツポーズ)よっしゃ!」
吉永「(笑って)何処に行こうか?」
  吉永の前に手をかざす佐登美。
佐登美「あ、その前に吉永さんは道後温泉行
 かなきゃ駄目ですよ」
吉永「来るか?」
佐登美「(首を振る)いえ、吉永さんと小百合
 さんの邪魔はしませんよ。小百合さんのこ
 とを思ってゆっくり楽しんできて下さい」
吉永「(頷く)あぁ、そうするよ。ありがとう」
  笑う佐登美。
佐登美「その旅が終わったら連絡下さい。待
 ってますから。その次はご一緒させて頂き
 ますね」
吉永「分かった。リクエストはあるかな?」
佐登美「んー。浮かばないなぁ」
飯田「ここがいいと思う」
  吉永と小百合が飯田を振り返ると、飯田
  はおでんの菜箸で石原さとみのポスター
  を指していた。
  分からない表情の吉永と佐登美。
佐登美「どういう」
飯田「小豆島。このポスターを撮った所だ。
 良い所だよ」
佐登美「え、行ったの?ポスターの撮影場
 所?」
  頷く飯田。
佐登美「石原さとみ好きすぎだろ・・・」
吉永「(笑って)じゃあそこにしようか。
 大将もそう言ってることだし」
佐登美「(頷く)大将がそう言うならそう
 しますか」
  大きく頷く飯田。



                  終


 
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