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2007年12月31日
■新聞の2007年演劇回顧
全国紙・5紙の2007年演劇界を振り返る記事です。
毎日新聞
12月11日に「現代演劇・ミュージカル:この1年」を掲載。
見出しは「目立った野田、蜷川らの活躍」で、
NODA MAP「THE BEE」日英版連続上演を冒頭で記載。
また72歳の演出家・蜷川幸雄の活躍に触れ、
「エレンディラ」「ひばり」「カリギュラ」「オセロー」などの作品や
高齢者劇団「さいたまゴールドシアター」の旗揚げ公演である
岩松了の「船上のピクニック」などを記しています。
ミュージカルでは、新作ベストに劇団四季「ウィキッド」を挙げつつ、
輸入の翻訳物が圧倒的なことを問題として記載。
その他では「ハレルヤ!」を印象に残った作品として記しています。
その他、公共劇場を代表する新国立劇場と東京・世田谷パブリックシアター開場10周年、
新国立劇場芸術監督栗山民也が最後の作品、後任に鵜山仁、
世田谷の野村萬斎芸術監督、
地人会が活動に休止符、
演劇人の訃報などに触れています。
その他挙げている作品や人物は以下。
・別役実「やってきたゴドー」「犬が西向きゃ尾は東」
・松本雄吉(維新派)「ノスタルジア」
・井上ひさし「私はだれでしょう」「ロマンス」
・三谷幸喜「コンフィダント・絆」「恐れを知らぬ川上音二郎一座」
・唐十郎(唐組)「行商人ネモ」
・斎藤憐(俳優座)「豚と真珠湾」
・マキノノゾミ、中島淳彦、青木豪、蓬莱竜太、長塚圭史、本谷有希子
朝日新聞
12月15日に「回顧2007:演劇」を掲載。
見出しは「日常の枠超えた作品に輝き ベテラン勢、鮮烈に壮大に」で、
野田秀樹「キル」のパンフレットから文章を引用し、近年等身大の演劇が主流の中、
日常のスケールを超えた作品が特に輝いて見えた一年だったと記しています。
作品では、こちらもNODA MAP「THE BEE」に真っ先に触れた他、
岡田利規、本谷有希子、前田司郎、三浦大輔、長塚圭史らの名前が文芸誌に並び、
賞候補にもなったことや、
蓬莱竜太、青木豪らの劇団外への戯曲提供も目立ったことに触れ、
若い劇作家の文学への進出に拍車がかかったことを特徴として挙げていてます。
その他、地人会が活動に休止符、
新国立劇場と東京・世田谷パブリックシアター開場10周年、
大劇場では新旧の英米翻訳ミュージカル上演が相次いだことなどを挙げ、
若手作家に当たる光、ミュージカルブーム、劇場ラッシュなどを
「明るい話題には違いない」としつつも、
「ずしりとした手応えを残す作品は、実績豊かな作り手によるものがほとんど。
新しい動きの芽は見えにくかった。」と総括しています。
・三谷幸喜「コンフィダント・絆」
・蜷川幸雄「ひばり」「カリギュラ」「船上のピクニック」
・井上ひさし「私はだれでしょう」ロマンス」
・別役実「やってきたゴドー」
・維新派「ノスタルジア」
・栗山民也「CLEANSKINS/きれいな肌」
・野村萬斎「国盗人」
・松本修「審判」「失踪者」
読売新聞
12月19日に「回顧2007:演劇」を掲載。
見出しは「若手が飛躍、中堅は充実」で、
若手は着実に成長、中堅も実力を発揮、ベテランは健在ぶりをアピールした1年、
と冒頭に記し、ここでも朝日とは正反対ともいえる見方をしています。
記事では、演劇(ストレートプレイ)を「せりふ劇」と命名し、
まず、1月の岸田國士戯曲賞選考会で最終候補となった作家たちを中心に飛躍と記載。
・青木豪「Get Back!」「佐賀のがばいばあちゃん」
・中島淳彦「殿のちょんまげを切る女」
・本谷有希子「偏路」
・赤堀雅秋「その夜の侍」
・蓬莱竜太「回転する夜」
・前田司郎「生きてるものはいないのか」
・タニノクロウ「野鴨」
中堅の充実ぶりとして、まず野田秀樹「THE BEE」日英版連続上演、
元気なベテランでは井上ひさし「ロマンス」に、始めに触れた他、
俳優として森光子と中村勘三郎が共演した「寝坊な豆腐屋」、
「実験」の橋爪功、「殿様と私」の加藤武、「カリギュラ」の小栗旬などに触れています。
・三谷幸喜「コンフィダント・絆」
・松本修「審判」「失踪者」
・坂手洋二「ワールド・トレード・センター」
・岩松了「シェイクスピア・ソナタ」
・野村萬斎「国盗人」
・マキノノゾミ(文学座)「殿様と私」
・白井晃「三文オペラ」
・ケラリーノ・サンドロヴィッチ「わが闇」
・別役実「犬が西むきゃ尾は東」
・蜷川幸雄「ひばり」
ミュージカルでは、「ブロードウェイ日本語版加速」と小見出し、
「ブロードウェー作品の日本版制作が、ますますスピードアップしている」と記しています。
また、ソニン・松岡充・西川貴教ら人気歌手のミュージカル挑戦が目立ったこと、
東宝「レ・ミゼラブル」が日本初演から20周年、
宝塚歌劇団では、星組の安蘭けい、雪組の水夏希、宙組の大和悠河と、
5年ぶりに同時期に3人のトップが交代したこと、
花組の春野寿美礼が「アデュー・マルセイユ」を最後に退団することを記載しています。
・劇団四季「ウィキッド」
・「ライト イン ザ ピアッツァ」
・「ウーマン・イン・ホワイト」(笹本玲奈)
・いのうえひでのり「TOMMY」
・松尾スズキ「キャバレー」
・「スウィーニー・トッド」(大竹しのぶ)
さらに別欄で「海外交流・新劇場」を記載。
「新劇場 相次ぎオープン」と題し、シアタークリエ・あうるすぽっとなどのオープンに触れた他、
経営悪化が原因で地人会が解散と記し、新劇の状況が厳しいことを記載しています。
・三谷幸喜「THE LAST LAUGH」の来日公演
・「マリー・アントワネット」2009年ドイツ上演
・日中共同制作「下周村」
日本経済新聞
東京版・大阪版で「回顧2007:演劇」を掲載。
東京では、NODA MAP「THE BEE」が圧巻、
蜷川幸雄・別役実・三谷幸喜の活躍を他紙同様挙げつつ、
本谷有希子に続く若手が出てこないことを憂いています。
また、映画監督の舞台演出が相次いだものの、不発だったことも記載。
大阪では、古典の名作を現代劇化する動きが目立ったことを冒頭に記し、
京都の劇団「遊劇体」、大阪の劇団「桃園会」、劇団「地点」などを挙げています。
また、劇団「デス電所」が精華小劇場で24公演したことを、
小劇場でロングランに挑んだ姿勢が記憶に残ったと記載。
他には、上方歌舞伎で若手の成長、文楽19年ぶりのアメリカ公演成功を記しています。
産経新聞
大阪本社版に「2007回顧」として「歌劇&ミュージカル」「演劇」を掲載。
「歌劇&ミュージカル」では、「全体的に小粒ヒット、OSKは大激震」と見出し。
宝塚で3組に新トップスターが誕生、退団は花組の春野寿美礼のみ、という記事で始まり、
「エリザベート」6度目の再演・通算観客動員150万人突破したものの、
新作にヒット作がなく、平日の大劇場には空席も目立つと記しています。
またOSK日本歌劇団では、トップの大貴誠が4月に退団、
9月には経営難に陥って会社更生法を申請、
事業譲渡先の企業が決まり、新トップの桜花昇などが11月に京都の南座で52年ぶりに公演、
来年4月には大阪松竹座公演が決まっているが、劇団存続の正念場になりそう、と記載しています。
・「エリザベート」ウイーン・オリジナル版
・「マリー・アントワネット」
・「ヘアスプレー」来日公演
・劇団四季「オペラ座の怪人」「ウィキッド」
「演劇」では、「上方歌舞伎再興の風、確実に強まる」と見出し。
上方の坂田藤十郎と江戸の市川團十郎が史上初めて同じ舞台に立ったことや、
文楽の豊竹十九大夫による横領事件など、主に歌舞伎・文楽について記しています。
また、難波の新歌舞伎座が2010年に上本町へ移転、
精華小劇場は大阪市の処分検討地リスト入りが判明するなど、
大阪の劇場事情が流動的であることに触れています。
・「夏祭浪花鑑」「鳴神」「蝉しぐれ」(片岡愛之助)
・「封印切」「京鹿子娘道成寺」(坂田藤十郎)
・「義経千本桜」「女殺油地獄」(片岡仁左衛門)
「若手が停滞」という朝日に対し、読売は「若手が飛躍」。
政治的論調と同様に、ここでも正反対の見解になっているのがおもしろいですね。
近年、ミュージカルや大型商業演劇から小劇場まで、幅広く演劇に力を注いでいる読売に対し、
古来から自社の政治的主張に沿う新劇に強い朝日、という見地から見ると
両社の見解が違う理由がわかるような気もします。
今年は最古の演劇鑑賞団体・大阪労演の解散もありましたし、
新劇の厳しさが顕著化してきた一年と言えるのかもしれません。